前代未聞

 三十分後……。

 どうにか迷子を親元に届けた睦月は、よろめきながら華音のベッドへと倒れこんだ。

 頭にはラーメン丼を被り、鼻には半分にした割り箸を挿し、顔にはサインペンでナマズヒゲとぐるぐるほっぺが描いてある。アホ丸出しの姿だった。

 こんなアホ丸出しではパレードの手伝いはできないので、ほうほうの体で戻ってきたのだ。


 しばらく鎧姿でベッドに突っ伏していたが、不意にむくりと起き上がる。

 起きた拍子に、鼻から割り箸が落ちた。そして、鎧越しにズキズキと痛む鳩尾をなでる。


「うー……うー。あばら骨、折れてんじゃないの、これぇ……?」

 呻きながら丼を頭から外し、鎧を脱いで、ジャージに着替えた。それから、タオルで顔の落書きを擦りはじめたところで、ふと思う。


「……って、そう言えば! やっぱあの二人、俺と同じで死んでたわけだよなぁ?」


 『あの二人』とは、芽衣子と橘の事だった。


「芽衣子さんにはさっき会ったけど……橘さんは、あのバラバラ状態から生き返ったわけか……? う、ちょ、ちょっと気になるなぁ」


 手足を切り離された彼は、今、どうなっているのだろうか? 気になって仕方がない。

 睦月は、タオルを置いて部屋を出る。廊下に並ぶドアを、一つ一つ見ていった。

 そのうちのひとつに『橘』のネームプレートを見つけ、ノックする。


「誰だね?」


 少ししゃがれているが、間違いがない。橘の声だ。


「俺です。霜上睦月です」


「ふむ、君か。入りたまえ!」


 言われて入った部屋の中は、ほとんどが黒と赤で構成されていた。

 壁紙は黒で、ソファは赤、高そうなマホガニーの机の上には塩煎りナッツの瓶があり、その隣に真っ黒な表紙の、日記らしき本が置いてある。

 壁の棚には吸血鬼関連の書物やDVD、ブランデーやワイン等の酒類が並んでいる。大型のテレビとオーディオセットがあるので、これで見ているのだろう。


 部屋の中央には赤いシーツのベッドがあり、そこに橘が寝ていた。


「睦月君、聞いたよ。君、否死者になったんだってね」


「はい。橘さんもなんというか……その、なによりです」

(死んで生き返った人に、なんて声かけていいかわからん……。それにしても、すごい色のベッドだな……安眠できるのか?)


 その視線を受け、橘が言う。


「失礼。まだ、体がしっかりと繋がってなくてね。寝たままで話をさせてもらうよ」


「どれくらいで普通に動けるようになるんですか?」


「そうだね……明後日には立ち上がれるかな。普通に動くには、まだ十日はかかる。まったく、関節に沿って切り離すなど面倒な事を……おかげで動きがギクシャクする」


「誰がやったんですか?」


「さあ、わからんよ。最後に覚えているのは、月影庭園からドゥンケル城へと向かう道すがらだったな。芽衣子君がいないものだから、あの辺りのゲストが退屈してはいけないと、我輩が相手をしていたのだ。警備主任のケンゾーさんが見回りに来たので挨拶をして、その少し後に背後から誰かに襲われたのだ。……ガツンと一撃、間違いなく殺すつもりの強さだった」


「最後に会ったのはケンゾーさんか……」

(しかし、殺人事件の被害者から直接話を聞けるだなんて、前代未聞だろうな)

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【異世界ラーメン屋台書籍2巻コミカライズ中】テーマパークで働いたら連続殺人に巻き込まれた件。怪奇と幻想『ストレンジ・ワールド』へようこそ! 森月真冬 @mafuyu129

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