第7話 体育祭(魔法競技)の開幕!

「これより、開会式を執り行います」


 本来は休日である今日、ジェイフォード学園の高等部に所属する生徒達は一塊に集まっていた。そう、念願の体育祭である。

 場所は学園から離れた特設会場。急な伐採と鋪装で視界が開け歩きやすくなった、かつては森林が広がっていた郊外だ。


 体育祭は自由参加。しかし今、この場にはほとんど全員の学生が居る。そう、俺達はただひとつの目的の為……学友と争いに来た。


「皆さんもご存じの通り、体育祭は今年度から大幅な変更が施されました。健康志向だった競技にはより魔法を強く絡め、勝敗に拘るため優勝者には褒美が与えられます。……優勝者には校則を一つ、変更する権利が与えられるのです」


 その言葉に誰もが息を呑んだ。……いや、コイツらガチすぎないか?

 というか、体育祭で魔法がメインになってしまったら、それはもう体育祭ではないのではないのだろうか? 変更する前に少しは違和感持つだろ。『あれ? これ体育関係なくね?』って。参加人数を増やしたかったのかもしれないが……学園長、もう少し何かありませんでした?

 しかし、参加者が多いなと思っていたが、ここまでとは予想してなかった。やはり皆、学生は学生ということだろうか? 誰しも、今の学園生活に思うところが一つはあってもおかしくないか。にしても、俺みたいに少しは楽しもうと思っているようなヤツがどこにも見当たらない。チームメイトであるエルバートや、リズでさえも真剣な表情をしている。

 ……もうちょっと祭りみたいな感じだと思っていた。というか……祭りが良かったなぁ。


「では次に、学園長からお言葉を頂きます」


「あぁ、ありがとう」


 進行役の生徒の後ろから、学園長が姿を現わした。


「まず、参加していただいた諸君に感謝を述べたい。よく集まってくれた。そして、忙しい中、足を運んでくださった賓客の皆さまを紹介しよう」


 ん? 賓客? ……あぁ、そういえばリズが言っていたな。国のお偉い方が見に来るって。そういえば俺も今の国営状況とか全然知らないんだよな。まあただの一般市民だし当たり前っちゃ当たり前なんだが。

 ……考えてみたら、今のジェムピース国ってどういう制度で成り立っているんだろうか? あれ? もしかして把握してないのヤバいか? 投票とかの話は聞いたことがないが……後で調べるか。


 お、なんかゾロゾロ来たな。甲冑に身を包む近衛兵に連れてこられたのは……え?


「カディア様。ご足労頂きありがとうございます」


「楽にしてくださいエルフィンストーン。さて……ジェイフォード魔法学園に通う皆様、こんにちは。現国統領のカディア・ランマースです。今日のご活躍、期待しております」


 それは黒いドレスに身を包む、どこか妖艶さを漂わせる赤髪の女性だった。手に持つ日傘で影が差し、ミステリアスな雰囲気も出ている。よく見ると背中から皮質の黒い羽が生えていた。

 生徒達に緊張が走り、場がざわざわと軽い騒ぎになる。エルバートやリズ、そして俺すらも例外ではなかった。


「まさか統領様じきじきに足を運んでくるとは……」


「私も予想外ですわね。執務でほとんど顔を出さないと聞いておりましたわ」


「え、えーと、彼女は……?」


「なんだいロイ? カディア様を知らないのか?」


「じ、地元が片田舎なもんで……」


「彼女はカディア・ランマース。ジェイク・パーソンズが逝去してからずっと、この国を治める統領ですわ」


 へ、へぇ~知らなかったなぁ。えーと、俺が死んでから大体500年くらいだから、その間ずっと国の代表を務めているわけか……。


 この世界に棲む知的生物……まあいわゆる種族には、極端に寿命の偏りがある。彼女が500年も生きているのは不思議なことではない。

 カディアは吸血鬼である。……そう、俺は彼女を知っていた。ジェイクであった俺の、建国を共に志した仲間なのだ。建国にあたり、側近として俺を支えてくれた仲間は主に5人。カディアはその内の1人だ。

 ……え? この国、大丈夫? 500年もの間ずっとアイツなの? よ、よく滅びずに済んだな……。


 カディアは……まあ、簡単に言うと高慢な奴だった。俺が国のために苦心している姿を傍から見て嘲笑するような奴だぞ? もともと由緒ある貴族だったこともあり、政治の面で助力していてくれたとはいえ……アイツが、ねぇ。……本当この国大丈夫なのか……? アイツ口を開けば嘲りしか出てこないような女だぞ??

