41匹目 評価といっても様々な観点があります

 受験合格者を決める会議はまだ続いている。そんな中、会議室にドタバタと入ってきた職員は、一通の手紙を差し出した。カタリーナは、その手紙を開いて思わず悲鳴に近い声をあげた。



「ベネデッタ殿下からの推薦状です!」


「「何!?」」



 王族からの推薦状という異例の事態に、試験監督係は慌てふためいた。副学院長も頭を抱えている。ただでさえ、受験生の合否判定に苦悩しているのに、さらに話がややこしくなるのだ。そりゃ頭痛もする。



「何でこのタイミングで?」


「わかりません」


「で、要件は? 誰の推薦状だ?」


「それが、フィオレンツァ・ダ・ヴェルディモンテ様です」


「ヴェルディモンテ様? あそこの家は、王族と何か関わりがあったか?」


「いえ、この手紙によると、つい先日お知りになったそうで」


「じゃ、何で?」


「それが、先日、川で溺れている子をヴェルディモンテ様が助けたらしく、その子が、ベネデッタ殿下の」


「ご子息だったのか?」


「いえ、ご子息の飼っているお犬だそうです」


「犬?」


「はい。そのお犬を、たまたま川の傍にいたヴェルディモンテ様が助けられたとのことです」


「何で川の傍にいたんだ? まさか受験に落ちたことを苦に身投げを考えていたのか?」


「落ち着いてください、副学院長。まだ試験結果は出ていません」


「あ、そうだった。じゃ、本当に何でそんなところにいたんだ。いや、まぁ、それはいいとして、それで、助けた謝礼としてベネデッタ殿下に推薦状を頼んだということか? 何と打算的な奴だ。権威を利用して試験結果を捻じ曲げようとは。私はそういうのがいちばん嫌いだ」


「いえ、そうではないようです」


「何だと?」


「手紙では、謝礼として望むものを与えようとしたそうですが、ヴェルディモンテ様は特にないと無欲な態度だったそうです。それでも何か一つ言えと命じたところ、南方地区の町モンタルチーノに孤児院を作ってほしいと言ったそうです」


「モンタルチーノ? 試験会場の近くの町だったな。何で、あんなところに? 何か縁があるのか?」


「さぁ。ただ、彼女の自分の欲より国の改善を考える姿勢に、ベネデッタ殿下は感動されて、ずいぶんと気に入られたそうです」


「なるほど」


「その後、ヴェルディモンテ様が、王立魔法学院の受験中だということをお知りになり、ベネデッタ殿下が自発的に推薦状をお書きになったそうです」


「あー、良い話だけど、余計に面倒くさいじゃないかぁ」


「ですねぇ」



 副学院長は、髪をくしゃくしゃとかき乱した。カタリーナも同じ気分である。非常にややこしい話になった。


 王立魔法学院は、その名の通り、王の名のもとに作られた独立機関である。ゆえに何人もその教育内容にも試験内容にも口を出すことができない。貴族であろうと、試験の結果に介入できないし、忖度もない。教員達も理解しており、誇りをもって仕事をしている。


 しかしながら、王族となれば話は別だ。もちろん原則論で言えば。原則論で言えば、王族といえど干渉されてはならない。だが、それは原則であって、実際には、さすがに王族の意見を無視するわけにはいかない。


 これ、誰が判断するんだろう、とカタリーナは周囲をきょろきょろと見まわした。少なくとも新米教師の自分ではない。というか、判断できない。何か言わないかなと、他の教員を見やるが誰も目を合わしてくれない。どうやら、マジで面倒くさい案件らしい。


 まぁ、こういうときは決まっている。カタリーナは、副学院長に、何とかしてください、と視線を向けた。彼はうーんとひとしきり唸ってから、ドンとデスクを叩いた。



「いくらベネデッタ殿下の推薦であっても、それをもってして試験の合否を変えてはならない。これは、二百年続く王立魔法学院の伝統だ。私達は、その矜持を忘れてはならない」



 おー、と感嘆の声があがる。カタリーナは、思わず拍手しそうになった。さすがは副学院長。王族からの推薦でも動じないその公平な姿勢は、教育者の鏡であった。


 確かにその通りだ。カタリーナは自らの姿勢を自然と正した。そのとき、副学院長は、ところで、と話を続けた。



「ところで、ヴェルディモンテ様の試験結果だが、何か加点できるところないか? 何かあるだろ。ちょっとみんなで探そう。こう、あれだぞ。不正にならない範疇でな。な!」



 ……あ、違うわ、これ。めっちゃ忖度してたわ。

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