2-18.死闘、そして、決着
理性なき獣と化した川口が、大地を揺るがすほどの咆哮と共に襲い来る。その巨体と、鋭利な爪、岩をも砕かんばかりの顎。まさに、古代の肉食恐竜が現代に蘇ったかのような圧倒的な破壊力だ。
ドゴォォーーン!
モンスター川口の振り下ろした爪が、ヴァルが寸前までいた場所の地面を抉り、土と石を派手に吹き飛ばした。ヴァルは、悠斗の肉体を完全に制御し、常人離れした俊敏さで回避する。
更に敵の猛攻。間髪を入れない連続攻撃を繰り出してくるが、ヴァルはその動きを先読み、最小限の動きで攻撃を捌いていく。しかし、そのパワーとスピードは予想以上。一撃でも喰らえば、致命傷は免れない。
「くっ! 想像以上の効果だな、レブル……。ムジナール人の特性との相乗効果が出たか」
ムジナール人の変身能力と禁断の麻薬の取り合わせは、ヴァルの予想を上回っていた。深夜の特訓で悠斗の肉体の戦闘スキルは格段に向上していたが、敵の圧倒的パワーに徐々に押され始めている。このまま、ただ避けるだけではジリ貧だ。反撃の糸口を掴まなければならない。
「レーザーブレード、持ってくればよかったか……」
使い慣れずとも、この敵相手には有効な攻撃手段だったかとヴァルは後悔したが、今更どうしようもない。
(ヴァル、大丈夫? あいつ、強そうだよ…)
「心配するな、悠斗。――今、助けを呼ぶ」
(え? 助けって――)
シャアぁぁーっ!
二人の会話を邪魔する様に、モンスター川口が尻尾を鞭のようにしならせ、襲い掛かる。周囲の木々を薙ぎ倒しながら迫る尻尾。それをバック宙で回避したヴァルは、着地と同時に叫んだ。
「来い、ベジターども!」
森に叫び声が響く。が、すぐには変化はない。
モンスター川口がヴァルへと突進してきた。その巨体を大きくジャンプして躱す。その時、周囲の茂みや地面から、緑色の異形たちが音もなく現れた。確認したヴァルが即座に命じる。
「俺様の敵を倒せ、ベジターども!」
直後、一斉にモンスター川口へと襲いかかる四匹のベジター。
突如現れた新たな敵に僅かに戸惑うモンスターの隙を突き、ベジターたちが四方から飛びかかる。鋭い爪でモンスター川口の脚に切りつけ、あるいは背中に飛び乗り、首筋を狙う。単体ではモンスター川口に対し非力なベジターだが、四匹による連携攻撃は、さすがのモンスターにも無視できないダメージを与え始めた。
グオぉぉぉーーーっ!
モンスター川口は怒りの咆哮を上げ、鬱陶し気にベジターたちを振り払おうと暴れ回る。巨体を揺らし、爪で薙ぎ払い、尻尾を振り回す。しかし、ヴァルはリンクしている四匹のベジターたちを巧みに操り、攻撃を避け、あるいは吹き飛ばされてもすぐに起き上がらせ、執拗に攻撃を繰り返させた。
ヒット・アンド・アウェイ――この戦術によって、モンスター川口の傷が確かに増えていく。それに伴い体力も奪われ、動きが徐々に緩慢になっていった。
「ふふ、いいぞ、ベジターども」
深夜の秘密特訓の効果は、ベジターたちにも現れていた。ヴァルの四匹を操るスキルも上がり、その命に反応するベジターたちの速度も上がっていた。
銀色の恐竜と緑の小さな異形の戦い――照明もない深夜の森の暗闇の中で行なわれる異次元の戦闘。ヴァルは悠斗の目を通してその戦いを冷静に眺めていた。そして――
「そろそろか……」
低い呟くを漏らす。
(何がそろそろなの?)
「レブルは万能薬じゃない。限界を超えた力はいずれ切れる」
(え、それじゃあ、あのモンスターは――)
「そろそろ限界だろう。だが――その前にケリをつける!」
(え、でも、このままでも自滅すんじゃ――)
「それじゃ面白くない。俺様の力を見せつけないとな。――行くぞ、悠斗!」
(え、ええ、そうなの?)
「そうだ、
(あ、うん、わかった!)
ヴァルが両こぶしを握り、腰を沈めて、力を溜める。
「はぁぁぁーーーぁっ!」
その目の前で、ベジターたちの波状攻撃を受けたモンスター川口の巨体が、大きくバランスを崩し、よろめいた。
「よぉーし、今だぁっ、悠斗ぉっ!!」
(いいよ、ヴァル!)
ヴァルと悠斗の意識が完全に一つになる。ヴァルが強く地を蹴り高々と飛び上がった。そして、空中で体を捻り、右足を前方へと突き出し、そこに全エネルギーを込める。そのまま、モンスター川口目掛けて右足を頂点に落下していく。右足に込められたエネルギーの奔流が淡い光を放ち、悠斗の肉体を包み込んで、まるで流星の様に敵へと迫る。
「ぬおぉぉっ! ひっさぁつぅ、俺様キぃーーーックぅ!!!」
叫びと共に必殺の飛び蹴りが、光となってモンスター川口へと突き刺さった!
ズゥごぉぉーーーーゥゥゥン!!!!!!!
それは、爆発と見紛うほどの凄まじいインパクトだった。蹴りが命中した瞬間、モンスターの巨体が「く」の字に折れ曲がり、その衝撃波は周囲の木々を薙ぎ倒さんばかりに揺るがす。モンスターの口から、断末魔ともとれる甲高い悲鳴が漏れた。
グアアァぁぁーーーあぁーーっ!!!
強烈な一撃を受けたモンスターは、なすすべもなく後方へと吹き飛ばされ、数本の木をなぎ倒しながら地面に叩きつけられた。土煙が舞い上がり、地響きなる中、ヴァルは静かに着地する。
「決まった……」
勝利を確信し、ポーズを決めるヴァル。その頭の中で、悠斗が言う。
(やったね、ヴァル。でも、今のって、ライダーキックじゃ――)
「うむ、この間見てただろ、悠斗がテレビで。それでちょっと試してみた」
(ああ、昔の再放送のやつ……。まあいっか、勝ったんだからね)
「ああ、俺様の完全勝利だ!」
土煙が晴れていくと、そこには倒れ伏したモンスター川口の姿があった。ピクリとも動かない。そして、その巨体は急速にしぼみ始め、爬虫類のような硬い皮膚は、元の滑らかな銀色の質感へと戻っていく。数秒後には、完全に元の、のっぺらぼうのムジナール人の姿に戻っていた。気を失っているのか、完全に沈黙している。傍らには、役目を終えたベジターたちが静かに控えていた。
激しい戦いは、ついに終止符が打たれたのだった……
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