暇つぶし
セイスモ
暇つぶし
僕は学区でも端のほうで登下校に時間がかかる。しかも両親が働いていてそれを待つので家に着くのはかなり遅くなる。いつも放課後は暇な時間を過ごしていた。しか
し悪いことばかりではなかった。その分少量だがお小遣いがもらえた。このお金でお
やつや飲み物を買っていた。
今日は避難訓練があるのでいつもと違い5時間で授業が終わり親が帰るまでが長い。何をしようかと考えながら授業を受けた。プランはあまり行っていない方に散歩をする方向で固まった。あとはより暇な授業を乗り切れば良い。暇といっていながら放課後は割と自由に何かできるので好きである。そんなことを思いつつ授業を受け終わるとあっという間に避難訓練に移行した。
校庭に皆が集合すると集団下校の指示が飛んだ。今日はそういう日らしい。避難訓練の時は集団で方向別に帰ることがある。普段その集団下校の班では上級生なのもあり僕が一番背が高く統率も取っていた。しかし、今日は違った。見慣れない女子を見上げながら後ろをついていくことになった。自分を含め皆が新参者についていくのをみて悔しさみたいなものを感じた。彼女の背中は自分の何倍も大きく見えた。児童が一人一人家にたどり着き減っていく。彼女も学校から家が遠く最後には2人になった。
2人になった時ぐらいは自分が先頭に立ちたくなり彼女の前に出て歩いた。しかし、道を間違えすぐに並んで歩くようになった。僕の方が家が遠かったので彼女の家を寄るルートで帰っていたので普段見ない道ばかりだったのだ。そこで各々のことを話した。親が転勤族の影響で先月転校してきたこと、学年が一つ上であること、ツムツムにハマっていることを彼女は話してきた。自分も親の影響で放課後暇つぶしをしていること、放課後のジュースとおやつの素晴らしさを伝えた。そんな話をしている時ちょうど自販機を見つけた。自分の娯楽の要であるお小遣いを取り出し自販機に入れた。そして自分の大きさを示すために飲んだこともない一番上段の飲み物を指してこれがうまいと言いボタンに手を伸ばす。しかし、つま先立ちしても全くボタンに手が届かなかった。その時後ろから伸びてきた白い手がそのボタンを押した。日も傾いていき大きくなった彼女の影に自分が包まれた時だった。飲んだこともない炭酸は刺激的だった。炭酸は苦手だったがなぜか飲みやすかった。そうしてあっという間に500mlのペットボトルは空になった。
それから下校が同じタイミングである毎週火曜日は一緒に帰るようになった。優しい彼女は夕方頃まで一緒に暇つぶしに付き合ってくれた。2人での暇つぶしは刺激的で毎日たくさんの発見をした。昔歩いたことある道でも彼女は自分が思わなかったことを思い、見つけなかったものを見つけた。そして謎があると彼女はすぐに答えを教えてくれた。もっともスマホで調べてのことであるが、、、そのスマホでゲームをすることも携帯を持っていない自分にとって新鮮だった。また、優しい彼女は1人で帰る時でも楽しめるような場所を色々教えてくれた。本屋、迷路の入り組んだ雑木林、夕陽の綺麗な丘等々である。最近引っ越してきたはずなのによく知っているなと思った。人生の先輩でありなんでも知っている彼女にどんどん惹かれていった。暇つぶしの時間は短く感じるのに緊張で喉が渇くのかペットボトルは毎回すぐ空になった。暇つぶしは生きがいになっていた。
しかし、数ヶ月たったある日から火曜に彼女は現れなくなった。不思議に思いつつその日は彼女に教えてもらった本屋で時間を潰した。次の週もその次の週も彼女は現れなかった。彼女の家に行ってみると洗濯物が干しておらず電気も付いておらず、人の住んでいる雰囲気がなかった。インターホンを鳴らしても勿論返答はなかった。
次の日学校で彼女のクラスを廊下から覗くと彼女が座っていた隅に席はなく、使っていたであろう席は後ろの残りの机と一色単に重ねられていた。勇気を出して彼女のクラスメイトであった人に聞くと転校した旨を伝えられた。突如のことであったらしい。それから帰り道はまた1人になった。
帰り道、僕は手を伸ばして中段の缶コーヒーを買った。誰に見せるわけでもなく背伸びをして買ったコーヒーはただただ苦かった。喉が渇かず350mlのほとんどが残ったまま日暮れを迎え、いつもより長い下校を終えたのだった。
当時携帯を持っていなかったので彼女の連絡先は持っていないし、なんなら名前も覚えていない。時を経て今はもう苦労せず上段に手が届くようになった。恐らく彼女より背は高くなっただろう。しかし中身は変わらずあの時のような刺激的な日々、出会いを求めてしまう。そう思いながら入り慣れてない店に入り、苦手なコーヒーを注文した。勿論見栄を張るために。砂糖もミルクも入れなかった。白い手で手渡されたそれは勿論苦かった。しかし、刺激を得た私は少し満足気であった。
暇つぶし セイスモ @seisumo
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