第11話、争いは止めましょう、人間には言葉があります。

争いに来たわけじゃあねぇんだよ!




こうなったら………必殺(?)!






「争いは止めましょう、人間には言葉があります!」






俺は胸を張って叫んだ。


これで丸く収まるはずだ。収まってくれ。頼むから。




が。






「………貴方、妖怪でしょう?」






ド正論!!


その通り過ぎて言葉が出ない!


確かに私は烏天狗だった!






「…………いや、そりゃ俺は妖怪だけど!」






絞り出すように反論したものの、神主さんの表情は一ミリも揺るがなかった。




むしろ、無表情すぎて怖ぇ……。






「妖怪が、人間の言葉を使い、人間の理屈で交渉を求めることこそ、欺瞞です。」






静かに、落ち着き払った声。




なんだろう、この“正しさ”だけで相手を追い詰めてくる感じ。






「あ、あの……いや、俺は悪い妖怪じゃ……」






「そうやって、笑顔で近づいた妖怪に、どれだけ人が喰われてきたか。


それが、妖怪という存在の本質。」






「ぐっ………!」






ぐ、ぐうの音も出ねぇ!


正論って時に刃物より重い。






「ここに立ち入った時点で、貴方の存在は――排除対象です。」






神主さんはすっと、懐から一枚の札を取り出した。






その瞬間、俺の鳥肌が総立ちになる。


札、なのに。


ただの札、なのに。




まるでナイフを突きつけられたような、そんな圧。






「い、いや……ちょっと待って!?


話し合い……っていうか、俺、観光客みたいなもんでして――」






「――問答無用。」






ピシッ、と足元に何かが走った。


気づけば俺の足元に、白と黒の式盤が浮かび上がっていた。






ヤバい。


これはヤバいやつだ。


直感が警告している。






「うわっ!? ちょ、ま――」






「式盤結界・封!」






空気が、一瞬で重力100倍。




全身が鉄板に押しつぶされるみたいに、動かない。




えっ、俺のターン終わり!?




ノーカードノーアクションでターンエンド!?






「問答無用です。」






またそのセリフかよ!






俺は思った。




……あ、これ、俺、終わったかもしれない。






「くっ……!」






俺は、飛びかかろうとした瞬間、目の前に札が貼り付けられていた。






「――式神縛り。」






パァン! という軽い音がしたかと思うと、俺の体がビリビリと動かなくなった。






「うおっ!? な、何だこれ!? 動けねぇ!?」






「当然です。式神に対する基本の縛り。


あなた、烏天狗でしょう?式神のくせに雑ですね。」






「うるせぇ! こっちは旅の初心者なんだよ!」






冗談じゃなく、旅先でこんな強キャラにエンカウントするなんて、ガチャ運悪すぎだろ……。






「問答無用。」






神主さんは、淡々と印を結んでいた。




俺がもがこうとした瞬間、足元から無数の紙が吹き上がってきた。






「式神封印――『空紙牢』。」






「え、ちょっ、なに――」






次の瞬間、俺の体は文字通り紙で巻かれ、ミイラみたいにぐるぐる巻きにされた。






「ふごぉっ!? ぬ、ぬけねぇ! 何これマジやべぇ!」






もがいてももがいても、紙はさらに増殖して、呼吸すら怪しくなる。






「く……これで……!」






なんとか片腕を突き出して、俺は最後の抵抗に出ようとした。






「……あの、まだやる気ですか?」






「お、おう……!」






「では……」






神主さんが、一歩近づく。




その瞬間、頭にガツンと札が直撃した。






「ぐあああああああ!? 頭が……頭が高いっ!!」






「下がりなさい。」






ドゴォ!


次は腹に一撃。






「ふぎゃああああ!!? ふ、不意打ちは反則ぅぅぅ!」






いや、不意打ちじゃない! 俺がバカなだけだ!




頭、腹、背中、翼、足――まんべんなくボコボコ。




手加減してくれてるのか、痛みだけは一級品だけど、まだ生きてる。




だけど、俺のプライドと体力はゼロよ。






「ひぃ……もうやめて……俺のHPはもう0です……」






ボロ雑巾状態で地面に転がった俺に、神主さんは冷たく言い放った。






「……哀れですね。」






畳みかけるのやめて!!


HPゼロの相手に追い討ちはルール違反っすよ!






でも、俺はそこで諦めなかった。


……いや、諦めかけたけど、土壇場で思い出した。






「ま、ま、ま、待ってくださいっ! こ、これ……!」






ポケットから、例の手紙を、涙目で差し出す。




――命の次に大事な、俺の保険。






「…………?」






神主さんは、俺の差し出した紙をじっと見つめた。






「……これは?」






「藤咲つむぎさんからの手紙です! 俺、マジで争いに来たんじゃないんですって! 信じてくださいよ……!」






涙目で必死に訴える俺。




もう、プライドとか全部捨てた。


今ここでやられたら、ガチでシャレにならない。




神主さんは、俺から手紙を受け取ると、無言で封を切った。


中を読んだ途端、その目がピクリと動いた。






「………………ふむ。」






しばらく黙って読んでいた神主さんは、ようやく俺を見下ろした。






「なるほど……藤咲家のご子息、煌羽様、ですか。」






「そ、そうです……! そ、それです! 最初からそう言ったじゃないですかぁ!」






「最初からそう聞こえませんでしたが?」






「ぐぅっ……」






く、口下手な俺のせいで……!






「ですが、藤咲あやめ様の血を引く方なら、この霊薬の存在も、効果も、リスクも理解しているはずですが。」






「り、リスク……?」






「……知らなかったのですか?」






神主さんの目が、冷たく細められる。




「知らずきたのですか?………貴方は本当に藤咲家の人間ですか?」






ぐ、ぐぬぬぬ……!






「……まあ、今この場でそれを論じても仕方ありません。」






神主さんは溜息をつくと、俺の前に霊薬の入った木箱をそっと置いた。






「これをお持ちください。あやめ様が遺した最後の霊薬です。……私が言えることは二つあります。」






神主さんは、俺を真っすぐ見据える。






「一つは………それは貴方が飲んではいけません。」






その言葉が、ズシリと俺の胸に突き刺さった。






「もう一つは………琵琶湖に行きなさい。」






……やばい。


思ってた以上に、重い、何かが動き始めたかもしれない。






とりあえず今日は、速攻で逃げよう。






俺は、満身創痍の体を引きずりながら、霊薬を抱えて、奈良を後にした。




(つづく)




先生「きらうさん家庭の事情でお休みです。」


生徒たち「なーんだ、あいつきてねーのかよ。」


先生「そりゃね。」




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