第9話 初戦は……え~と、名前なんだっけ
さぁ、いよいよメインイベントだ。これまで学び培った全てを出し切ると言っても過言ではないだろう。それほど、この祭りの目玉であり、重要な戦いだ。
残るは個人戦。ここまで勝ち上がって来た3チーム、総勢15人からトーナメント方式でただ一人の勝者を決める争い。ここまで絆を育んだ仲間でさえも敵となり、優勝者に与えられる『校則を変える権利』を求め、血で血を洗う戦いを繰り広げる。
これには学園長やカディアだけでなく、参加した選手やそれ以外の生徒までもが見物しに会場までやって来る。いや~緊張しますね。そしてその会場というのもコロシアムのような建物であり、まさに客が入るような決闘場だ。今回の体育祭のために用意した特設会場と聞いていたが、もしかしたらこれを機に様々な用途で使う予定なのかもしれない。
そして肝心のトーナメントだが、1回戦は14人から2人ずつそれぞれ区画を割り当て、7試合を並行して行う。1人はシード枠で、2回戦目から出場だ。
3回戦にて4人までが残ると、並列を止め1試合ずつ決闘を行い、更なる3回の試合の末、ようやく優勝者が決まる。もう昼過ぎだけど夕方までに終われるのか? スケジュールどうなってんだよ全く。
「それではまずシード権を決める抽選を行いますので、各自投票箱から1枚紙を取り出し、中身を確認してください」
案内の呼びかけで全員が一列に並び、順々に紙を引いていく。
さてと、俺は……赤い印が付いているな。
「私のは白紙ですわよ?」
「僕もだ」
「全員行き渡りましたか? 赤いマークのある紙を引いた方がシード枠となります」
おっと、こんなところで自前の幸運が発揮されてしまったようだ。こういうちょっとしたところで幸運を感じるのは久しぶりだなぁ。そういえば初めて転生をした際に与えられた『幸運』という転生特典だが、恐らく今世には引き継がれていない。というか、他の転生特典もだ。もしそうなら俺、もっと頭イイはずだもん。前世ほど頭がスッキリした感覚がこれっぽっちも無いからなぁ。
しかし運試しはいいが、シード権もらっても仕様がない。これはもっと勝ちに拘るヤツに与えるべきだ。譲渡とかできないか?
「これって誰かに上げれないのかな? リズ、これ要る?」
「? あっても損は無いのではなくて? 勝利する確率が上がるのですわよ?」
「いや、だって別に勝つ気無いし……」
「は?」
……あ、これキレたな。というか最近怒りすぎじゃないですか? もう慣れてきちゃいましたわよリズお嬢様。沸点が低いって次元じゃないですよ……しおらしくしてたら可愛いのになぁ。もったいない。そもそも、なんで怒ってるんだ?
「あなた、優勝する気があるのではなくて?」
「いや?」
「ロ、ロイ! 僕達の夢は……?」
「俺はあんまりだぞ? リズが勝てばいい話だし、そうじゃなくても困んないから」
そう、俺は現状に満足している。今回参加したのもリズとエルバート達を思ってのことだ。遊び場はあの家屋で満足しているし、リズが個人戦まで勝ち上がるという目的も達成した。それにリズの実力なら問題なく優勝を掴めるだろう。
俺は充分に青春を謳歌したさ。いや~夢のような時間だったなぁ。来年も開催されるなら出場してもいいかもね。
それに、俺が本気で勝ちに行っても誰も面白くないだろ?
「許しませんわよ」
「え」
「ロイ、私の話を覚えていますわね? 私は実力を認めてもらうために参加したのですわよ? あなたに忖度されて優勝しても、それは私の実力ではありませんわ。それでは私の願いは叶わない」
「いや、でも」
「……舐められたものですわね。それで私が喜ぶと思いになって?」
……リズは本気だ。彼女の真剣な眼差しがそう訴えている。彼女は自分が敗北する可能性が十分にあると承知の上で、俺に本気を出せと言っている。
何が彼女をここまで突き動かすのかは分からないが……こういう泥臭さは嫌いになれない。か~ッ! これだから友達はやめられねぇなァ! とはいえ、俺が目を付けられるのは嫌だな。できれば穏便に済ませたい。
「いいんだな? 俺達の秘密がバレても」
「問題ありませんわ。個人戦ではAランク以上の魔法は禁止されていますもの」
……あれ? そうだっけ? そうだったかも……ということは、俺が使う日本語の魔法は余裕でアウトだな。なるほど、より強い魔法を使えないとなると、問われるのは魔法の運用の上手さと、場当たり的な戦闘センスか。まあ実際、長文の魔法とか実戦向きではないしな。
なら何も問題は無い。無いが……あんまり余裕もぶっこいてられない。正直、俺のアドバンテージって、歴史から姿を消した魔法を扱える以外にほとんど無いからな。まだ成人したての同級生とはいえ、周りは人生の半分以上を魔法に懸けて来た奴らばかりだ。俺より魔法の単純な練度が高くてもおかしくはない。
……これ危機感持たないとヤバいか? どうしよう、リズと当たる前に普通に負けそう。そうなったら……リズは怒るというより、俺に失望するだろう。いかん、泣く自信しかない。せ、精一杯、頑張るんで見限らないで欲しいな!
