第12話 ドーモ魔法使いデス。冒険者やらせてくだサイ。

 ……ふぅ、結構歩いたな。魔動車で5時間もかかる道を俺は歩き切ったぞ。明かりの一切が無い時間に出立し、目的地に着く頃には朝を過ぎていた。


 夜逃げを決行した今日、俺は実家にまで足を運んでいた。親不孝者とはいえ、流石に何の一言も無く家族に心配をかけるのは良くないと思い至り、謝罪と挨拶、それが叶わなければ書置きくらいは残そうと我が家に戻った来たわけだが……。


「ロォォオォォオオイィ!!!」


 ……少し離れた場所から、親父が俺の名前を叫んで疾走する姿を見てしまった。あぶねぇ。もう少し早く着いていたら鉢合わせるところだった。

 もう既に、俺が逃げ出したことは伝わってしまっているらしい。こんなに早く? とも思ったが、そういえば魔電話なる便利な物があったことを思い出す。情報の伝達が早い。今頃、学園はどうなっているのだろうか。


 ……いや、それよりもリズが気がかりだな。碌に挨拶もせず逃げて来たわけだが、あのボッチ系お嬢様が唯一とも言っていい友と離れ、どうなっているのか想像もできない。というか、想像もしたくない。


 だって俺ん家の周りに見慣れない、いや見覚えのある黒服が闊歩してるんだもん。そう、リズの家に住んでいる使用人たちだ。昔、彼女の家に遊びに通っていた時に何度か見かけたことがある。魔電話らしきもので周囲と連絡を取り合っている姿は……あれだ。何だっけ。あ、そうそう、トランシーバー片手に仕事をするSPのようだ。

 ……もしかしなくても俺のこと捜してます? リズの使用人が出張っているということはそういうことですよね? ということはリズお嬢様が俺の夜逃げに気付いたってことですよね??


 これは……うん、無理だな。手紙は既に用意しているが、この状況じゃ置きにも行けん。魔法でなんとか出来なくもなさそうだが、詠唱を聞かれるリスクが高い。

 あ、母さんが泣いて……いや、あれはキレてるな。額に青筋が立っている。顔に手を当ててるから紛らわしいよ。……うん、逃げよう。


 ということで……これからどうしようか。実家に戻った後のプランは何も無かった。突発的な夜逃げだしね。少しは準備した方が良かったか? 最悪サバイバル生活をしようとも考えていたが……勝手に領地を間借りしているとなると、何かしら国の機関が働きそうで怖い。これは最終手段だな。

 ダンジョンに居済むにしてもなぁ。ひっきりなしに冒険者とかがやって来るだろうし……。


 ……ん? 冒険者?




「初めまして、ですよね? 新規のご登録ですか?」


 衣食住を整えるため俺はモガガ村を離れ、そこからしばらく歩くと辿り着くとある町にやって来ていた。中央都市と比べ、少し開発が控えめな町だが……こういう少し発展途上な場所にも、冒険者ギルドは存在する。


 俺は、ここ『ボギー町』で冒険者をすることにした。図らず親父の願いを叶えてしまうのは癪だが、手っ取り早く金を稼ぐなら打ってつけの職業だ。安定性はお世辞にも良いとは言えないが、実力がモロに評価に関わってくるため、腕っぷしがあるならこれほど稼ぎやすい職業は他に無い。


「はい。お願いします」


「かしこまりました! ……失礼ですが、ご出身とお名前をお伺いしても?」


「マルヴォル中央都市に住んでいました。名前は……ルイスです」


「……上のお名前は?」


「え~と、マイタングです。ルイス・マイタング」


「……少々お待ちください」


 あれ? なんか怪しまれてる? そんなに偽名っぽいですか? 待てって言われたけど……なんか調べてるわけではないよね? 手続き、だよな。

 緑髪のギルド嬢さんの言われるがまま待ち続け、借りてきた猫のように大人しくしていると、ようやく名前を呼ばれた。


「マイタングさん、お待たせしました。ではこちらに手を乗せてください」


 ん、おもむろに裏に入って行ったとは思ったが、何か持ってきたのか……え゛。


「あ、あの、これは……」


「? 見るのも初めてですか? これは『ステータス板』といって、能力を判別できるんですよ。マルヴォルに住んでいたなら珍しい物ではないと思うのですが……」


 お、お前かぁ~! 嘘だろ!? ここに来て想定外のトラブルだ……。ま、まずい。五つの歳に見た物と全く同じだ。もしこれに手を乗せれば……やばい、厄ネタにしかならない。ここは何とか切り抜けなければ……!


