第8話 ペヤング


「お前ら、ペヤング食うか?」


尽の何気ない問いかけに、一同止まる。


「……ペヤング⁉︎」


純平「なんすか? ペヤングって?」


「あ、あれが世に聞くペヤングか!」と恭一が唸る。


大輔「知ってんのか? 恭一?」


恭一「うむ、内地には“ペヤング”なるカップ焼きそばがあるというが……まさか北海道にもあるとは……」


大輔「な、何言ってんだお前? 雷電か?」


尽「恭一の言う通りだ!関東じゃペヤングがスタンダードなんだ。お前ら、やきそば弁当ばっかだろ? 食ってみないか? 東京の知り合いに送ってもらったんだよ」


「いんすか? 食ってみたいっす」と竜が食いつく。


「どうせなら食べ比べしてみようぜ!」と健司が立ち上がる。「尽さん、やきそば弁当買ってきて、店で食べても良いっすか?」


尽「もちろん。食べ比べてみよう、面白そうだな」


健司「ありがとうございます! 行ってきます!」


数十分後、湯気を上げる二種の焼きそばが並ぶ。


健司「じゃ、両方できたので早速食べ比べしよう。いただきます‼︎」


一同「いただきます‼︎」


ズズズズズッ!


健司「ペヤング、美味いぜ!」


純平「たしかに!」


恭一「次はやきそば弁当だ」


ズズズズズッ!


大輔「ち、違うな!どっちも美味いけど……方向性が違う!」


竜「やきそば弁当の方が甘口だな。ペヤングはスパイシー、濃い味って感じ」


純平「そして、やきそば弁当はこの中華スープを合わせて完成だ!」と言ってズズッとすする。「この味に、このスープが合うんだよ!」


健司「よし、席替えだ!ペヤング派はこっち、やきそば弁当派はそっち!」



・ペヤング派:健司、竜、マスター(尽)

・やきそば弁当派:純平、大輔、恭一


恭一「何気に尽さんも参加してますけど?」


尽「これは俺も譲れない。東京出身だからな」と笑う。


健司「単純にペヤング美味いぜ。スパイシーで」


恭一「やきそば弁当の方が具材がうまい」


大輔「あとやっぱりスープだな。戻し湯の出汁が効いてる」


尽「でもペヤングは、それが無くても成立してるだろ? あのパンチで!」


竜「まぁ、どっちもうめーけどな」と笑う。


議論はさらに10分続いた。



「よし、多数決だ!」と純平が立ち上がる。「今回は尽さんもいるから、初の引き分けアリな。ペヤング派はビールを上げろ! せーーのっ!」


「ハイッ‼︎」


上がったのは、尽の持つ瓶のコロナ1本だけだった。


「くっ……お前らなぁ……」と尽が苦笑いする。


健司「いやー、麺はペヤングだったんすけどね。やっぱスープが……」


竜「そして、食べ慣れてるからなぁ」


尽「竜〜!それ言ったらお終いだろ〜よ〜」と肩を落とす。


大輔「とにかく、5対1でやきそば弁当の勝利だな!」


恭一「まぁ尽さん、ビジターなのによく頑張りましたよ」と笑顔で肩を叩く。


尽「お前ら、毎回どうでもいいテーマでこれを本気でやってるけど……負けると意外に悔しいもんだな?」と苦笑まじりに言う。



 その瞬間、店内に軽やかなイントロが流れ出した。リトル・エヴァの《The Loco-Motion》。

 

 まるで今この瞬間を祝福するような、跳ねるようなリズム。ビンの炭酸が微かに泡立ち、笑い声の余韻と混じり合って、踊り出したくなるような空気に溶けていく。

 

 勝ち負けより、味の違いより、もっと確かなものがここ【ロクロク】にはあった。


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