合法イケメン
ちびまるフォイ
ブサイク・ディストピア
「できたぞ! 新しい薬だ!!」
長年の研究のすえに新薬の開発に成功。
さっそく臨床試験を申し込むとすぐに断られた。
「どうして断るんですか。この薬があれば世界はもっとよくなるのに!」
「薬は問題じゃありません」
「じゃあ何が問題なんですか!」
「あなたです。あなたモテないでしょう」
「そ、それが研究となんの関係が?」
「ブサイクの生み出すものは、認可されないんですよ」
ここのところ研究室にこもりきりだった。
世俗と離れすぎて世界がどう変わっているかもわからなかった。
電車にはブサイク専用車両がもうけられ、
イケメンだけが選挙の投票権を得るようになっていた。
「世界はどうなってしまったんだ。
これじゃブサイクは生きていけないじゃないか」
「人口におけるイケメン比率が増えるので死んだほうがありがたいです」
「ひどいっ!」
すっかりブサイクの居場所はなくなっていた。
その後も研究を重ねて論文を出すが「お前モテないだろ」で認可されなかった。
その一方でイケメンの提出したものはノーチェックで通っていく。
「このままじゃいつかブサイクからは人権がなくなり
ひいては粗大ゴミと同じ扱いになってしまう!」
危機感を覚えた。
向かったのは国の中心ではなく、整形外科だった。
「イケメンにしてください!!」
注文はひとつだった。
手術が終わると鏡には驚きのイケメンができていた。
「すごい、めっちゃイケメンだ……」
「石膏で固めているので表情変化はできないです。
そこだけ注意してくださいね」
「ありがとうございます。これでこの世界でも生きていける。お代は?」
「イケメンなので不要です。近くを通ったブサイクから接収します」
「そんなこと駄目です! はいお代!」
「ああ、イケメンはやっぱり心もイケメンなんだ……!」
外科医は嬉しそうにしていた。
イケメンになると急に人生が生きやすくなる。
同じ論文や研究をイケメンに生まれ変わって別名発表すると、
あっという間に自分は世界を変えた偉人として祭り上げられた。
「さすがイケメン!!」
「イケメンは正しい!」
「イケメンは賢い!!」
「はは、ど、どうも……」
しかし自分にはやりたいことがあった。
「イケメン・コンテンスト」に出馬して大統領の座を勝ち取った。
イケメンになったことでやっと世界を動かすことができる。
「新大統領の〇〇です!
私が大統領になったので、ブサイク保護法を申請します!!」
「よくわからないけどイケメンだからOK!!」
「こっち見て~~!!」
すでにアイドルのライブ会場のような様子だったが、
ブサイク保護法の詳細を語ると会場の空気は一気に冷める。
「イケメンならなんでも許されて、
ブサイクは何もかも許されない世界を終わらせます!
これからは顔の優劣で人間性を否定しないようにします!」
「ふざけんな! ブサイクを認めろだと!」
「ブサイクは心もブサイクなのよ!」
「イケメン以外は追い出して!」
「どうしてそんなに排除しようとするんですか。みんなで手を取り合って……」
「ブサイクはなにするかわからない!
どうしてそんなにブサイクの肩を持つんだ!」
「それは人間という枠組みでは同じだからです!」
「さてはお前、ブサイクだな!! 整形隠匿罪だ!!」
「え!? うわっ!?」
大統領を守るはずだったSPが急に矛先を変える。
ネットの特定班が整形外科を洗い出して告発してしまう。
「やっぱりだ! こいつはナチュラル・イケメンじゃない!!
この世界を破壊しようとしているブサイクテロリストだ!!」
「たしかに整形はしました!
でも、イケメンだから何もかも許されるのはおかしい!」
「元ブサイクの言葉なんか信じるな! どうせブサイクな内容だ!!」
大統領就任の初日に、整形隠匿罪で刑務所にぶち込まれた。
整形もはがされて元のブサイクという十字架を背負わされる。
「はあ……これからどうすればいいんだろう……」
刑務所には自分と同じような人が何人もいた。
美女の近くでブサイクが息をしていたので逮捕。
ファミレスでブサイクが飯を食っていたのが目に不快なので逮捕。
金欠のイケメンにお金を渡さなかったので逮捕。
などなど。
自分を含めて彼らの行き着く先は死刑だけだった。
ブサイクだから。
「囚人ブサイク番号2319番。出ろ」
自分の番号が呼ばれた。
「ついにお迎えか……」
ブサイク用ガス室まで看守に誘導される。
すると、廊下にひとりのイケメンが立っていた。
「こんにちは、ブサイク。ちょっと時間よろしいですか?」
「これから殺されるんですが……」
「ならここで最後の契約をしましょう」
「はい?」
「私は見ての通りイケメンです。何もかも許される。
イケメンは路上でうんちしても崇められる」
「それくらい知っています。なんの用ですか?」
「あなたの最後の願いを聞いてあげましょう。
最後になにか食べたいものは? 最後に書きたい手紙は?
あなたの最後の願いをイケメンの私が叶えます」
「どうしてそんなことを……」
「この慈善事業をすることでイケメンに泊がつくんです。
ぶっちゃけ、あなたようなブサイクが何人死のうと
イケメンの私には街のゴキブリが1匹死ぬのと同義です」
「それじゃ、ひとつだけいいですか?」
「もちろんです」
「これを……。この薬を外に撒いてください」
「それだけでいいんですか? 私はイケメンなんですよ?
ブサイクが身分不相応な願い、たとえば美女と手をつなぎたいとか。
そんな願いも叶えられるんですよ?」
「いいんです。これで……これだけで」
「わかりました。叶えがいのない願いですが、承りました」
「よろしくお願いします」
イケメンは薬を受け取って、刑務所の外に撒いた。
風にさらわれて薬はどこかへ消えてしまった。
その薬もといウイルスの一番最初の被験者は撒いたイケメンだった。
「うっ!? なんだ!? 顔がっ……!」
ウイルスに感染するや顔がバキバキと音を立てて変形。
改変されたDNAにそった標準の顔になってしまう。
イケメンは怒って絞首台のブサイクに詰め寄った。
「お前! いったい世界に何を撒いた!?」
「すべての顔を同じにするウイルスです」
「なんてことを!! 早く顔を戻せ!!」
「できません。それにこれは感染します」
「はあ!?」
イケメンが吐いた息の気流にのってウイルスが広がる。
看守やブサイクも感染して同じ顔になる。
「これじゃイケメンに生まれた意味がないじゃないか!」
「ブサイクに生まれた差別もこれで無くなりますね」
「このっ……ブサイクテロリストがぁーー!!」
元イケメンは絞首台の足場スイッチを押した。
それでもウイルスは止まらない。
世界すべての人間を同じ顔に作り変えて戻らなくしてしまった。
「みんな同じになれば……平和に……」
首を吊られながら、元ブサイクは最後の言葉を呟いて死んだ。
彼の悲願はかなってイケメンかどうかで決めつける世界も死んだ。
数年後。
「170cm未満の人間は、街の景観を損ねるので消えろ!」
「Dカップ以下の人間は息をするな!!」
同じ顔になった人間たちは、また新たな世界を作り出していた。
合法イケメン ちびまるフォイ @firestorage
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