「えっと、これって強制ですか? できれば、やりたくないんですけど……」


「は、はぁ……一応、任意ではありますが、その場合、安全を考慮して低ランクの依頼しか受注できませんよ……?」


「そ、それで大丈夫です! はい!」


「……」


 ……なんか、怖いんですけど。ギルド嬢さんが露骨にジト目を俺に向けている。

 しばらくの沈黙が続き、空気に耐えれなくなった俺は口を開いた。


「あの~……なにか問題でも……?」


「……つかぬことを伺いますが、ルイスさん、で合ってますよね?」


「は、はい」


「……実は先ほど戸籍情報を確認させていただいたのですが、マルヴォル都市にそのような方は存在しないんです。……嘘は言っていませんよね?」


「は、はは」


 マズイ。このままでは冒険者になれないどころか、然るべきところに通報されてしまうかもしれない。ここはどうにか事態を丸く収めなければ……!


「ちょっと事情がありまして……情けない話、今は雨風凌ぐところもなければ、食い扶持にも困っていて……ど、どうにかなりませんか!?」


「そう言われましても……」


「お願いです! 精一杯働くので!!」


 クソ、ここまでお願いしているのに響いている感じがない。ギルド嬢は変わらず俺を訝しんでいるようだ。必要なら土下座もしますけど……結構お願いしてますよ? 少しくらい揺れてくれたっていいじゃないですか。え? ちっとも心が動かない? お前人じゃねぇな。いや、耳尖ってるしエルフか。人じゃねぇなぁ。


「すみませんが、今日のところはお引き取りを……」


「ちょ、ちょっと待ってください! お願いします! 何でもしますからぁ!」


「……周りを見てください」


「?」


 ギルド嬢に言われるがまま辺りを見渡すが……うん? 何も無い、ですね。誰も居ないし……まあ強いて言うなら、このギルド、酒場と繋がっても無ければ部屋も狭い。しかしこの町の規模なら不自然ではない。何を見ればいいか分からん。


「見ましたけど」


「はい。御覧の通り、うちは冒険者が不足しているのが現状です。数少ない冒険者は全員依頼を受けて忙しなく働き、ここに人が溜まることはほとんどありません。本来なら猫の手も借りたいところ、なのですが……」


「……ですが?」


「……再びつかぬことを伺いますが、不審者である自覚はありますか?」


「はい?」


 何を言い出すんだこのギルド嬢は。俺が不審者? おいおい、確かに親父は髭面の巨漢だが、俺の顔面は爽やかな、いやイケメンである自負がある。両親ともに整った顔立ちで、更に俺は母親似だ。このイケてる面が怪しいって? HAHAHA! 冗談キツいぜ姉ちゃん。

 まあ、他に不審者らしき点があるとすれば名前と出身くらいだろう。実際偽っているわけだしな。もっと言えば恰好か? 確かにやたら露出面積が少ないし、夏を終えたばかりでこんな厚着しているのは……まあ変だとしよう。それが何だ! 俺のどこが不審者だって!? ……顔面でどうにかならんか。


「最近、冒険者を騙る犯罪も増えているようで、本部からも注意喚起されているんですよ。前までは並々ならぬ事情を抱えた人も多いことで判断基準は緩かったし、こんな辺鄙な場所で人を選り好みすることも、そうそう無いんですけど……ルイスさん? はちょっとご案内しかねます」


 はい、おっしゃる通りだと思います。改めて見ると俺って怪しさ満点丸なんだな。なんか、こっちが申し訳なくなってきたな……いや本当、すみません。

 し、しかし、ここで諦めるわけにはいかない! 人手不足とならば尚更だ。もしここで冒険者をできるなら、忙しい日々を送ることにはなるだろうが、安定した生活を望める。絶対に認めさせてやるぜ……!