 しかし、よくよく考えると……かつての仲間達の中で生き残っているのはカディアと、エルフのセシリか。あとオークのシャビナドゥが居るかどうか……。まあ、どちみち、もう仲間として再開することは叶わない。……いかん、少しセンチメンタルな気分になってしまうな。時の流れを感じてしまう。


 だけどカディアが国の頭なのは心配が勝る。長命の種族こそ心身の変化に乏しいのだ。国を治めているから少しは良い変化があったと願いたいが……分からん。あぁでも、なんか顔色が悪いというか、少しやつれているように見えるな。老けたか?


「カディア様、ありがとうございました。……今回の体育祭は頭角を現す個人への注目が期待されている。奮って競技に挑んでくれ。しかし、ある程度の怪我を負うリスクも視野に入っている。諸君、安全第一であることは念頭に置いて臨んで欲しい。私からも期待している。以上だ」


「……以上で開会式を終了します。参加する生徒は最初の種目、障害物レースの準備を始めてください」


 意外にも簡潔に纏められた学園長のスピーチが終わり、早速体育祭がスタートしようとしている。……遂にやって来たな。この準備期間、俺達は猛特訓したのだ。俺とリズの指導の賜物と言うべきか、エルバート達の魔法の実力はメキメキと上がった……筈だ。しかし……。


「さて行きますわよ」


「……さすがに緊張するね。それに、想定より参加者が多い」


 そう、参加者が多い。誇張抜きで20以上ものチームがこの場に居る。この中から個人戦まで辿り着けるのは上位3チーム。……苛烈なバトルロイヤルになりそうだ。


「よぉぉぉしぃ!! やるぞぉお前らぁ!!!」


「「「応!!」」」


 ぅお、びっくりしたぁ。なんだアイツら気合入ってんなぁ。見るからに体育会系の獣人チームが凄い勢いで円陣を組んでいる。なんか、蜃気楼まで見えるんだけど、あそこの熱気ヤバくないか? もう魔法使ってる??


 他のチームも気合が入っているようだ。エルフにオーク、ドワーフなど同じ種族同士で固まっているところが多い。なんか魔動車まで持ち込んで来たヤツ居るぞ。え? あれいいの? ……あ、注意受けてる。

 この中には校内でも有名なヤツが居るらしい。成績優秀だったり、人気者だったり。敵情視察は仲間に任せているから俺は全く知らない。まぁ、どうせ後から名前と顔を覚えるのだ。敵になるわけだしな。

 楽しむこと前提とはいえ、俺も負けるつもりはない。仲間達を勝たせ、リズの願いを叶えるのだ。正体を明かせない都合上、オーバーパワーを発揮できないとはいえ、これくらいのこと造作もないぜ。


 ……気合入れて行きますか。




 障害物レースのスタート地点。目の前に広がるのは暗い森。事前情報だと予め様々なトラップが仕掛けられているらしい。ここをチームで移動し、魔法や身体能力で対処しなければならない。方向感覚まで試される競技だ。

 全チーム横並びとはいかず、俺達は最後方に位置していた。


「言うまでもありませんが……足を引っ張ったらタダじゃおきませんわよ?」


「わ、分かってるって」


 え? リズさん、ここで士気を下げます? 正気か? こういうチーム戦は精神的な問題が最も影響するんだぞ? 全く、これだからボッチは……。あの、何も思ってませんから睨むの止めてください。すみませんでした。