「トーナメントの抽選を実施します。参加選手は再度お集まりください」
「では行ってまいりますわ。……戦うことを楽しみにしていますわ、ロイ」
「お、おう」
リズからの圧が頂点に達している。いや、俺が必要以上にプレッシャーを感じているのが原因だろう。まずい、対戦相手次第だが、きちんと対策を講じた方が良いだろうか……?
「秘密、ねぇ……」
「……なんだよ」
「いや、別に~? 後で教えてよ。それか次の賭けで、お金の代わりにその話を掛けてくれても構わないよ僕は」
意味深なニヤけ面でエルバートはそう言った。はっ倒すぞ。うざいこと極まりない。エルバートは十中八九、そういう話を期待しているだろうが、全然そんなことはない。本当に不名誉極まりない。しかし否定したところで、じゃあ何の秘密だと言及されるのも面倒くさい。詰みか? セロとダリルもニヤニヤしてんじゃないぞ。
エルバート達と戦えることを期待し……いや、戦ってボコることを期待し、俺は観客席から1回戦の様子を眺めた。そして頭を抱えた。
タッカーと……名前忘れたけどエルフのチームが強すぎて話にならなかった。リズは難なく勝ち上がったが、悪ガキ3人は惨敗。一瞬で負傷した。何やってんだアイツら……。これで問題児チームから残ったのは俺とリズだけであり、単純に優勝を勝ち取る確率が下がった。
いやはや、面倒なことになった。正直なところエルバート達には勝ち進んで欲しかったのだ。アイツらくらいなら余ゆ……げふんげふん! まだ勝機があったが、他のチームが相手となると手の内も分からない。加えて優勝を逃したアイツらは……。
「た、頼む! 絶対に勝ってくれ!!」
「お願いでやんす!!」
「こ、この通り!!」
頭をアフロにしながら土下座する始末。ちょっと心配になって医務室に行ったら、いきなりコレだよ……。コイツら恥とか知らんのけ?? だがまあ、ボロボロになりながら頼まざるを得ないコイツらの姿を見るのは愉快だった。マジざまぁだぜ!
しかしまあ、俺とリズにはコイツらの青春が懸かっている。生半可な覚悟で挑めば結果は振るわないだろう。どうしようもない奴ら(俺が入っているのは置いといて)だが、今後に関わる重要な青春時代を尊重……いやでも、ギャンブルなんだよな。コイツらがやりたいことって……。改めて考えると、学校で金掛けて遊ぶって相当ヤバイのでは……? ……。
……俺にはリズが居る。そう! 彼女との約束を違うわけにはいかない! 俺は絶対に! 彼女の為にも勝たなければッ……!!
「Bブロック5回戦。イヴレトイ・クレイグ対、ロイ・メイリング」
遂にやって来た俺の出番。お相手は顔が胡散臭いエルフのアイツだ。……初っ端から敵チームのリーダーですよ、えぇ。初戦を見ていたが実力はかなりあるみたいだ。流石にリーダーを任せられているだけはある。
「ミスターメイリング。どうぞお手柔らかに」
「あぁどうも。えっと……いずれトイレさん?」
「イヴレトイです」
あぁそんな名前だったか。さっき審判が名前を呼んでいたというのに、すぐに頭から抜け落ちてしまう。失礼は承知の上で……もっと覚えやすい名前とかなかったの? 凄い忘れやすいよ君の名前。あぁもう忘れたよ……。
「正直なところ、あなた方が勝ち上がるとは思ってもみませんでしたよ。噂によらず、とても優秀な魔法使いのようですね」
「はぁ、噂ですか」
「はい……裏口入学の腹黒転入生という噂ですよ。やれ女貴族を誑かして入学しただの、やれ学業そっちのけでギャンブル狂いだの、やれ寮母を殴るだの、やれ」
「おいちょっと待て」
え? 俺そんな噂流されてんの? 事実無根すぎてウケるw いやウケんわ。
なんだよ寮母を殴るって、身に覚えが無さすぎる。クソ仲悪いけど暴力は振るわんわ。たまに遠回しで暴言吐くけどお互い様ですよ?