「確かに、ちょっとは怪しい自覚があります。で、ですが! 人手不足なら絶対に力になれますよ!」


「はぁ、ちなみにご希望のジョブは?」


「魔法使いです! 魔法が得意なんです!」


「魔法使い……胡散臭さに拍車がかかりますね」


 おい、どんな偏見だ。全国の魔法使いに謝れ。


「……では、なぜそんな恰好をしているのかお尋ねしても? 怪しい自覚があるなら、もっとマトモな格好をするべきでは?」


「……思春期で、肌を晒すのが恥ずかしく」


「ナメてんですか?」


 くっ、手強い。今までは大体これでどうにかなっていたのに……!

 しかしマズイぞ。ギルド嬢さんの機嫌がみるみる内に悪くなってしまっている。完全に痛客の対応になっている。このままでは職どころか、俺の尊厳まで失われてしまう。これが、かつて数回も世界を救った人間の姿です?

 ……駄目だ。何も思い浮かばん。ほとんど寝てないのもあってか頭が働かない。とりあえず……今日のところは引き上げるか。負けたわけではない。決して。


「分かりました。とりあえず、今日のところは帰ります。まぁ、帰るとこ無いんですけど……」


 あ~野宿かぁ。可哀そうなヤツ感を出してみたが何も響いてねぇな。というか、この調子じゃ冒険者どころか他の仕事も出来ないんじゃ……。


「逃がすとでも?」


「え?」


 ギルド嬢はそう言うと、短い詠唱をし、遠隔でギルドの扉に鍵を掛けた。

 お、お前魔法使いなのかよ!? いやまぁ、確かにエルフだしな。なんでギルド嬢なんかしているのかは分からんが、それなりに腕はありそうだ。っていうか帰りたいんですけど? まだ何かあるんですか??


「あからさまな不審者をそう易々と見過ごすわけないでしょう。お縄についてもらいます」


 え?


「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


「問答無用!」


 あっっぶねぇ!! マズイ! このエルフ結構アグレッシブなタイプだ! 素手で俺を拘束しようと突撃してくるとは……!


「ちょ、タンマタンマ!」


「ちょこまかと……! 逃げるな!」


 狭い室内で始まった鬼ごっこ。自前の身のこなしで何とか避けてはいるが、それも時間の問題だろう。舐めプなのか知らんが相手は魔法を使っていないしな。多分あれだ。俺が魔法使いだということは信用しているのか、身体能力は大したことないと思われているのだろう。

 ならば相手が本格的に魔法で拘束しようとする前に、なんとか誤解を解かないといけない。働け俺の脳みそ……! 素早い判断力が肝心だぞ!


 しかし、それらしい理由はあるだろうか? 素性を明かせば身元が特定されてしまうだろう。ギルド嬢の口ぶりからするに、ギルドという組織はきちんと連携が取れているみたいだ。前世の建国の時点で、住民情報を厳重に管理するよう体制を整えたことがここで裏目に出るとは……。

 学園に存在を悟られてはいけない以上、俺が出せるカードは……無いか? 体の秘密も悟られてはいけない。何か、そこまで困らないもの……ハッ、これならまだ、そんなに重要ではないか……?