 にしても、エルバート、セロ、ダリルの3人。さっき円陣まで組んだのに、もうガチガチに緊張している。しゃーないなぁ。


「お前ら、あんまり緊張しすぎんなよ?」


「そ、そんなこと言ったって……」


「ばっきゃろォ!! 俺らの悲願はどうでもええんか!?」


「!! そ、そうだ。絶対、個人戦までは勝ち上がらないと……」


「そ、そうでやんす。こっちにはリズとロイが居るでやんす!」


「特訓の成果……見せつけてやりましょう!!」


 よし、頭ギャンブラーな奴らばっかりで助かるぜ。リズの冷ややかな視線が突き刺さっているが、まあ別にいいだろう。




「間もなく開始いたします。選手一同、スタートラインで準備してください」


 おぉ、結構緊張するもんだなこれ。さっきまでも熱気はあったものの、場が一瞬にして緊張感のある空気に入れ替わった。今までプレッシャーに見舞われることは散々あったが、それに近からず遠からずの重圧を感じる。前世とは比較にならない平凡な人生を送っていた反動だろうか? 初心が戻ってきたかのようで嬉しい。


「第一種目、障害物レース……間もなく開始いたします」


 仲間たちと目配せを交わし、駆け出す姿勢をつくった。初っ端から派手にコケないよう気を付けよう。

 恐らく最も混乱が起きるのはこの最初の場面。我先にと前に出ようとするチームが団子になるだろう。重要なのはそこをいかに躱し、上位に食い込めるかだ。事前に作戦を立てた時に、このこともチームで共有している。


「では、カウントを始めます。3……――」


 先頭はリズ。その後ろに左からセロ、エルバート、ダリルと位置取り、俺はその背後から追う形の陣形だ。

 仲間達の背中を見ると、ふと特訓の記憶や楽しかった思い出が蘇る。心なしか、彼らの背中が大きくなったように見えた。


「2……1…………スタート!」


 カウントダウンを終え、閃光を伴う魔法弾が上空に撃たれた。数舜も経たずして

当たりには砂埃が舞う。

 前方で何人かがスタートに躓いているのを横目に、俺達は出だしから迂回をし、森の中に入って行った。




「エコー、センス、レーダー、ターゲットマソ、ラージ…………半径100メートルくらい、敵チームっぽい反応は無いけど、妙な手ごたえがそこら中にある!」


 陣形の中心でエルバートが探知魔法を発動し、辺りの様子を窺う。これを継続、繰り返しながら、正体不明のトラップに周りが対処。リズが道を切り拓き、俺が後続から援護する形だ。

 脚力はこの中で俺が最も優秀だ。しかし競技の性質上、全員がゴールしなければ意味が無い。作戦を考える内、必然的に俺が足並みを揃える結果となった。万が一、後方のトラップが発動しても、俺なら対処も出来る。


「! 前方25メートル先の地面に何かある!」


 エルバートの言葉を合図に、リズが少しペースを落とした。森の中ということもあり、視界が極端に悪いため、かなり接近しないとその正体が分からない。

 妙なことに他チームの気配が無い。こちらが迂回したとはいえ、ほぼ直線的に広がる木々を進むのなら、いつでも探知に引っかかる筈だ。……こちらの想定より、他チームの進行が速い可能性がある。

 リズもそれを悟ったのだろう。少し落としたペースを元に戻し、全速力で推定トラップがある方へと向かっていった。


「防護魔法!!」


 リズの合図で全員が急いで詠唱を始めた。簡易的なシールドを全員の周りに重ね、特に足元へ集中させた。

 そしてその地点を通過をする時、何も無かった地面が光を放ち始め……爆発を起こそうとした。


 その威力がシールドを貫通すると悟った俺は、急いで魔詞を紡ぐ。


「ウィンド、アクロス!」


 爆発は全員が起点を通過してから起こった。本来シールドを貫通する筈だった爆風は、俺の魔法が勢いを押しとどめ、後方へと流れてゆく。地面に亀裂が走り、後ろの木々が傾いた。


「ちょ……! これ死なないよね!?」


 エルバートの焦った声が耳に響いた。さっさと探知魔法を使えと言いたいところだが、その焦りも理解できる。最初に遭遇したトラップでこれなのだ。予想以上の苦戦を強いられるかもしれない……。


「隙を見て身体強化魔法をかけ直しなさい。全員ですわ」


 前方から目を離さず、しかし後方の様子を感じ取ったのであろうリズがそう言った。仲間達は目すら交わさず、阿吽の呼吸で交互に魔法を詠唱する。チームワークは依然として問題ない。

 ……? あっちの方向、様子がおかしいな。


「エルバート、2時の方向に探知魔法を伸ばせ」


「分かった」


 俺の言葉を聞くや否や、瞬時に肯定したエルバートは、探知魔法を発動し……額に汗を浮かべた。


「マ、マズイ! もの凄い数だ……! 他チームがどんどん前進してる! 凄まじい速度だ!!」


「!! ……迷う暇はありませんわね。進行方向をそちらへ変えますわ」


 直進を止め、少し右に逸れながら俺達は森を走る。少し迂回してしまうが、何が起こっているのか確認する他に選択肢はない。

 ! ……なるほど。いや、少し野蛮じゃないか?


