第30話 空中大決戦!

突如髪の色がスカイブルーに変化したパルム。

油断していたとはいえ、あの素早いチェリオスに一撃を入れた。

所謂タイプチェンジ。


「スカイハイモードか、いい響きだ。お互いにスピードタイプ。これでいい勝負が出来そうだ。」


構え直すチェリオス。

パルムも折れた前歯はとっくに生え、傷も塞がっている。

対してチェリオスは先程の一撃のダメージが残る。

端から見ればパルムに勝機がありそうなもの。

しかし、勝負と言うものは算数ではない。

出たとこ勝負などの言葉もある。

結果は神のみぞ知る。

会場は当然大盛りあがり。

銀之助も口に手をメガホン代わりに当て、大声で応援。

クライマックスである。


「………。」


「………。」


睨み合う2人。

時が止まったかのような空間。

それを見守る大勢の観客の中、1人の子どもが持っていたぬいぐるみを落としてしまった。

次第に会場のアスファルトに近づく。

そして足が接触する瞬間。


「!!!!!」


「!!!!!」


バッッッッッッッ!!!!!!!!!!


一気に目を見開いた2人が瞬速で動き出す。

いや、チェリオスに関しては目ん玉しかないけど。

互いの左回し蹴りが空中で衝突。

やはり戦闘経験の差か、パルムが多少ふらつく。

それを逃さず一気に畳み掛けるチェリオス。

パルムもなんとか防いだり躱したりでついていけてはいるものの、動きにキレが少ない。


ガガガガガガガガガッッッ!!!!!


(やはりな…、土壇場での進化…。追い詰められたから細胞が活性化されたとは言え、自分自身の動きに慣れてない…。まだ勝機はあるッッッ!!!)


チェリオスはパルムの頭を両手で掴み、膝蹴りを入れる。

パルムはなんとかギリギリのところで顔に両手を持ってきたのでこれを防ぐ。


「足元ッッッ!!!」


「な…ッッッ!!!」


空中での水面蹴り。

バランスを崩したパルムのみぞおちに強烈なエルボーを叩き込む。


「ブフッッッッッッッッッ!!!!!」


霧のように血を噴き出すパルム。

次に膝を背中に当てつつ左手でパルムの顔、右手でパルムの左足を押さえ込みニー・バックブリーカーの体勢に入った。


ググググ…


「ガハッッッッッッッッッ!!!!!」


「パルムーーーー!!!!!しっかりせぇ!!!」


そしてそのまま急降下。

リングに叩きつけるつもりなのだろう。


「これで終わりだッッッッ!!!観念しろパルムッッッ!!!」


位置エネルギーを利用した一撃。

近づくリング。


「ヘヘッ…。」


追い込まれているのはパルムにも関わらず、何故か不適に笑う。


「何がおかしいッッッ!!!」


「チェリオスさんよぉ…アンタ……………焦ってるんか?」


「ッッッ!!!」


明らかに核心を突かれた様子を見せる。

その通りであった。

ガーンキュー星人の翼は勿論身体の一部である。

異星人には血管やリンパ管のように【魔力管】という組織が体に存在するものがいる。

そしてこの翼には指先やつま先に血管が詰まっているように、魔力管が集中している。

ガーンキュー星人の翼は本来空を飛ぶ時などに使われるが、戦闘時となれば話は別だ。

戦闘時はこの翼が活性化し、大量の魔力を消費するので短期決戦で決着を付けなければならない。

チェリオスの魔力は減少傾向にあった。


「それがどうしたッッッ!!!仮に俺が焦っていたところでこの状況を打破出来るとでも言うのかッッッ!!!」


「できるさッッッ!!!」


ブフゥーッッッッッッッッッッッッ!!!!!


パルムは先程のエルボーのダメージで吐血した残りの血を口に含んでいた。

それを核心を突かれ瞳を見開き睨みつけるチェリオスに思いっきり吹きかけた。

まるでプロレスの毒霧のように。


「グァッッッ!!!」


思わずパルムを離す。

しかしリングに接触ギリギリのタイミングだったので、両者とも叩きつけられた。

砂煙が舞うのは一瞬。

何故ならばリングに着いた瞬間からパルムとチェリオスは正面切って殴り合いをしていたからだ。


「ダラァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!」


「チェァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!!」


激しく肉と骨がぶつかり合う音が響く。

しっかりと顔の横に腕でガードをしているものの、お互いに攻撃は全部ヒット。

リングを真っ赤に染め上げていた。

パルムが左ストレートを放とうしたが、足がもつれこけかける。

チェリオスはそこに右チョップでパルムの鎖骨を砕こうと振り下ろした。


「ヤベ…………ッッッ!!!」


ピンッッッ………………


ドサァァァ!!!


なんと倒れたのはパルムではなくチェリオス。

受け身を取れずに顔面を殴打。

何かが足に引っかかった、もしくは絡みついたかのような感覚。


「な…なんだ…………、こ………これはッッッ!!!」


足元を確認してみると、金色に輝く髪の毛が絡みついていた。

そう、パルムのコットンヘアーブロックの残骸。

チェリオスのニー・バックブリーカーの落下位置が運良く張り巡らせた髪の毛の場所だったのだ。

そしてこの気が抜けた瞬間、パルムにスピニングトーホールドをかけられた足の痛みも蘇り上手く立つことが出来ない。


「クソッッッ………!!!………ハッ!!!!!」


「デリャァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!」


立ち上がろうとするチェリオスの膝を利用し、シャイニングウィザードを顔面に叩き込む。

今度はチェリオスが流血。

パルムは間髪入れずにもう片方の足にエルボードロップを入れダメージを与える。

悶絶するチェリオスではあるが、こちらもこちらでプライドというものがある。


「なめるなよおおおぉぉッッッッッッッッッ!!!!!!!」


熱魔法を纏った手刀で絡みついた髪の毛を焼き切り、パルムを袈裟斬り。


「グウウウゥゥゥッッッッッッ!!!!!」


なんとか踏ん張り、ダラダラと胸元から流れる血を無視しチェリオスを持ち上げ高く跳んだ。


「何やってんだい!!!チェリオスには翼があるんだよ!!!空中に運ぶなんざ自殺行為だ!!!」


叫ぶファニィを腕で制止するケロンバ。


「ファニィ様それは違うゲロ!もしチェリオスが飛ぶ事を優先すれば魔力管を通じて両足の痛みが増すゲロ!だからチェリオスは翼を使わずに打開するしかないゲロ!」


「なるほど!!!それがわかっててパルムはチェリオスを持ち上げたのか!!!」


力説を語るケロンバに関心するファニィとゴードン。

申し訳ないけどパルム多分そんな事考えてへんと思う。

限界ギリギリでめちゃくちゃな行動取ってるだけやと。しかしまぁ、それがフィニッシュホールドにつながるかもしれないのだからパルムは【運】が強いのだろう。


「これで終わりやチェリオスッッッッッッッッッッッッ!!!!!」


「クソォォォォォォッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」


急降下するパルム。

チェリオスの両足の内側を掴み、完全にロック。

これがとどめになるのかどうかだ。


「サンキューな!!!!!楽しかったぜッッッ!!!!!」


グラーケンの元で鍛え上げた(2ヶ月)時に編み出した必殺技。

初のお披露目である。


「リュウジンバスタァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!


……………………………………


「ゴバッッッッッ……………」


ドサッ………………


戦闘終了時、立つものと倒れるものの2つ。

パルムは立ち、チェリオスは地に伏せた。


カンカンカンカンカンカンカンッッッッッッ!!!


ゴングがけたたましく響く。

14分05秒。

パルムの勝利である。







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