学校の美少女を不可思議から救ってみた結果

@ryoryota

第一章

第一話 彼女の知らない未来の日記

――忘れるな、忘れるなよ僕。絶対に悲しませるな。



***


 今日はなんとなく、嫌な予感がしていた。

 そんな予感は的中し、放課後に三年付き合った彼女に呼び出され、そしてフラれた。僕との将来が見えないんだとか。そんなの、僕だって見えてない。まだ高校二年だぞ。


 気が付けば、人気のない駅のベンチに放心状態で帰りの電車を待っていた。ふと横へ目を向けると、いつからいたのか、隣には女の子がいた。そしてこちらをずっと見ている。


「ねえ、君は今日彼女にフラれ――。……って、その感じもうフラれちゃった……?」


 驚いた。どうして知っているのだろうか。


「……どうして知ってるんですか」

「あちゃー、やっぱり? 声かけるタイミング遅かったかー……本当はもっと早く君に話しかけたかったんだけど」


 彼女は申し訳なさそうに僕を見つめる。


「この日記書き換えられたらいいんだけどなぁ」

「日記?」

 

 僕は彼女を知っている。

 同じ学校に通う同級生。クラスは違うが、彼女のフルネームも言える。

 七瀬綾香ななせあやか

 それが、目の前で日記だか何だかをぶつぶつ言っている、あまりにも妙な女子生徒の名前だ。


「あの、七瀬さんですよね」

「あれ? 私のこと知ってくれてるんだ」

「そりゃあ、有名人だから知ってます」


 そう、彼女は学校では超がつく有名人だ。入学当初からその名は学校中で何万回と聞いた。容姿端麗・成績優秀・文武両道の三拍子が最も似合う女子で、男子はもちろん女子生徒からも好感を得ている。ただ、女優やアイドルといった芸能活動には興味がないようだ。もったいない。


「有名人かぁ、なんだか照れるね」


 なんて言ってはいるが、頬は赤くないし、目はいたって冷静。

 これは照れてるフリだな。


「君は颯介くんであってるよね? たしか隣のクラスの」

「そうです。よく覚えてくれてましたね。こんな陰キャを」

「それは、まあ日記に書いてあったしね」


 また、彼女の口から『日記』という言葉がポツリ。

 

「さっきから、日記って何のことですか?」

「あー……」


あからさまに聞かないでくれと表情で主張してくる。

いや、そんなに嫌なら聞かないけども。

すこし考えてから彼女は言った。


「まあ、特別に教えてあげるよ。さっき失礼なことしちゃったし」

「まあ、そんなに気にしてないですけど」

「そっか、それならよかった。んで、日記っていうのはこれのことなんだけどね」


 そう言って彼女はカバンの中から少し小さめのノートを取り出した。その表紙には、『日記』と大きく書かれていた。いや、シンプルだな。


「これは?」

「これはね、私が高校入学してすぐに始めた日記なんだけど……まあ、すぐやめちゃったんだけどね」

「それがどうかしたんですか?」

「この日記、変なんだよね」

「変?」

「そうなの。久々に書いてみるかーって開いてみたらなんか記憶にない日記が書かれてたの。ほらこのページとか」


 僕に見せてくれたのはちょうど今日の日付が書かれているページだった。

 


 5月18日


 今日は2-Bの水宮颯介君が彼女にフラれちゃった。原因は将来性がないとか言われたみたいだけど、実際はほかの男の子と付き合ってるらしい。かわいそう。


 と。


「なんですかこれ……」

「私にもよくわからないんだけど、未来のことが記された日記っぽいんだよね。ほかにもちょっと戻ると昨日のこととかも書いてあってさ」

「……本当だ」


 そこには確かに実際に起こったことが書かれていた。

 しばらくその日記を凝視していると、七瀬さんは「もうおしまい」といってその日記をカバンにしまってしまった。

 正直信じたくない内容だった。あのノートが本当だとするなら、僕は浮気されていたことになる。もしそうだったら正直、何倍も辛い。

 

「とりあえず、今日のことは忘れてね」

「どうしてですか」

「そんなの決まってるじゃん。これを誰かに話でもしたら君、頭のおかしい奴だって思われちゃうからね?」


 それはそうかもしれない。


「そういうことだから、忘れなさいっ」


 そういって七瀬さんは反対のホームへと行ってしまった。

 それから僕は電車が来るまで、あの『日記』のことをずっと考えてしまっていた。





 

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