Level‐2 潜入 東和民主共和国

第1話 プロローグ

 私はバイオAI、コードネームはツクヨミ。早瀬千絢はやせちひろという17歳の女性の脳内にあって、彼女の視覚と聴覚、言語中枢と、神経細胞を通じて接続している。活動エネルギー源は、彼女の血液だ。そう、私は万能細胞から生成され、彼女と一体化したコメ粒ほどの存在……。

 千絢のコードネームはアマテラス。彼女は生まれながらにして視力がなく、聴力も限りなくゼロに近かった。いわゆるだ。私が居なければ景色も見られなければ音も聞けない。正確には、音は少しだけ聞こえている。しかし、言語を聞き分けるほど明瞭には聞こえない。正常な聴力の人間からすれば、彼女が聞いているのはノイズだ。

 私を創ったのは神山神海かみやましんかい博士。都会の雑居ビルの屋上に神々研究所を構える謎の科学者だ。私は博士の手によって千絢に送り込まれ、サングラス型のSensory感覚 assistance補助 Instrument装置、通称SaIが拾った光や音、電波の情報を補正してアマテラスに送っている。

 私とアマテラスは一体化してから、博士の指示に従って行方不明の犬や猫を探す仕事をしていた。そうやって二人(私を一人と考えるとすればだが)の連携を高めるとともに、介護施設で育ち外出するのが稀だった千絢に外の世界を学ばせた。

 犬猫探しをマスターした後、家出人の捜索を命じられた。そうして最初に探した泊里有紀子とまりゆきこは人間の血液や精液を摂取するバンパイアだった。

 彼女は、東和民主共和国から不老不死の研究を委託された父親にバンパイア幹細胞を注入された。そうして老化速度が一般人の50分の1となる代わりに、他人の体液が必要な体質に変わったのだ。当の父親も自らバンパイア幹細胞を取り込んで、バンパイアと化していた。

 神山は彼らをに戻すと約束して研究を始めた。同時に私には、東和民主共和国の言語や文化、社会制度を学ぶように命じた。



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