「あ、あっち道が出来てますよ!?」


「……タッカーの仕業ですわね」


 タッカー……レース前に見た獣人チームのリーダーだろう。

 恐らく彼らは、森ごとトラップを壊しながら直進している。脳筋すぎないか……? しかしこの規模の魔法を扱えるということは、優秀な魔法使いである証拠だ。

 しかし問題は、彼らが進んだ跡が平坦な道になってしまっていること。このレースに勝ちたいならば、あのおこぼれを貰う他ない。それに気が付いた複数の他チームが既に道を走り始めている。


「合流しますわよ!!」


 選択の余地は無い。後追いとなる形で、俺達は他チームの後方に着いた。

 前方に見えるライバル達の後ろ姿に、気が削れてしまいそうになる。俺達の誰しもがそう感じているだろう。

 しかし、ここで諦めることは出来ない。最早、褒美のことなど忘れ去り、俺達は競争心から勝ちたいと望んでいた。


「諦めてたまるか! ここを乗り切れば……楽園が待っているんだぁ!」


「ルーベンス、魔法を忘れていませんこと?」


 ……うん、数名違うが。まあ動機はどうあれ、まだ誰も諦めてはいない。

 俺も、勝負心に火が付いた。


「全員、速度を上げますわよ!!」


 それしかない。障害物が無くなり、もうただの競争だ。速度でぶち抜くしかない。

 しかし俺とリズはまだしも、真ん中3人は既に今出せる最速に近い。長文の身体強化魔法を詠唱しているが、このレースを勝つためには不十分だろう。

 ……俺が一肌脱ぐか。


「神速の円環。飽和する大地。5人の英雄。終着を見据え、無量の境地へ立つ」


 速度特化の身体強化魔法。効能には個人差があるし、比較的簡易な詠唱だが、効果は抜群だ。それを俺含め、チーム全員に施した。

 一瞬にして上がった自分達のスピードに全員が驚き、しかし誰も躓くことなくどんどん他チームを抜かしていく。一瞬で前へと躍り出る俺達を見た他チームの、なんと間抜けな顔よ。滑稽だぜガハハ!! ……やりすぎたかなぁ。


「マ、マズイぞ! 前に行かせるなぁ!」


「ファイアボール!」


 後方から魔法弾が飛んできた。え? この種目、妨害禁止ですよね??


「ちょ! これマズくないかい!?」


「妨害はロイが止めますわ! 速度を落とさないで!」


 いきなりスピードを上げた俺達は悪目立ちしたのだろう。どんどん他チームから魔法弾が飛んでくる。ちょ、リズさん! これ全部防げと!?

 いや、それよりこっちのスピードの方が速い! このまま走っていれば勝手に魔法は消え――。


「前方に強い魔法の反応!」


「タッカーのチームですわね。追いつきましたわ」


 ……え? それマズくない? 道がまだ出来てないってことじゃない??

 やばい! リズがスピードを落とし始めた! このままだと魔法弾に追いつかれますわよ!? ……あ、いいこと思い付いた。


「速度はこのまま! 俺の合図で左の森に戻るぞ!」


「!! 了解しましたわ!」


 タッカーのチームの背が見え始め、俺は合図を出す準備を始めた。

 にしても、凄い勢いの魔法だな。使っているのは火と風がメインか。擁護しようもなく自然を破壊しているが、これ学園側としては容認していいのか?


