第29話 進化

「み………見えたか…?今の攻撃…。」


ヨーベイガーの質問に対し首を横に振る銀之助とC.B。

高速移動ではない。言うなれば瞬間移動に近いスピード。

あの翼を出したことにより力が増したのだろう。

司会も煽りを入れ、場を持ち上げる。

パルムはまた髪に魔力を込めつつチェリオスに向かい走る。

どの道殴り合いは必須。

それにここから中央に移動しなければラインアウト狙いでぶっ飛ばされるだろう。

何にせよ離れなければならない。

チェリオスは余裕などを見せずにファイティングポーズを構えている。

いつどのタイミングで攻撃が飛んでくるかわからない。

油断は禁物である。


「スライサーショット!!!」


腕を振り光の刃を飛ばすパルム。

これもグラーケンの元で会得したのだろう。

しかしさも当然の如く躱され気がつけば本の数cm目の前にチェリオスが接近。


「ぁえ………っ…?」


「遅すぎる。」


ガゴッッッッ!!!!!


顎めがけアッパーカットを放たれた。

しかし予備動作すら見えないのでまともに喰らうほかない。

パルムは髪の毛を含めた格闘術で応戦する事はせずにリングに深く何本も何十本も突き刺した。

兎に角ぶっ飛ばされた後のラインアウトを回避するためだろう。

チェリオスはパルムの動きを分かっていたように次々と攻撃を加え、同時に手刀などで髪の毛もぶった切っていく。

筋肉が発達したチェリオスを捕縛出来ていたコットンヘアーロックの硬さがまるで通じていない。

パルムは今まで以上にサンドバッグにされている。

髪の毛を切られてはまたリングに突き刺す。

そしてガードや流し、時折パンチなどで応戦するもものの見事に流されていく。


(早すぎる…………!!!とてもじゃ無いけど反撃出来へん…!!!)


チェリオスが執拗に連撃を浴びせるのには理由があった。勿論勝つためではあるが、コットンヘアーロックで捕縛されたときにパルムをしっかりと見たのだ。

ほぼ傷が塞がっていた。あの短い時間で。

魔力を注ぎ回復したのでない。

自動的に回復していたのだ。

青痣は消え、裂けた肉は塞がり出血は止まっていた。

只者ではない。そう感じたのでチェリオスは最初こそラインアウトを狙っていた。

だがそれも対応され反撃を喰らった。

なれば気絶させるしかない。


「ここまでよく耐えたッッッ!!!君を笑うものは誰もいないだろう!!!俺もこれ以上の攻撃は加えたくない!!!今すぐに降参しろ!!!復帰出来なくなるぞ!!!」


ズガガガガガガガッッッッ!!!!!


繰り返される髪の毛杭。

尋常ではない回復力のあるパルムでも止むことのない連撃を浴びせられたらたまったものではない。

パルムは意識が薄くなっていた。


(あ………アカン……い、意識…が…。)


遂にガードが綻び、ダランとぶら下がる。

マトモに殴られ続けるパルム。

正面だけでなく、四方八方からの熾烈な拳の数々。


(なんか痛みも無くなってきたな…。ていうか、なんで俺こんなことしてるんやっけ…。)


戦意が消える。

というか、消えた事すらも理解出来ていないのかもそれない。


(………今日雨降るかも言うてたからなんか曇ってきたな…。洗濯物外に干したっけ…?)


全然この場に関係のない事を考えている。

パルムは一回戦敗退なのだろうか。


(皆カフェに来てくれてありがたいよなぁ…。魔力、異星人差別のないカフェやから寛いで欲しいもんよ…。……ん、そういやカフェは…今日休みか…。せやんな…。、用事あるし…。………用事?)


「これで本当に終わりだッッッッ!!!!!」


(そうや…。カフェの経営資金がもう無いんやった…。それで…えと…そうや、トーナメント参加したんよな。相手…チェリオス?やっけか。強いよなぁ…。)


パルムの髪が揺らめく。

誰にも気づかれることなく。


(せや…強いけど…、俺も負けられへんのや…。銀ちゃんにサっちゃん、皆も戦ってる…。ボーナとかグレートとかも見に来てくれるはず…。それに…もしカフェ畳むことになったら…皆が楽しめる…魔力の数字なんか関係ない楽しめる場所が無くなる…。)


しかしパルムは眠りにつくかのように目を瞑ったまま。

このまま寝ようとしている中、声がかすかに聞こえた。


(…………?なんや…?)


「パルムーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!しっかりせぇやぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」


(銀ちゃんか…。うるさいの…。寝かせてくれよ…。)


「しっかりしやがれパルムッッッッ!!!」


「起きてぇぇぇ!!!」


「こんかとこでくたばるタマじゃねぇだろおおぉ!!!」


ボーナやエメリィのいつものメンバーたち。

それに銀之助の横にはヨーベイガーとMr.C.Bも声を上げている。


パールーム!

パールーム!!

パールーム!!!


周りの観客も次第にパルムの応援に加勢。


(みんな…。)


光がパルムに集まる。

しかし周りのものやチェリオスには見えていない。

応援という形の素粒子。木霊。

それがパルムの身体を包み細胞一つ一つに響く。


(負けるわけには…)


「熱いな!!!仲間や応援は心の支えになる!!!しかしッッッ!!!どうすることもできまいッッッ!!!これで…………!!!」


チェリオスの手刀が飛ぶ。


「終わりだッッッッ!!!」


(負けるわけにはいかんッッッッッッ!!!)


ドゴオオオオオオオォォォォォッッッ!!!!!


リングに砂煙が舞う。

銀之助たちが固唾を飲み、見守る中一つの影が激しく回転しながら吹っ飛ぶ様子が見られた。

その影は受け身を取りしっかりと着地。

チェリオスであった。

頬に何かぶつけたような跡が残り流血。

少し動揺しつつ構えを取った。


「まさか………………、土壇場で進化したのか……!!?!」


砂煙が収まりパルムが姿を表す。

いつもの金髪では無い。

綺麗なキラキラとした水色に変色している。

当然のように傷は完治。


「なんや…………コレ…?」


これには銀之助たちも驚きを隠せない。

ヨーベイガーになんだあれと聞かれるも何も答えられない。


「………パルム。君はどうやら変身型の異星人らしいな。ガーンキュー星人が翼を生やせるように君はタイプを変えられるようだ。だが………」


チェリオスがリングを蹴り前に出る。

それがどうしたと腕をクロスし突進。

そのままパルムを押し出そうとしたのだろう。


ビュンッッッッッッッッッ!!!!!!


「何ッッッ!???!!!」


跳び箱の要領でチェリオスを飛び越え背中に蹴りを入れる。


チェリオスはすぐに反撃に出るもすぐに対応され軽くではあるがカウンターなどを貰う。


ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッ!!!!


「え………なんやコレ……。俺なんで動きについていけとるんや………?」


「自覚が無いのか。お前は今超速で動ける形態に変わったんだ。」


ビシッと指をこちらに向ける。


「俺こんな力あったんか…………。」


「せっかくだから名前でもつけたらどうだ?」


「せやなぁ………そやったら…俺が好きなウルトラマンから文字って…………。」


パルムが真剣に、かつ少し微笑みながらチェリオスに構えを取り口を開く。


「パルム・スカイハイモード。」









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