噂とはいえ尾ひれが付きすぎだろ……。ギャンブル狂いってほどギャンブルしてねーし、大体、女貴族を誑かしてるとか……ん? もしかしてリズのことか?
ちっげーよ! あっちが勝手に金出してきただけなんですけど!? てかそんなのどっから情報漏れてんだよッ!!
「誠に遺憾です」
「そうでしょう、そうでしょう。先の合戦を見れば分かります。あなたは噂のような人物ではない……ならば、こちらも油断する道理はない」
いわれないさんのメガネの奥が光った。もちろん眼光的な意味ですよ? いや~俺なんかに本気出さなくても良いじゃないですか~。てかその小っちゃいメガネ掛ける意味あります? すぐ外れません?
「それでは試合を始めます。構え……」
おっと、マズイマズイ。心してかからなければ。
……構え方分かんねえ。過剰な火力の対策なのか、杖の使用が校則で禁止になっているんだけど、これ皆どうやってスタート切ってる? 俺とかもう自然に空手の構えになるんだが。あ、水臭いさんは手のひらをこっちに向けてるな。真似るか。
「始め!!」
「ファイア」
「シールド」
開幕早々に飛んできた火の塊を防ぎ、俺は後方へ飛びのいた。あっぶねぇ。腐れ森さんの真似してなかったら制服が燃えてた。危うく黒歴史公開しちまうとこだったぜ。もし麗しき俺の肌が晒されたら、どう責任とってくれるんです?
「ほう、不意打ちのつもりでしたが、間に合わせますか。防御魔法が得意のようですね」
「まあ、はい」
「ククク」
うわぁ胡散臭い。『ククク』とかわざわざ口で発音することあるんだな。
しかし、この暴れナイトさんの魔法は強いな。火の魔詞一つでこちらが焼かれるところだった。属性などの分野によって得手不得手が別れるとはいえ、彼と火属性魔法は、相当に相性が良いと見える。
しかし、今の一撃で確信したことがある。……間違いなく俺の魔法の方が強い。今の詠唱を俺が真似すれば、もっと大きい火の塊になる。さて、勝つのは問題ないが……どうやってこの場を切り抜けよう?
いやぁ、前々から思ってましたけど、時代を追うごとに魔法が弱まっていっている。火力より利便性を重視する傾向があるとはいえ、俺みたいな秘密主義的人間からすればなんとも生きづらいものだ。やっぱり転生とか何回もするもんじゃない。
「さて、無駄話はここまで……どんどんいきましょう!」
おっと、味くどいさんが長めの詠唱を始めたな。今度も変わらず火属性魔法だ。先と違うのは明らかに火力が上がっていること。それに複数の火の魔弾を展開している。聞き取れる魔詞から察するにこちらを追尾する機能も備わっていそうだ。さて、どうしたものか。
「――フレイム!」
詠唱が終わったと同時に向かってくる火炎を、俺は防御魔法を展開しながら避け、相手から距離を取りつつラインの内側、その外周を走り始める。軌道を残しながら追尾する炎の彗星は、俺の後を追いながら速度を上げた。
「ハハハ! ハハハ!! あ~哀れッ! 逃げ惑いなさい小蠅が!!」
おい、アイツ素で性格悪いだろ絶対。セリフが悪者すぎるんだが? 同級生に向かって小蠅とはいかがなものか。
しかし、逃げてばかりもいられないな。拳で解決できないか? 素手で殴るのってルール違反だっけ? 一応、明記はされていなかった筈だが……いやでも、流石に無しかぁ。趣旨が変わっちゃいそうだし。親の遺伝で押し通せなくもなさそうだけど。
仕方ない。ここは観客の注意が散漫している内に、さっさと終わらせてしまおう。
「どうしたのです!? 反撃してみなさ――」
バッシャァ!!
