第27話 封じの言の葉
数日後の朝。風がざわりと梢を揺らし、木漏れ日が斑に地面を照らしていた。
「……風、変だよ」
ラセルが空を見上げたとき、どこからか羽音が聞こえた。
一羽の鳥が、高く舞いながら、何かを翼に挟んで飛んでいる。
「葉っぱ……?」
やがて、その一枚の葉がふわりと空中を舞い、三人の前に落ちてきた。
「言の葉だ」
ラセルがさっと駆け寄り、葉を両手で受け止める。
光を帯びたその葉は、表面に小さく揺れる紋様を浮かべていた。
ラセルが耳を近づけると、そこから声が流れ出す。
『これは、魔法医師会からの通達です――』
「……医師会から?」リーゼが緊張した面持ちで身を寄せる。
紬も無言でラセルの肩越しに葉を見つめた。
風が止まり、音がはっきりと耳に届く。
『非公式の治療行為は、村全体を危険に晒すと判断されました。
村の安全のため、魔法医師会に所属しない者の治療行為は、厳重に取り締まられます』
『従わない場合、治癒に関わる力を封じる「封じの言の葉」が発動されます』
三人は顔を見合わせた。
ラセルの拳がわずかに震える。リーゼは唇を噛みしめ、紬はうつむいたまま動かなかった。
『村を守りたければ――医師会に入ること。さもなくば、力を封じられる』
声が止むと、葉は光を失い、そっと地面に落ちた。
しばらく、誰も何も言わなかった。
「そんな……力を封じるって、どういう……」
リーゼが不安げに紬を見る。
「選べって言ってるんだ。入るか、やめるか」
ラセルの声は低く、怒りを抑えるようだった。
紬はそっと口を開く。
「私、夜まで考える。……ごめん、少しだけ、ひとりになってもいい?」
二人は黙って頷いた。
その夜。紬の部屋の窓辺に、また一枚の葉が舞い込んだ。
赤みを帯びた葉。触れた瞬間、冷たい感覚が指先に広がる。
『――封じの言の葉。これは契りのまじない』
『村を救いたいなら、医師会に入れ。さもなくば、癒しの力は封じられる』
その声は、昼間よりも静かで、逆にその冷たさが際立っていた。
紬は長い間、葉を見つめていた。
そして、ぽつりと口を開く。
「……私は、入らない」
その瞬間、葉が砕け、氷のような気配が部屋に満ちた。
次の日から、紬の手当ては何の効果もなくなった。
紬が煎じた薬草はただの草になり、痛みは和らがず、誰にも届かない。
「本当に……封じられたのかな……」
つぶやく声に、自分でも少し震えを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます