第27話 目ん玉戦士

傷を癒した銀之助とヨーベイガーは選手専用観覧席に座った。

すると綺麗に背を真っ直ぐにして立っていた先客が居た。


「あ、これはこれは。どうもお疲れ様です。」


帽子を外し頭を下げこちらに丁寧に挨拶する男。

Mr.C.B。

どうやら先程の試合での負傷は大したこと無いらしく、胸にデカい痣が出来た程度ですぐに回復したらしい。

互い互いに健闘を称えながら肩を叩く。

とてもいい試合だったと。


「いやぁ…お恥ずかしい限りですよ。」


「何言うとんねん。バルカンのあのパンチ受けて痣出来るだけで済むほうが凄いて。俺やったら木っ端微塵になっとるわ。」


「めちゃくちゃ速かったからな。恥ずかしくもなんともねぇよ。」


「ハハハ、ありがとうございます。そう言ってもらえて…。本当の事を言えば銀之助さんたちのように熱い試合運びをしたかったんですがね。」


後頭部に手を当て笑うC.B。

噂に聞く異次元人は残虐そのものらしいが、この男からはそんな気配が微塵を感じられない。

正真正銘の優男である。

ポツポツと談笑しつつ、今度またサーカスに遊びに行かせてくれと伝えるといつでも来てください!と喜びながら少し大きめに叫んだ。

するとまだ選手がリングに上がっていないにも関わらず観客の声がちらほらと沸き上がる。

始まるのだろう。


「大丈夫かなパルム。」


[皆様お待たせ致しました!!!第1試合Cブロック戦を始めたいと思いますッッッッ!!!]


ウオオオオオオォォォォッッッッ!!!!


[赤コーナー!!!頭部は目ん玉!メンタルは肝っ玉!一切無駄のない筋肉から繰り出される攻撃は目にも留まらない!瞬速のファイターであのアスカ・バトラーの兄!身長198cm!体重92kg!魔力315万パワー!セクター=ロック・ナインからやってきたぁぁぁ!!!チェリオス・バトラー!!!]


轟音のような歓声が響き渡る。

その中にゆっくりと現れたその男、頭部はまるで目玉おやじのような眼球そのもの。

鍛えられた筋肉は決して偽物ではない事がわかる。

笑顔で観客に手を振りながらリングに上がり、ストレッチを始めた。


[続きまして青コーナー!!!金髪にエメラルドグリーンの瞳!ビビリでアホでションベン小僧!しかし!やる時はやるのか!?多分やらんだろう!身長155cm!体重65kg!魔力120万パワー!地球人のおおおぉぉぉぉ!!!!!パルムウウウゥゥゥ!!!!!!!!!]


歓声が沸き上がる中出てきたのはもやしのように干からびたパルム。

腐ってしまっていた。


「あの方がパルムさんですか。萎縮してしまっていますね…。」


「おいおいしっかりせぇやパルム!情けないのぉ…。」


「お前が言うな。」


頭を抱える銀之助を横に腕を組み冷静にツッコむヨーベイガー。

サーシャと違ってビビり散らかす情けないカフェ店員2人。

銀之助はなんとか1回戦を突破したが、見てて本当に心配になってくる。


「パルムー!!!しっかりせぇ!!!お前は弱ない!!!サっちゃんにしばかれるぞ!!!」


エールを受けてハッ!と目を覚ますパルム。

銀之助はしっかりとこちらに向かいサムズアップ。

パルムも下唇をへの字にしながらもどうにか踏ん張りグッドサインを返す。

ブルブルと震えるも先程のもやし状態と比べたらだいぶマシだ。


「応援してくれる仲間が居るのか。熱いな。」


対戦相手であるチェリオスに向き直すパルム。

相手はこちらと違い腕を組み自信満々である。


「お、おうさ!兄ちゃんもお、おるんやろ!応援してくれるもんら!」


「勿論だ。ここには来ていないが、母星で俺の勝利と帰りを待ってくれている家族と村の皆がな。」


チェリオスの目を見たら分かる。

いや、目しかないけどもその瞳に映る炎は決して負ける事が出来ない何かを背負っている。

だからとは言え、こちらも負けられない。

ここは相手に同情する場では無い。

互いの力をぶつけ合う真剣勝負の場である。

まだ見てて不安ではあるが、パルムもどうやら腹を括った様子。

両者が真ん中で拳を合わせ、リングの両端に移動。

ゴングが高らかに鳴らされた。


カーーーーーーーーンッッッッ!!!!!!!