「ム!? お前ら足速いな!! 見かけによらず、良いトレーニングをしているようだ!!」


 横並びに進む獣人チーム、その中心にいるタッカーであろう人物がこちらを向いて話しかけて来た。なるほど、イノシシの獣人か。まさに猪突猛進。

 しかし筋肉馬鹿にしか見えないな。これで悪人っぽいヤツとかだったら心も痛まなかったのだが……一応、確認だけしといてやるか。


「あんたタッカーだよな!? 一番後ろで悪いな! 俺の名前はロイだぁ!」


「ロイ! あの問題児のか!? なかなかどうして根性がありそうじゃないか!! しかし……フレンドリーな態度とはいえ、こちらも手は抜かんぞ!!」


「それは別にいいんだけどさぁ! 今そっち余裕ある!?」


「ふはっ!! 何を言うかと思えば戯言を!! 余裕も余裕!! こんなことで俺達は止まらんぞぉ!!!」


「うわ! 助かるわぁ!! じゃあこれお願いね!! はい皆! 今!!」


 俺の合図で、仲間達と共に一斉に森の中へ入った。その様子にタッカーは気付き、目で俺達を追うが、それが良くなかった。

 後方から無数の魔法弾が飛んできていたのだ。やはりエリート校。単純な魔法弾のくせに持続性が良い。


「ちょ……!?」


 タッカー達が居た方から爆音が聞こえた。あとは無数の悲鳴。妨害によってイノシシの猪突猛進は停止したらしい。いや~南無南無。


「うわ~……悲惨だね」


「ロイも酷いこと思い付くでやんすね」


「いや~それほどでも」


 褒められるのって気分がいいなァ! リズは無言のままで何か言いたげな背中をしているが……まあ妨害行為したの俺じゃなくて他のやつらだし、タッカーはその悲劇的な犠牲になったんだ。俺達でアイツらの分まで頑張ろうぜ?




「ゴール! 一着は! リズ率いる問題児チーム!」


 あの後、数回トラップを躱した俺達は無事に森を抜け、ゴールテープを切った。

 次いで現れたのはタッカーのチーム。何の因縁か凄い睨まれた気がするが、まあ気のせいだろう。


「も、問題児チームってなんですの!? 不名誉極まりないですわ!!」


 あ、リズがプリプリ怒りだした。この怒り方見るのなんか久しぶりな気がするな。まあでも、別にいいじゃないですかリズさん。貴女もそこそこ問題児ですよ?


「ぜぇ、はぁ……かふっ」


 ……そして死にかけているエルバート達。一応、負担を減らしたつもりだったんだが……ちょっとやり過ぎちゃったみたいだな。てへぺろ。

 まあ地面に横たわっているものの、顔は満足げである。悔いは無いだろう。……あれ? 死んではないよね?


「見ていたかい? ロイ」


「あ、生きてた」


「不穏なこと言わないでくれよ……って、そうじゃなくて、僕達の魔法だよ。……ふふふ、自分の才能が恐ろしいなぁ。身体強化魔法があんなに上手くいったのは初めてだよ。やっぱり! 僕はギャンブルでこそ真価を発揮するんだ! ハッハッハ!!」


 ……あ、これあれだ。自分の詠唱と走るのとで、俺の魔法で勝てたことに気が付いてないな?

 ……まあ、別に大丈夫だろ。エルバートが馬鹿をしないか少し心配だが、正直こっちの事情に勘付かれる方が面倒くさい。本人の自尊心にも良い影響があるだろうし。ここはスルーの一択だな。


「随分、無茶をしましたわねロイ」


「……あ、気付いた?」


「当たり前でしょう?」


 リズには聞かれていたようだ。こいつ耳いいな。雑音とか凄かったけど。……というか、身に覚えのない魔法の効果が現れたからか。エルバートみたいに自分の手柄だと喜んでもいいんだよ? 遠慮すんなって!


「私との秘密だったのではなくて? ……秘密主義が聞いて呆れますわね」


 ……あれ? これ怒られる流れか? ま、待て。一番近かったエルバートはこの有様だし、セロとダリルはそこで伸びているだろ?? 起きたら何も覚えてないって!


「は、話をしよう? 最近、肉体言語が多いですわよリズお嬢、様ぁあイダダダ!! 

ごめん! ごめんってぇ!!」


 さて、色々あったが……次は魔法弾合戦だな。休憩時間のうちに体力を回復してしまおう。まだ極められた肩が痛いが……これで負けたらリズのせいってことでいい?

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