第19話

「あ、いた!春野―!」

 朝、学校の最寄り駅に降りた私の所に、轟君が駆けて来た。後ろにはよっちゃんもいる。

「あ、轟君!お腹大丈夫?」

「おう!って、そっちはいいから!これ!」

 そう言ってスマホを見せてくれた。ツイッター(よっちゃんに「今はもうXだよ。」と訂正された)の画面だ。

  本を普通に読んでただけなのに破ったって濡れ衣を着せられた

  言ってきたのは、同じクラスの春野って人

  私は違うって言ったのに、突き飛ばされて本を投げつけられた

  額から血が出た マジで痛い

 この文章の下に、額に絆創膏を貼った写真が添付されている。顔の部分は隠してあるけど、狗上さんだ。

「この、春野って春野だろ。昨日、なんかあったのか?」

 轟君に訊かれたけど、悔しいのと怒りとで、震えて上手く喋れない。よっちゃんが私を引っ張って、ホームのベンチに座らせた。

「あれ?どうしたのおでこ!」

「え、春野も!?」

「……本を投げられたのは、私。」

 やっとそう言えた。そこからは、昨日あった事を一気に話した。

「やっぱな!春野は本投げねーだろ。類本は投げるけど。」

「ルイホン?」

「あ、何でもない。」

 よっちゃんが首をかしげているのを見て、轟君が慌ててごまかす。

「てかシャリョー、狗上さんとやりとりしてんの?」

「なんか『フォローして』って言われた。Xあんま開かねーけど。」

 今回の投稿も、先に見た友達から聞いて知ったのだという。

「つーか何なんだよこれ?嘘は駄目だろ!」

「げんげの悪口いっつも言ってるよね、あの人。」

「そーなのか?俺と話す時は車の話ばっかりだぞ。あとスポーツ。」

「うわ。それ絶対、シャリョーに合わせてるよ。投稿見たって、ファッションかはやり物の話しかしてないもん。」

 よっちゃんは轟君のスマホを勝手にいじりながら言った。

「げんげ、怪我させられた時、先生に言った?」

「……一応。先輩と一緒に言った。」

「じゃ、嘘ってばれるのは時間の問題か。」

 轟君がほっとしたように言った。「……時間!遅刻するぞ、行こう!」


 だが、事態は思いのほか深刻だった。教室に入ると、ひそひそ声がする。皆が、私に冷たい視線を送っている。

「なんで?げんげが被害者なのに。」

 よっちゃんが怪訝そうにする。すると、よっちゃんの所にクラスメイトが走って来た。スマホを見せるや、よっちゃんは顔を真っ赤にした。

「よっちゃん?」

「見ない方がいい!」

 でも、私の目は、「春野蓮華は、闇バイトをしている」という書き込みを捉えてしまった。他にも「パパ活してる」「神社のお賽銭くすねてる」などなど。どれも、「貧乏だからやってる。」という書き方をしてあった。

「お前だろ、こんなうわさ広めてんの!」

「え?」

 おそらくよっちゃんと同じ画面を見たであろう轟君が、狗上さんに詰め寄った。

「春野に怪我させられたって嘘ついた次はデマかよ!くっだらねー!」

「と、轟君何言ってるの?怪我させられたのは、私の方だよ。」

「春野は俺と同じ図書部だぞ?本直す部活やってるやつが、本を乱雑に扱うかよ。」

「なんで轟君は春野さんの肩持つの?」

「そうだぞー輌路!」「お前ビンボーと付き合ってんのー!?」

「ちげーわ!つか貧乏は今関係ねーだろ!」

「ビンボーなだけじゃなくて、誰とでも寝る奴だぞー!」

「おい今言ったの誰だ!」

 ついによっちゃんまで参戦した。

「こんなデマを真に受ける馬鹿ばっかなの、このクラス!」

「よ、よっちゃん!」

「ひどい……。私、そんな噂書いてないのに。」

 狗上さんが泣き出す。これじゃあこっちが加害者みたい。

「ふ、二人とも、もういいよ。」

「良くねえ!」「良くない!」

 二人が声を荒げた。

「春野は悪くないのになんで泣き寝入りすんだ!」

「そうだよげんげ!間違ってる事は間違いって言わないと!」

 轟君はまだ狗上さんに詰め寄る勢いだったが、先生が来たので仕方なく席に戻った。そこから放課後まで、私はずっと消しゴムを投げつけられたり、トイレに立った隙にノートに落書きをされたりした。「謝れ」「貧乏人は心も貧乏」「最低」

「げんげ。」

「大丈夫だよ。」

 私は笑ってみせた。「私、スマホ持ってないから!何書かれたって平気だよ。」

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