ゴングと同時に疾風のようなスピードで突っ込んでくるチェリオス。

やはり見た目通りのスピードタイプ。

ここで防いでも勢いでリングアウトは確実。

パルムも同じく地面を蹴り飛ばし前に出た。


「行けえええぇぇぇパルムウウウゥゥゥッッッッ!!!!!」


ドゴォッッッ!!!と拳と蹴りがぶつかる音が響く。

チェリオスが拳を放ったのでこちらもと思いパルムも拳で迎え撃とうとした。

しかし、瞬時に蹴りに変えた。

もし拳で対抗したら砕けると直感したのだ。


「賢いんだな!いい判断だ!」


「サンキュー目ん玉さん!!!」


(なんちゅうパンチ力じゃ…!足が痺れよる…!!!)


リング中央で殴り合う2人。

パンチとキックの攻防。

途中躱したり流したりで近接格闘を繰り広げていく。

最初こそパルムは慣れないぎこちない動きであったが、グラーケンの道場で鍛えた事もあり少しずつ慣れてきた。

相手のパンチに合わせカウンターを確実に打ち込む。

時折フェイントなどを仕掛け、チェリオスを翻弄。

いい流れである。


「クソッ!」


(いける!!!このまま押し切ったらぁ!!!)


「やるじゃねぇかパルム!このままラインアウト狙えるんじゃねぇか!?」


ヨーベイガーが銀之助に顔を向けガッツポーズ。

しかし銀之助は怪訝な表情を浮かべていた。

相方であるパルムが相手を追い込んでいるのに喜んでいない。

どうしたのかと聞こうとすると、C.Bが口を開いた。


「いや…………あのままでは駄目です…!」


「あ?何がだよ。どう見ても追い込んでるだろ。」


「俺も…チェリオスがわざと追い込まれてるようにしか見えん…。」


「オイオイ銀之助もかよ。相方なんだからもうちょい信用してやれよ。」


「いや、勿論信用しとる。パルムは確かにビビりですぐにションベン漏らすけど、本人はしっかり強いんや。弱くない。でもよ…アイツは実戦経験が少ないんや。」


会場が盛り上がる。

あの戦闘力が高いガーンキュー星人が追い込まれている。

それも地球人にである。

チェリオスは苦しそうな表情を浮かべパルムの攻撃を防ぐのみで反撃できていない。

そして遂に限界が来たのか、足元が綻びリングと接している足が片方だけになりバランスを大きく崩した。 

パルムがこれを逃すはずなく、中段回し蹴りでトドメを刺そうと思いっきり放った。


「ッッッ!!!あかん!!!離れろパルムッッッ!!!」


「今やッッッ!!!」


ドゴッッッッッッ!!!!!!!!!


激しく横転し吹き飛ぶ。

なんども身体をリングに打ち付け、30mほど距離を開けられた。

そう、パルムがである。


「オゥ………オエエェエエエェェェッッッ!!!」


腹を抑え口から胃酸と涎を吐くパルム。

試合前にたらふく食べた食事は短時間で消化されたようで、吐瀉物こそ無かったがだいぶ苦しそうだ。

何故ならチェリオスに強烈な前蹴りのカウンターを貰ったからだ。

前蹴りはみぞおちにクリーンヒット。

チェリオスは凄い体勢で静かな顔である。

さも当然のように。


「いいパンチとキックだが、動きが単調で遅過ぎる。それに自惚れも垣間見えるな。」


「おっ……、お前ぇぇ…!!!わざと追い込まれた……演技…しよったな………!!!」


「別になめてかかった訳じゃない。君の動きを確かめていたんだ。そして分かった…。君は…………………俺の敵では無い。」


F1カーのように突進を仕掛けるチェリオス。

パルムは反応に遅れ、顔面に膝蹴りを貰った。


「今楽にしてやろうッッッッッッッッッ!!!」






















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