20匹目 魔法試験開始!

 魔法マジーア


 世界のことわりに干渉し、物理法則を無視した事象を引き起こすことができる。火、水、土、風の4属性からなることが明らかになっており、それらを組み合わせれば属性に依らない様々な魔法を扱える。


 古来から多くの魔法使いがいじくりまわした魔法理論は複雑で、体系化されておらず、理解するのはかなり難しい。それを学ぶ場所が王立魔法学院であるはずなのに、入試に必要だなんて矛盾している、とフィオはかなり不満であった。


 王立魔法学院の入学試験。最初は魔法試験だ。


 フィオは、いそいそと手袋をはめた。魔法を扱うための媒介、魔法具オジェト・マジコである。先にも述べたように魔法理論は複雑である。そもそもよくわかっていない部分も多い。よくわからないけれど、これを持っていると、うまく魔法が扱える、それが魔法具である。貴族であればそれぞれ魔法具の一つや二つを持っている。フィオも、父からヴェルディモンテ家の誇る魔法具を借りてきた。それが手袋。周りを見ると、他の貴族も魔法具を装備していた。モノは様々で、帽子だったり、杖だったり、箒だったり。あまりに多種多様で、今から何が行われるのか余計にわからなくなる。


 場所は、だだっぴろい広場。ただ平場というわけではない。岩山があり、草原があり、小さな池もある。聞けば、普段は軍の演習場らしい。受験生は、その入口付近でたたずんでいる。



「それでは、これより魔法試験を始めます」



 説明員が、拡声魔法を使って声を発する。障害物がないので、声が空に抜けて聞き取りづらい。フィオは声の方に一歩寄った。



「使用してもよい魔法具は各自一つです。試験時間内は、このフィールドを自由に移動していただいてかまいません。しかし、終了時刻には必ずここに戻ってください。それから、魔力の使いすぎには気を付けてください。例年、魔力切れで倒れる方おられます」



 説明員は、物騒なことを言う。まぁ、皆、真剣に挑んでいる。夢中になって魔力切れになることもあるだろう。フィオも気を付けなくては。試験中の魔力切れは、そこで失格である。


 ついに始まるとなって、受験生は息をのむ。周囲を見まわして、視線で牽制する者もいる。殺伐とした空気、かまえられる魔法具、今にも、バトルロイヤルが始まりそうな雰囲気である。


 が、そんな物騒なことはしない。



「ご存じの通り、魔法試験では、各自一点、芸術作品を制作していただきます」



 芸術アルテ


 そう、芸術である。


 魔法を使って戦ったりはしない。


 実のところ、現代戦で、個人の扱う魔法が用いられることはほとんどない。昔はあったらしいのだ。火の魔法を使って敵を焼き払ったり、氷の魔法で相手を氷漬けにしたり。しかし、魔法は個人の才能や魔力量によって出力は様々で安定せず、まともに扱える者を揃えるのも一苦労。それならば、魔法を使えない兵隊を倍用意した方が強い。誰でもある程度扱える兵器が整備されると、もはや、戦争における魔法の役割は終わりを迎えた。


 王立魔法学院でも、そんな時代の流れを反映しており、魔法を使った戦闘などはなく、もっぱら魔法を芸術方面に活かす技量をみるようになっていた。


 ということで、最初の試験は芸術である。制限時間内に、魔法を使った芸術作品を一つ作り上げる。材料はこの演習場にある自然物全般。作品がいかに優れているかだけでなく、いかに魔法を作品に活かしたかも評価される。そんな試験である。


 何の意味が……、とフィオは内心思う。


 そもそも、フィオは魔法というものがあまり好きではなかった。なぜなら実用性がないからだ。火ならば普通に起こせばいいし、水なんて魔法で造らなくても湖からくんでくればいい。わざわざ魔法でやる意味がわからない。芸術作品に使うなんて、もっと意味がわからない。普通に絵具で絵を描けばいいでしょうに。


 しかし、貴族は魔法を重んじるところがある。


 戦争で使われなくなって久しいというのに、いまだに剣技と同等に扱われる。伝統をありがたがる貴族ならでは。だから、こうやってむりくり魔法を使う場面を探しているのだ。



「この砂時計が落ちきるまでです。鐘で経過時間をお知らせします。3度目の鐘が鳴ったら、速やかにこの場所に戻ってきてください。それでは、開始してください」



 フィオが不満で脳内を埋め尽くしていると、いつの間にか試験が始まっていた。ぼーっとしてはいられない。走り出す受験生につられて、フィオは歩き出した。



「勝負よ、フィオレンツァ!」



 そんなフィオの背中に声をぶつけたのはキアーラ。勝負なんてしている場合ではないと思うが、調子を崩さないキアーラのおかげで、フィオは少しだけ落ち着いた。



「はいはい。じゃ、出来上がったら見せあいっこしましょうね」


「ち、違う! 私の作品を見て褒めて、じゃなくて、センスの差を痛感してほしいの!」


「私、あちらの方に行くので、時間になったらまたお会いしましょうね」


「あ、待って。……もう!」

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