第3話 クセ強上司とガチンコ対決

第3話 クセ強上司とガチンコ対決


火曜日の朝。出社してすぐ、美咲は営業フロアの独特な空気にまだ馴染めずにいた。


電話の声が飛び交い、キーボードの音が響く。早朝にもかかわらず、皆すでに数字を追いかけて動いている。

 

そんな中、大橋課長がデスクから美咲を呼んだ。


大橋課長「田島、昨日のアポの件、ヒアリングして資料作れ。今日中な。」


美咲「えっ……資料って、どういうフォーマットで?」


大橋課長「そんなもん、自分で考えろ。お前、前は広報だったんだろ?考えるのは得意なんじゃねぇの?」


皮肉混じりの言葉に、美咲は喉元まで言葉が出かかったが、なんとか飲み込んだ。


美咲「……承知しました。」


だが、実際のところ営業資料の作成は初めてだ。周囲の先輩に声をかけようとするも、誰もが忙しそうで取りつく島がない。


昼過ぎ、試行錯誤しながら作った資料を大橋課長に提出した瞬間、彼は一瞥して言った。


大橋課長「これ、誰が読むんだ?客か?上司か?お前のポエムじゃねぇんだぞ。」


美咲「……!」


美咲の中で何かがぷつんと切れた。気がつけば、はっきりとした声で言い返していた。


美咲「私なりに、精一杯考えて作りました。わからないことも、誰も教えてくれない中で、自分なりに調べて……。それでも駄目って言うなら、具体的にどこがどう悪いのか、教えてください!」


一瞬、フロアが静まった。


大橋課長は少し目を見開き、それから椅子にどっかりと座り直した。


大橋課長「……よし、そこに座れ。」


美咲「え?」


大橋課長「今から添削してやる。1時間で全部直せるようにしてやるから、ちゃんとメモ取れ。」


それからの1時間は、怒号ではなく、驚くほど実務的で的確な指導だった。表現の癖、図表の見せ方、客が本当に求める情報の出し方——どれもが理にかなっていた。


大橋課長「……お前の強みは、見せ方だ。でも、それだけじゃ売れない。“決めさせる”資料を作れ。わかったか。」


美咲「はい……ありがとうございます。」


大橋はそれ以上何も言わずに席を立った。


その後、美咲は一人で手直しをし、夕方にはより洗練された提案資料を作り上げた。


初めて「営業としての思考」が自分の中に芽生えた気がした。


帰り道、美咲は気づいた。


「あの人、ただの鬼じゃない。仕事にだけは、本気なんだ。」


上司との衝突は、時に成長の種になる。それを身をもって知った、美咲の3日目だった。



続く 第4話:空き家の記憶

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