「ぼごふゥ!?」
俺が放った水魔法は、追尾してきた火を貫きながら……名前なんだっけ? まあ彼の腹部に直撃した。威力は申し分ない。それに相手も想定外だったのかモロに喰らったみたいだ。うわ~痛そう。蹲って悶絶しちゃってるよ……。
しかし、勝負は勝負。審判が反応していないということは、試合はまだ続行している。俺は彼の元まで一直線に走り、蹲る彼の服を掴んで思い切り投げた。いや~面白いくらいに飛んだね。
「イヴレトイ・クレイグ場外! 勝者! ロイ・メイリング!」
結果はラインの外に出た相手の判定負け。イヴレトイ? さんはピクピクと痙攣している。横方向に投げ飛ばしただけなんだが、そんなに衝撃強かったか……?
「ごめんごめん大丈夫?」
「まさか、この、私が負けただと……?」
心配になって駆け寄って見れば一人でブツブツ反省会をしていた。うん、全然大丈夫そうだな。念のため医務室に行くことを勧めよう。そこそこ水圧絞ってたから、直撃した脇腹が大変なことになってそうだ。
「あの、医務室まで運び」
「ば、馬鹿な……! ミスターメイリング! 君の詠唱は魔詞一つ聞こえなかった! 私が不意打ちを喰らうなど……」
「そりゃあ、距離も離れてたし聞こえなくても不思議じゃないでしょ。他の所も爆音だらけだし。それか、えっと……椅子っぽいさん? の耳が悪いだけでは?」
「クソが……! 私の名前は、イヴ、レ……うぅ」
あ、力尽きた。ちょっと~保健委員急いで~! 急患よ~! にしても気絶しているというのに凄い形相だ。これ後日まで恨みとか残らないよな……?
ふぅ、しっかしなんとかなったぜ。いずれトイレさんは聞こえなかったみたいだが、きちんと詠唱はしたよ? めちゃめちゃ小声だったけど。
さて、少し復習しようか。魔法は詠唱して音にならないと発動しないという話だが、それにも強弱がある。
まあほとんど誤差の範囲だが、大声で詠唱した方が魔法が強くなり、逆に小声だと弱くなるということですな。この特性のおかげで上手く火力を調整できました。
もっと理屈をこねると、それは魔法の基礎となる『魔素』という物質に関係している。それは、ありとあらゆる万物に宿るスーパー万能な魔法エネルギーで、空気中にも存在している。それが魔法使いの詠唱と振動し、魔法と成り代わるという原理なのだが、つまりはこの振動が大切で、そりゃ声が大きい方が遠くの魔素まで反応して集まって来るんですよ。
ちなみに魔素はどこにでも存在するが、物や場所によってその濃度は変わって来る。そういやこの会場も魔素濃度が高いと聞いたが、近くにダンジョンでもあるんだろうか? ……あぁ、嫌なこと思い出した。無視無視。切り替えよう。
さーて、試合を終えて控室まで戻って来たが……俺が一番乗りか。こういう決闘って早期決着になりがちだと思うんだが、皆安全面とか考慮して戦っているのかな? だとしたらめっちゃ偉いな。感心感心。
そういえば確か売店も出てるって話だったな。次の試合に備えて小腹も満たしておくか。
「おい、クレイグが負けたみたいだぞ!」
「え!? あのクレイグが!?」
「まさか、初等部から成績トップを我が物顔で牛耳るアイツが……?」
「高等部って、こんなにもレベルが高いのか……!」
「おい、早く席取りに行くぞ! 間近で見ないと!!」
複数の生徒がそんな会話をし、俺の横を急ぎ早に通り去って行った。
……え? アイツってそんな凄い人だったの? というか、成績が一番いいのってリズじゃなかったの?? 俺、あの人のこと今日初めて知りましたよ??
おかしい。何故だ。名前どころか顔すら初めて見たんだぞ? 入学してからそろそろ半年が経つ。絶対におかしい。今の今までそんな噂が俺の耳に入っていないのは。
……いや、待てよ? そういえば俺って、つるむ相手といえばあの悪ガキ共とリズくらいか。問題児組はそもそも身内で固まってて周りの情報とか入って来ないだろうし、リズに至っては俺以外とほとんど交流が無いからな。噂話も入って来ないか。
……あれ? もしかして俺って友達が少ない? いや、いやいや、4人も居るもんな! エルバート、セロ、ダリル、リズ。こんだけ居れば多い方だろう、うん。
前までは終始素っ気なかったリズだって何だかんだ皆と仲良くしているし、このまま4人のグループで居れば…………リズって孤高、というかぼっちで有名なんだよな。だとすると彼女がアイツらと仲良くなって、友達に頭数を入れるなら、俺を含めて4人……。
え? 俺ってリズと一緒なの? これ友達少なくないか?
俺は密かにショックを受け、もう少しだけ学校生活を真面目に過ごそうと思いました。
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