21匹目 戦略は大事
さて、何を作るか。
フィオは歩きながら考える。この試験は毎年出題される。しかし、事前に何を作るか決めておくことはできない。なぜなら、作品のテーマが直前に発表されるからだ。
千年前に枯れた花の名前
説明員が告げた今年のテーマ。
……正直、意味がわからない。テーマを聞かされたとき、フィオはぽかんと口を開けた。周囲の者はうんうんと頷いていたが、絶対にわかっていなかったと思う。このテーマに共感できる奴は知ったかぶりか気が触れているかのどちらかだ。きっと後者だろう。勉強のし過ぎでおかしくなったと考えて
まぁ、昨年のテーマよりはマシだ。象の夢を泳ぐ鯨。象も鯨も見たことのないフィオには、どうがんばっても創作できないテーマである。その前は古典文学の一節だったか。広い知識も問うているのだろうが、さすがに悪趣味が過ぎる。
そういう意味で、今年のテーマはまだ理解できる。バックグラウンドに何かの引用がなければだが。
深読みをすればキリがないので、フィオは適度に諦める。今は、現状の理解の範囲で何を作るかを考えた方がよい。
とは言ってもなぁ。
良い作品をパッと思いつくような芸術的センスをフィオは持ち合わせていない。ということで、フィオは少し歩くことにした。この試験のいいところは、他の人が何を作るのか見れることだ。いい考えがあればパクろう。
手の早い受験生は、もう作成に入っている。まず多いのは岩場に向かう者。彼らは岩場を切り抜いたり、粘土のように
どれがいい、というものではない。それぞれアピールできるポイントが異なる。岩場の掘削などは強い魔法が必要となるし、絵具の抽出などは多様な魔法を組み合わせなくてはならない。自分の得意な魔法と、どのくらい加点できるかを照らし合わせて、皆々、題材を選んでいるのだ。
ある意味、それが他人の作成過程を見れる理由。見たとしても真似できない。
フィオにいたっては本当に真似できない。
できれば絵を描きたかった。芸術なんてものには、とんと
こんなふうにできることは限られる。
手数の少ない受験生はアイディアで乗り切るしかない。そういう人達は、まだ動いていない。人のいない地点を探し、誰かに真似されないように、こっそりやるのだ。
フィオはもちろん手数が少ない方。だから、アイディアを用意してきている。その地点があるかを散策しながら探しているのだけれど、なかったら木とか削るしかないなぁ、ときょろきょろ見まわしていたところ。
「あ、あったばい」
目の前にあるのは池。深さはなく底が見える程度だが、わりと広い。この試験会場、いろいろあり過ぎだろ、とフィオは思った。いや、フィオのようなことを考える人のためにわざわざ用意しているのか。
氷の魔法。
フィオが唯一まともに使える魔法である。魔法というもの自体に懐疑的であるフィオであるが、氷の魔法は魚の鮮度を保つのに使えると重宝している。特段、魔法の才能などはなかったが、得てしてモチベーションは才能を凌駕するもので、使っている内に得意魔法となっていた。
アイディアはいたって単純。氷の魔法を使って、池の水を凍らせる。そして氷細工を作ろうという考えである。
過去の試験の傾向から、意外と氷の作品は少ないとネッラが言っていた。それで、独自性を出すにはよいのではと、この作戦を採用したわけだ。
このアイディアには、試験会場に水場がある必要があるのだけれど、その条件はクリアした。フィオはそこで一安心したのだけれども、同時に問題が発生した。
「けっこう人がおるっちゃね」
池には既に7、8人の受験生が先着していた。発想はフィオと同じで、氷の魔法による造形。多いとは言わないが、少なくはないらしい。一人だけならば目立つのになぁ、とフィオは期待していたのだけれど、そんなにうまくはいかないらしい。
「まぁ、他にやりようもなかし、やるしかなか」
フィオは、やっと場所を決めて、作業にとりかかろうとした。手袋の裾をきゅっと引っ張り、池を見定めて、気合を入れる。と、そこでフィオはあることに気づいた。
「……魚がおると?」
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