第29話

「汰端先輩のオーバーヘッドキック!?うわー見たかったなー!」

 図書部の活動を終えた後、霧品先生から轟君の入院する病院を教えてもらい、私、鴻先輩、汰端先輩の三人でお見舞いに行った。轟君は開口一番、「春野無事だったか!」とほっとした顔で言ってくれた。

「やっぱスゲーな先輩!マジでヒーローっすね。」

「実際に類本を発動したのは鴻だよ。私はその類本が届くようアシストしただけだ。」

「ですが、汰端さんが蹴り飛ばさないと不発だったと思います。助かりました、ありがとうございます。」

 鴻先輩が言うと、汰端先輩は照れたように笑った。

「ところで轟君、狗上さんと何話してたの?」

「んー?教室と変わんねーよ。わざわざ呼び出されたと思ったら何で春野をかばうんだーとか、そういう感じ。」

「図書室のおまじないの話はしてた?」

「おまじない?いや、してねーよ。……でも、似たようなの聞いたな、何だったけ。」

 首を傾げる轟君に、おまじないの内容と、それがミルイの発生に関わっていそうだという話をした。すると、轟君が「それだ。」と険しい顔で言った。

「サッカー部のマネージャーも、それやってた。で、ミルイに襲われた、と思う。」

「え!?」

「何だと!?」

 私と汰端先輩が同時に叫んで、口をつぐむ。病院ではお静かに。

「詳しく教えてくれるかい?いつの話だ?」

「たしか一昨日っす。俺のダチ、一つ上の姉ちゃんがサッカー部のマネージャーなんですけど、いきなり試合中にゴールポストに体ぶつけて保健室運ばれたって。」

「マネージャーさん?」私が訊き返す。「選手じゃなくて?」

「変だろ。コートの外にいたはずなのに何でぶつかるんだって。そしたら本人は、『見えない何かに突き飛ばされた』って言ったらしくて。」

 それって。

「旧校舎時代のミルイの被害者と同じではないか!」

 汰端先輩が大きな声を出し、また口をつぐんだ。

「俺も先輩とおんなじ事考えたっすよ。実際、姉ちゃんが元いた場所からゴールポストまでの間に、二本のわだちがあったらしくて。ユーレイなら足跡とか無いし、車のミルイっぽいなって。でも、地下二階の本しかミルイにならないんじゃなかったんすか?」

「轟君を襲ったミルイは、一階の図書室にあった本から出現した事が分かっています。狗上さんが破った本です。」

 鴻先輩が言うと、轟君が頭を抱えた。

「その姉ちゃん、病院で弟にだけ打ち明けたんすよ。『図書室の呪いだ。約束を破ったから自分に返って来た』って。」

 今度は、図書館の「呪い」か。でも、何か約束事を破った結果、自分に跳ね返ったっていうのは、狗上さんと同じだ。

「轟君、その呪いの内容は?」

「本を破って、呪いたい相手を書く。ただし、誰にも見られちゃいけない。グループラインでやり方が回って来たって。」

「春野君が聞いたおまじないと似ているな。」

「おまじないが本当にミルイ出現の条件なら」

 鴻先輩が険しい顔で言う。「僕らが認識できていないだけで、既にあちこちにミルイが出ている可能性があります。」

「じゃあ修理室の本はどうなんだ?あれも標題紙とか無くなってんの?」

「全部見れたわけじゃないんだけど、今のところ確認した本は全部当てはまってるの。」

 私が答えると、轟君は愕然とした顔になった。

「じゃあ何だ?昔の誰かのイタズラのせいで、三十年ずーっとヤベー怪物にこの学校は苦しめられてるのかよ!?ふざけんじゃねえ。」

「しかも、今になって新しく増やされそうになってるし。」

「くー!止めてぇ!何で今俺怪我してんだよー!!」

 轟君はベッドの上で暴れかけたが、左足を少し動かしただけで痛むらしく、すぐ大人しくなった。

「落ち着き給え。焦っても何も解決しない。今は自分を治す事に専念するんだ。」

「―はぁ、そうっすね。歯痒いけど、しゃーねーや。」

 轟君はがっくりとうなだれた。

「それと、もしその弟君と連絡できるなら、破った本を図書部に渡すよう伝えてくれないか。勿論、他言はしないからと。」

「了解っす。でもそのミルイ、絶対危ないっすから。無茶しないで下さいよ。病院送り二人目とかマジ勘弁すから。」

 私は思わず笑いが零れてしまった。

「ん?何だよ春野?」

「いや。よっちゃんと同じこと言ってるなって。」

「え。吉田と?」

「今日は塾があるから無理だけど、明日お見舞いに来るって。」

 轟君がちょっと赤くなった。


 

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