 しかし、これは相手の幅広い知識が前提の賭けだ。……無駄だったとしても、試す価値はある、か。


「ス、ストップ!!」


「……観念しましたか」


 俺は逃げるのをやめ、手を上げて降伏した。しかし、諦めたわけではない。

 ……これで無理だったらもう強引にでも逃げよう。その後はサバイバル生活だ。


「えっと、つかぬことを伺いますが……」


「……言ってみなさい」


「ギルド嬢さんは……えっと」


「名は明かしませんよ?」


「あ、はい。あの、ギルド嬢さんは、その……おいくつですか?」


「は?」


 はは、少し冷静になれ俺。こんなド直球に相手の経験値を測ろうとするんじゃない。肝心なのは、これを相手が知っているかどうかだ。


「あの、これ、分かります……?」


 俺はそう言った後……意を決して首に手を持って行き、布を少し捲った。

 露わになったのは、首を一周する一部が欠けた黒い線。それを目にしたギルド嬢は一瞬の間を置き、目を見開いた。


「それは……服従の呪いですか?」


「はい、もう解呪済みですが」


 俺がそう説明すると、ギルド嬢さんは哀れみの眼を浮かべ、警戒を解いてくれた。た、助かった……これが分かるということはこの人、相当歳いってるな多分。

 そう、彼女に見せたこれは……かつて俺が『ファベル』という名で生きた前前世、その生が奴隷であった証拠である。今となってはコンプレックスでもないが……他人に見せるのはあまり気分のいいものではない。まあ、今はもう、その存在さえ残っていない筈だ。……多分。


「……大変、失礼いたしました」


「いえ……それより、驚きました。これ知ってるんですね?」


「えぇ、とある本で読んだだけですが」


 え? 本? それって絶対、禁書の類ですよね? ……これ、あんまり深掘りしない方がいい気がするな。もしかしたらギルド嬢さんの過去にも何かあったのかもしれない。いや、その本の存在は気になりまくるが。できれば探し出して一冊残らず燃やしてやりたいが……ま、俺の知ったところじゃないか。


「こういう事情があって肌を晒すのに抵抗があって……服の下も、ね」


「それは……心中お察しいたします」


 まあ、ギルド嬢さんが思うよなものは何一つないんですけどね。大方、奴隷らしく生傷絶えないボロボロの体を想像しているのだろうが、全然そんなことありません。ちょっと昔……はっちゃけた色々がありまして、へへ。

 しかし恥ずかしい過去を晒したものの、それなりの成果はあった。少し騙すようで心苦しいが、これでギルド嬢さんは俺への信頼とは別に、様々な憶測を募らせることだろう。


「それで、その……できれば冒険者になりたいなと」


「!! 改めまして、ご案内します」




 はい、ということで無事に冒険者になりました。疲れた……こちらの事情が事情なだけあり、生活を始める基金を心配してくれたリーシャさん……後から名前を教えてくれたギルド嬢さんから紹介してもらい、経営面で問題を抱えていた安宿に住めることになった。

 いやぁ一時はどうなるかと思ったが、無事に解決してよかったよかった。


 その翌日から俺は働き始めた。それはもう意欲的に。食事代と宿代の支払いに追われていたという理由もあるが、何よりも他人と関わる頻度が減ったことで、久しぶりの平穏を感じていたことで心が軽かった。いやぁ、まるで全てのくびきから解き放たれた気分だったよ。

 リーシャさんの説明通り、Dランク以下の依頼しか受注できなかったが、むしろそれが良かった。やることと言えば薬草などの基本となる物資の収集や、時たま起こる町のちょっとした問題解決。たまにダンジョンから魔物が出て来ることもあったが、基本は他の冒険者が対応していたことで、俺に危険が及ぶことはなかった。色んな意味で。


 ……ただ、魔法学園での生活に多少は慣れていたこともあってか、少し寂しい思いもある。ふと友人達に手紙を出したい欲求に駆られることもあったが、めんど……頼もしい両親の姿を思い出し、その気持ちには蓋をしていた。

 しかし正直なところ、俺は農家よりも今の生活に充実感を覚えている。衣食住が安定し、仕事内容的に健康も保証されている。酒場に足を運べば、気の良い連中の雰囲気に浸りながら食事も楽しめる。チーズサンドイッチがここにもあって良かった。




