第9話、第三勢力、結界の輪
―とある陰陽道の中立領域・古の神域「天籟殿てんらいでん」にて―
古びた白木の床に、十二の足音が重なる。
天井から垂れた幾重もの結界布、その奥には一点を見据える少女――藤咲つむぎの姿があった。
「本日はお忙しい中、ありがとうございます。御門二十家のうち、10位以下の家の皆さまにお集まりいただきました」
凛とした声が神域に響く。周囲には、思春期の面差しを残す当主たちが、それぞれの付き人を控えて居並んでいた。
月夜家、朽木家、霞沢家、鷹取家、葛城家、鞍馬家、真壁家、鏡原家、氷室家、黒木家――そして、つむぎ自身の藤咲家。
彼らは全員、かつては名門と称されたが、現在は五大宗家や御影派の圧力のもとで存在感を削がれた家系の若者たちだ。
「皆さんも、感じているはずです。――このままでは“上”に飲まれ、我々はただの兵として使い潰されるだけ」
静寂。だがその中に、確かに息を呑む気配があった。
「日向家は既に動き出しています。彼らは正義の名のもとに、旧式陰陽術を掌握しようとしている。御影家と神楽家は、それを黙認している。理由は……言わずもがな」
「私たちは、ただ従うだけの駒でいるつもりはありません。だから――中立連合を結成したい」
つむぎは視線を一人ひとりに向ける。
「月夜家の夢術、朽木家の呪術、葛城家の陰陽具、鷹取家の空間術、鏡原家の情報収集、真壁家の近接術、鞍馬家の獣式神――そして藤咲家の封印術。バラバラのままでは意味がない。でも、力を合わせれば、“第三の柱”になれる」
鏡原の若当主が口を開く。
「……“第三の柱”? 御影派と日向派に対抗する?」
「違います。“その両方を牽制できる力”です。どちらかが暴走したとき、『抑止力』として動ける存在――それが必要なんです」
ざわ……と空気が揺れる。
朽木家の少年が言う。
「俺たち、呪術ってだけで“危険”って言われてんだぜ? そういうのも変えられるってのか?」
「変えられます。もし私たちが成果を出せば、正当な評価が戻る。連合は“力だけじゃない”、誇りと生き方を守るための場です」
しばしの沈黙の後、月夜家の少女が微笑んだ。
「……ふふっ、面白いじゃない。夢を語るなら、覚悟はあるんでしょうね、つむぎさん?」
つむぎは頷いた。
「ええ。覚悟なら、とうにできています。私たちが“消される側”でなく、“選ぶ側”になるんです」
「面白いわ、この集いの未来は。まぁ、悪くない流れね。月夜家、参加するわ」
「“闇”と呼ばれる我が家だが、陰がなければ陽も輝けぬ。中立にこそ、居場所がある。我が朽木家も加わろう」
「強者に従うだけが生き残る道じゃないってこと…やっと証明できるのね。霞沢家、乗ったわ。」
「斥候が報告してるよ。上位の動きは異常だ。逃げ場が必要なら、自分で作るさ。鷹取家も参加する。」
「技だけじゃ守れない時代になったか…ならば、我ら葛城家の技術も中立に捧げよう。」
「野に生きるものは自由を望む。…強き者に従うより、弱きを守る力になろう。鞍馬家も参加だ。」
「どうせ戦になるなら、自分の信じた道で戦うさ。俺たち真壁家がお前の背中、守ってやるよ。」
「鏡は真実を映す。…今の上位派閥は歪んでいる。我ら鏡原家の立場を、私が写してやる。」
「…白峰家の影ばかり見てきたが、今は違う。自らの意思で道を選ぶ。我ら氷室家は中立に従う。」
「………信用はしていない。だが、利があると見た。黒木家、参加してやろう」
つむぎは静かに頷く。
「これで十一の意志が一つになりました。“陰陽界の均衡”を守るため、『結界の輪』をここに成立します!」
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