第11話「語彙という鏡」

「あれ、晶ってさ、けっこう語彙力ある系男子だったんだ?」


朝の教室。

何気ない調子で凛が放ったひと言に、晶はむせかけた。


「な、なにそれ。初耳なんだけど」


「この前の動画のナレーション、思ったより良くてさ。

コメント欄で“文章がていねい”とか“言い方きれい”って言われてたよ?」


凛がスマホを見せてくる。

見慣れない文字がそこに並んでいた。


「比喩の表現が文学的で好き」

「言葉選びが丁寧で落ち着く」

「中の人、詩人ですか?」


晶は混乱していた。


「おれ、そんなつもりじゃ……」


「でも、伝わってるってことだよ? そういう風に“見られてる”」


そうか。

自分の使う言葉って、相手にとっての“印象の材料”になるんだ。


「語彙は、“自己表現”であると同時に、“他者のフィルター”でもあります。」


AICOの声がふっとスマホ越しに響いた。


「人は、あなたの“語彙の使い方”から、あなたの性格や知性、感情の深さを読み取ります。

それは意識せずとも、印象というかたちで心に残ります。」


「ってことは……たとえば俺が“うぜぇ”“マジやばい”“ふつうに無理”ばっか言ってたら?」


「“粗い”“雑な人”“距離を取りたい”と、無意識に受け取られる可能性が高いです。」


「う……マジか……」


晶は少し前の自分を思い出して、頭を抱えた。

たしかに、凛に「語彙、磨こうね」と言われたとき、言葉は丁寧でも感情には刺さった。


「でもさ、じゃあ丁寧にしゃべってればいいってこと?」


「違うよ」と凛が即答した。


「“ていねい”って、言葉の数じゃなくて、

ちゃんと“どう伝わるか”を考えて選ぶってことじゃない?」


晶はその言葉に、すとんと腑に落ちた。


「たとえるなら、“語彙”はあなたの“鏡”です。

自分がどんな人かを映し出し、相手にも“こう見えるよ”と返ってくる。

つまり、言葉選びは“自己認識と他者認識の交差点”です。」


「……語彙って、けっこうこわいな」


「でも、おもしろくもない?」と凛が笑う。


「どう見られたいかで、ことばも変わる。

そして、ことばが変わると、ほんとに自分もちょっと変わってる気がするんだよね」


そう言って、凛は教室の窓の外を見た。

柔らかい春の光が、窓ガラスに反射している。


晶は、自分の手帳に書いた最近の言葉を見直した。

たしかに、昔よりも“ことばの質感”が変わっている。


「語彙って、他人に見せる鏡でもあり、

自分の成長を映す鏡にもなってるんだな」


その気づきが、静かに心に根を伸ばしていった。


🔜次回:🌱語彙の芽〈第11話編〉

“どんな語彙”が、“どんな印象”を生む?

乱暴語・柔らか語・ていねい語――語彙の選び方と“見え方”の関係を徹底解説!

「言葉づかい=自分の写し鏡」って、どういうこと?

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