第10話、おくすりくださいな。
「きらうくん。あなたには、これからお祖母様の遺品を取りに行ってもらうわ。」
つむぎさんが、いつも通りの調子で、さらっと言ってきた。
けど、その内容が重すぎる。
「遺品……? え、なんですか?」
「お祖母様は、ただの最強陰陽師じゃなかったらしいのよ。実は――時々だけど、未来を予知していたそうよ。」
「未来予知!? そ、それってかなりチートじゃないですか……!」
「ふふ、そうね。龍の誕生、百鬼夜行――妖怪絡みの災害を、その力で未然に防いでいたらしいわ。」
俺は思わず息を飲んだ。
あのつむぎさんのお祖母様、やっぱり只者じゃない。
「……で、それが俺と何か関係あるんですか?」
「あるわよ。お父様が言ってたの。お祖母様は、十数年前から“きらうくん”の存在を知っていたって。」
「え!? マジっすか!? 俺、そんな重要キャラだったんすか!?」
「マジよ。お祖母様、あなたのために“霊薬”まで作って遺していたそうよ。」
俺の頭の中に“最強パワーアップアイテム”の文字が浮かんだ。
「それって……どこにあるんですか!?」
俺は思わず前のめりになった。
が、つむぎさんは淡々と、
「奈良県の南西部、らしいわ。ただ、詳しい場所は誰も知らないみたい。」
「えええ!? じゃあ、どうやって探せっていうんですか……」
「強力な霊薬らしいから、近づけば分かるわ。多分、ね。」
「それ、割と雑じゃないですか!?」
「雑じゃないわ。信じなさい。お祖母様の力なら、ちゃんと導いてくれるはずよ。」
俺は、心の中でツッコミながらも、行かない理由なんてなかった。
祖母の霊薬……これは、絶対に手に入れなきゃいけない。
◇ ◆ ◇
俺は、翌日には奈良行きの電車に飛び乗っていた。
さすがに奈良南西部って言われても、具体的な場所が分からないのは不安だったが……つむぎさんは「大丈夫、行けば分かる」ってドヤ顔で断言してたし、なんとかなる……はずだ。
「……いや、なんとかなるよな……?」
車窓から流れる景色をぼんやり見ながら、俺はため息をついた。
一応、道中に起こりそうなトラブルを想定して装備は整えてきた。が、俺の装備って言っても、見た目は完全に普通の中学生。
いや、どっからどう見ても普通じゃないか。
そもそも中身は式神だし。
「……ああ、制服着てる意味あるんだろうか、これ……」
そんな自虐をブツブツ呟いてると、隣のおじさんにチラッと見られて、ちょっと恥ずかしくなった。
やばい、これじゃ妖怪より人間社会の方が怖いわ。
「……俺、式神だけど、人間社会レベルでビビるとか終わってない?」
奈良に近づくにつれ、駅の人影もまばらになってくる。
さすがに南西部まで来ると、観光客すら少ない。
俺はスマホで地図を確認する――が、やっぱり何のヒントもない。
「……適当に降りるしかないな。」
電車から降りると、山と森に囲まれた、古びた神社の案内板を見つけた。
近くまで行くと、妙に空気がピリついてる気がする。……多分、あの辺だ。
「いや、俺ってば、つむぎさんの雑な指示だけでよくここまで来たよな……」
そんなツッコミを入れつつ、俺は足を踏み入れる。
静寂の中、鳥居をくぐった瞬間、境内の奥から誰かの気配がした。
「貴方は人ではなさそうですが、もしかして妖怪ですか?もし妖怪なら………」
――声をかけてきたのは、俺よりずっと年上の、白い神主服を着た男だった。
(うわ……なんか、絶対強キャラっぽいの来た……)
胸騒ぎが、背筋を冷たく這い上がっていく。
なんか……嫌な予感しかしないんですけど。
「藤咲 あやめ様の遺品を守るために消えてもらいます。」
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