 そうしてなんだかんだ時間が経過し、約2ヶ月後……一人暮らしを満喫していた俺に、ある転機が訪れた。


「確認します……はい、問題ないですね。ノルマ以上の納品により、報酬が増額されます。ルイスさんお疲れさまでした」


「ありがとうございます」


 いや~凄まじい満足感だ。これほど理想の生活があるだろうか? 冒険者……まあほとんど雑用しかやってないけど、俺にはこれが一番いい。やってよかった冒険者。かつて親父から打診され、何言ってんだと突っぱね続けていたが……親父、俺この仕事やって良かったよ。今は心底そう思うぜ……え? 親父が言ってた冒険と違う? いやいや、何も違わんよ。俺はここに骨を埋めるさ。もちろんいつか顔は出すよ。


「はい、報酬です。確認お願いします」


「……問題ないです。いつもすみません、リーシャさん。お世話になります」


「何も謝ることはありませんよ? 私しか雇えない、上の方に問題がありますので。ふふふ」


 HAHAHA! 小粋なジョークだネ。毎日、朝から夜まで働いている人のセリフは重みがあるなぁ。……どっちだろう。心の底から笑っているようにも見えるし、笑っていないようにも見える。少し休んで……。


「あぁ、そういえばルイスさんにお話があるんでした」


「? はい、なんですか?」


「実は折り入ってお願いがありまして……」


 リーシャさんがそう言いながらこちらに渡してきたのは、一枚の紙だった。

 内容は……ギルドリーダーからの指令?


「指令ですか?」


「はい。うちの無能……ではなく、ギルドリーダーは多忙ですので、こうしてギルドメンバーに委託する業務があるんですよ」


 へ~そうなんだ。ギルドの支部にはそれぞれリーダーが居るとはチラっと聞いていたが、確かに見たことないな。とりあえずリーシャさんの悪態は無視して、内容を眺めるが……げッ、こんなことすんの?


「あの、これもギルドの仕事なんですか?」


「ギルドの仕事、というよりかは福利厚生の一環ですね。腕が立つ冒険者も居れば、業績を振るわない方も居ます。大体はパーティを組むものですが……訳アリな方はそれも難しく、こうしてギルド側が教育するケースもあるんですよ」


 まんま会社じゃん。いや、まあ国に認可されている職業だし企業と変わりはないんだろうけど……教育かぁ。俺にできるのか? というかDランクの依頼しかやったことがないんだけど、これ役不足では?


「あの、嫌とかではないんですけど俺でいいんですか?」


「僭越ながら、私から推薦させていただいたんです。ルイスさんの働きには目を見張るものがあると思い、その実直な性格を買わせていただきました。私はあなたが適任だと思います」


 いや~なんか照れますね。仕事増やしやがって……なーんて! リーシャさんに思うわけないじゃないですか~えぇ。

 リーシャさんには恩がある。ほとんど俺を拾って世話を焼いてくれたようなものだ。このくらいのお返しはして然るべき、だな。


「分かりました! 俺からもよろしくお願いします!」


「ふふ、ありがとうございます。そうですね……この時間ですと、彼女は恐らく酒場にいらっしゃるので、今日は顔合わせだけでもしてみては? 私もご一緒しますよ」


 おぉ、話が早い。これから悠々自適な生活とは離れ離れになってしまうが……まあ、しばしの別れだ。すぐに戻って来るし、そう身構えなくてもいいか。

 ……というか、この時間から酒場に? まだ日も落ちていないぞ。……不安になってしまうのは、ただの気の迷いだよな?




 そして俺はリーシャさんと一緒に酒場まで足を運んだ。この時間にやって来るのは初めてのことで、少し新鮮さを感じる。

 ……そこそこ酒場に通う俺は、見慣れない顔が居ることに気が付く。いや、正確には顔は見えていないのだが。そして今のところ、この人しか店にいない。


「居ましたね。ルイスさん、彼女です」


 リーシャさんが手を伸ばした先に居る……女子は、テーブルに突っ伏していた。周りには夥しい数の空きグラスが転がっている。


「あぁ~ちくしょ~。あだしはどうせ~雑魚だす~」


「……」


 リーシャさんが目を伏せた。……これ、もしかして貧乏くじですか?

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