第2話 初めての


「あっついわね」

 私はカモフラ柄の上下を着てタクティカルブーツを履き、森の中を北へと向かって行く。


 日陰で水を取り出して飲むと、ジャングルにいるかのようで、これが異世界なんだと思う。

 まだ、モンスターと言うものに出会ってはいないが、それでも構えながら進むのは疲れて来る。


 草を払いながら歩を進めると大きなイノシシが木の根を掘っている。


「……」

 見つからないようにそっと後ろに退がるが、こんな時に限って、“パキッ”と足で踏んだ木の枝。


『ブルルルルルル』

 とこちらを向くイノシシには大きな牙があり、到底私では倒せないのは確実だ。


「いやァアァ!」

『ブルルルルルル』

 とりあえず逃げる!

 なんとしても逃げ切らなきゃ死んでしまう。


 追いかけて来るイノシシは木を簡単に避けながら追いついて来る。


「も、もう!来ないでよ!」

 だが足は止められない。

 追い詰められた私は、タクティカルグローブで手は痛くないので木を掴みグルリと回ると、イノシシは目標を見失う。

「んっ!っとにもー!しつこい!!」

 と剣鉈でお尻を斬り裂くと、

『プギャア!』

 と後ろ足が折れ曲がり、尻餅でもついたような格好のイノシシ。

「えい!やぁ!!」

 何度も斬りつけようやく倒れたイノシシはズタボロだ。

「や、やったわ……」

 倒したイノシシはインベントリに入れて、血の匂いがしないところまで離れると木に腰を下ろして休む。


「は、はぁ。こんなんじゃ身が持たないじゃない」


 レベルを確認すると一気にレベル5になっており、剣術と瞬足がスキルに追加されている。


 スキル取得値増加が働いてるみたい。

 アーミージャケットからビスケットを取り出して食べる。

 スタミナをつけなきゃやっていけないわね。


 あのイノシシ以上はもういないでしょ。


 と上を向くと、

「キャアァァァァ」

 蛇がいたので剣鉈を振り回して倒すと自分の腕くらいの大蛇だ。

「……もう、いやぁ」

 涙が出てくるが、このまま泣いていたらこの森で一夜を過ごす事になるので北を目指す。


 大蛇にイノシシ、次は何が出て来るの?


 と思いながら進むと急に開けた場所に出た。


「ん?女1人か?変な格好だな」

 よ、ようやく人に会えた。

「フグッ、う、ウエェェン」

「お、おい、どうした?女を泣かせるなっての!」

 と若い女性が男を叩くと、こっちに来て肩を寄せて声をかけてくれる。

「どうしたの?大丈夫?泣かない泣かない」

「は、はい、ふ、フグッ!ヒック、」

「よーし、それじゃあ、私はカヤよ。あなたは?」

 カヤは赤い髪のショートカットに赤い防具を着て腰に剣を二つ携えた綺麗な女の人だ。

 ようやく落ち着いた私は、

「レイ。私はレイです」

「そう、レイは1人?」

「はい、ようやく人に会えて泣いちゃいました」

 カヤは優しく頭を撫でると、

「そう、それは大変だったわね。私達はパーティーでここ、イーデンの森で狩りをしてるの」

 よく見るとカヤは傷があちこちにあり、まだ血が固まったばかりの傷まである。


「その傷……」

「あはは、傷はポーションを節約してるからね」

「『ヒール』」

「え?あわわ、も、もしかして回復魔法?」

 傷が癒えて行くのを見て驚くカヤに私は頷くと、カヤは抱きしめて、

「ありがとう!本当は痛くて泣きそうだったの!」

 と涙を流して喜んでくれた。


「おいおい、貴重な回復魔法使いかよ?何でこんなとこに1人でいたんだ?」

 さっきの男の人が聞いて来る。


「そ、それは」

「いいじゃない!そんなことよりメンバーを紹介するわね?この大男が大剣士のガイツ、で、今木の上にいるのがシーフのフェイト」

 カヤの指差す方向にいるのは木の上で遠くを見ている人だ。


「で、私が双剣士で、あとタンクのボイドがいるんだけど今は水汲みに行ってるわ」

 と紹介してくれるので、

「私はレイで、回復魔法を使えます。街を目指して森を北に向かってました」

「そう、なら私達と一緒に行く?」

「いいんですか?」

「いいよ、回復魔法で助けてね?」

「はい!」

 とテントの張ってある場所に行くと焚き火をしている。


「ガイツだ。食うか?」

 と肉を差し出してくれるので、

「ありがとうございます」

 受け取り食べると初めてこんなに美味しい肉を食べた。

「美味しいです!何の肉ですか?」

「あっはっは、ファングボアってイノシシの肉だ」

「え……あのイノシシ食べられるんですか?」

「おう、血抜きをちゃんとしてやればかなり美味いからな」

 焚き火をいじるガイツ。


「あの、これって血抜き出来ますか?」

 インベントリからファングボアを取り出すと、

「ウオッ!こ、これまたデカいファングボアだなぁ。だが傷だらけだな。……やってみるがちゃんとできるかな?」

 とファングボアを掴んで持って行く。

「そ、それより今のアイテムボックス?」

「インベントリです」

「えぇ!インベントリ?何それ?」

 カヤにはインベントリでは通じないようなのでアイテムボックスという事にした。


「凄い逸材ね。回復魔法にアイテムボックスなんて」

「そ、そうなんですか?」

 カヤは静かに、

「そうね、黙っていた方がいいわよ」

「はい、黙っておきますね」

「それでよし!レイはいくつなの?」

「25歳です」

「嘘!私より年上?」

「カヤはいくつなの?」

「19よ」

 私より6歳も年下なんて……しかもあんなに泣いちゃって、恥ずかしい。


「ご、ごめんね、泣いちゃって」

「気にしない、気にしない!」

 と笑うカヤはとても綺麗な女の子だ。


 私もなれるかな?

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