第26話 不平不満は行動に伴う
銀之助とヨーベイガーは医務室へと運ばれ、魔力ドリンクなるものを飲まされ卵型ソファーのような椅子に座った。
ヨーベイガーは銀之助と違いボディに損傷は無いからと医療スタッフに断りを入れたが、内臓に損傷があるかもしれないとの事で大人しく指示に従うことにした。
他のものはどうか分からないが、両者は隣同士に座っている。
「凄いなこれ…。初めて飲んだけど痛みがおもろいぐらい引いていくわ。アニメか漫画みたいやな。病院とかに普及すりゃええのに。」
「しねぇよ、んな事。これも結局利権絡みの医薬品だからよ。薬学会も病院も、医療界隈じゃこんなもん普及しちまったら儲けが出来なくなる。所詮は商売だからな。」
「酷いもんやの。これ使たら内臓損傷も切断された部位もすぐに治んのにな。………もしかしてこの宇宙トーナメント自体嫌われてたりするんかの。」
「魔力ドリンク絡みで言ったら嫌われてるな。怪我人とか重体のもんに使ってやれって。俺もその通りだとは思うけどよ。でもこれ、病気には効かねぇから。」
先程の試合中のしかめっ面ではなく、本来の彼の優しい顔が出ておりジェスチャーなどを交えながら会話をする2人。
勝ったのは銀之助であるが、ヨーベイガーは鬱憤が晴れたのか付き物が取れたようにも見える。
分かり合うための喧嘩だったのかもしれない。
それに魔力ドリンクは大量生産が確実なものではなく、そのため需要が高い。
そんなものを選手に与えているのだ。
贅沢なものである。
しかしそうでもしなければ死人が出るだろう。
女性の部でのマンナなどは両腕を欠損した。
しかし現在は腕がくっつきサーシャと話している。
「サっちゃん大丈夫かなぁ…。まぁあの子が負ける姿なんか想像出来へんけども。」
「ん、連れが居んのか。ま、お前の連れなら大丈夫だろ。」
「サンキューな。因みに金髪の男おったやろ?アイツも連れやで。3人でカフェ経営してるからよ。」
「そんな事言ってたなさっき。……………また今度俺も行っていいか。」
「当たり前やろ。魔力数値なんざ関係無しのカフェなんやからよ。」
というかどこでコーヒー飲むんだろう。
ヨーベイガー、こいつ口見当たらないんすけど。
そんな会話をしつつ、もう傷が癒えたヨーベイガーは先に立ち上がり腕を組み近くにあった中継モニターを眺めていた。
負けはしたが母星に帰っても仕方がない。
最後まで自分を負かした銀之助という男を見届けるつもりか。
銀之助も同様にモニターを眺める。
そこには予選で手を貸してくれた海賊の服装をした異星人とリクルートスーツを身にまとったスラッとした男が対峙していた。
「あ…、あの兄ちゃん予選で俺助けてくれた…。」
「キャプテン・バルカン。巷の銀河じゃアイツを知らねぇやつは居ねぇぐれぇだ。」
「キャプテン………バルカンか………。前にどっかで見たことあるんよな…。」
[皆様お待ちかね!!!1回戦Bブロックの試合を行います!!!]
ウオオオオオォォォォォォッッッ!!!
[青コーナー!!!出自などは謎に包まれており!宇宙を股にかけるトコヨ海賊団船長!!!強さだけ語られる理由は相手を瞬き程度の刹那で相手をしとめるからなのか!?!身長228cm!体重233kg!魔力1000万パワー!ペイラー星人のおぉぉぉぉ!!!]
[キャプテエエエェェェン!!!バルカァァァァァァンッッッッッッ!!!!!!!]
歓声が沸き上がる。
謎に包まれているのも魅惑の1つであるが、無口でクールガイの彼に女性陣は特にメロメロである。
それに強さも相当なものらしい。
銀之助とヨーベイガーはモニターから目を離せないでいた。
「遂に4桁万の魔力が出てきたんか。魔力なんざただの数値言うたんはテメェやけど、やっぱり馬鹿でかい数値聞いたらビビるもんがあるな…。」
「おいおい、しっかりしろや。」
[続きまして赤コーナー!!!サーカス団員は何かしらの身体的苦難をかかえるメンバーのみ!!!しかし侮るなかれ!!!彼らの芸術を見ればその良さが一発でわかるだろう!!!そんな彼はそのサーカス団長!!!キャラメルサーカス団団長!!!身長250cm!!!体重200kg!!!魔力900万パワー!!!異次元人のおおぉぉ!!!]
「Mr.C.B(キャラメル.ボックス)ッッッッッッ!!!!!!」
キャプテン・バルカンとはまた違う喝采の声。
先程は黄色い声援が多かったが今回は年配の声援が多い。
どうやらキャラメルサーカス団は福祉にも力を入れている団体らしい。
しかし中には不満の声やブーイングもちらほら。
勤めているメンバーは身体的に問題があるものばかり。奇形なり欠損していたりなどで様々。
要は昔で言う見世物小屋だ。
この宇宙貿易時代なれば、細胞再生やサイボーグなどのメカニック医療は充実している。
しかし所詮は資本主義。
治療には莫大な金がかかる。
惑星や銀河によれば保険適用が無い地域なんてザラにある。
それに治療を受けれたとしても働き口が見つかるとも限らない。
そこでサーカス団を立ち上げたのがC.Bなのだ。
そういう者たちでも輝ける場所を。
生きがいと言える場所を設けるために。
しかし中には障害者を食い物にしていると非難する声もある。
文句だけは一丁前。
サーカス団が無くなったとて、団員たちの面倒など見る気も無いくせにクレームだけは立派な心無い人間などどこにでも居るというわけだ。
「まだご理解下さらないですか…。私の実力不足ですね…。しかし、いつの日か全宇宙の人たちに認められるようなサーカス団にしてみます。」
目も無ければ鼻も無く、顔にはツギハギだらけ。
そしてスーツを着こなすC.Bはネクタイを改めて整えた。
「バルカンさん、噂には聞いております。弱きを助け強きをくじく義賊と。この度はこのような場所で貴方に出会えたことに感謝します。」
「随分と律儀なんだな。でも俺はお前が思ってるほど立派な人間じゃねぇ。しかしまぁ、なんだ。俺もお前のような立派な稀代に会えるとは光栄だ。」
「またまた…。」
両者が中央で拳を合わせた後、両サイドに分かれた。
互い互いに目を背けず、静かな燃え盛る闘志でにらみ合っていた。
「へぇ…あのC.Bって兄ちゃん、異星人やなくて異次元人なんか…。それにキャラメルサーカス団て名前だけは聞いたことあるぞ。」
「本来異次元人ってのは見境なく人を襲ったり、依頼されて暗殺とかするようなやつばっかりなんだけどな。見上げたやつも居たもんだ。」
近くにあったリンゴを齧りながら話す銀之助。
ヨーベイガーはキャラメルサーカス団の事を一切知らなかったようだ。
団長と船長の試合。
一体どんな試合運びをしてくれるのか。
(アプリコット…皆…サーカス団の宣伝も兼ねて…、賞金を待っててください…!!!)
(……………………。)
[試合開始いいぃぃぃぃッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!]
スッ………………………
ドガァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
「な………………!!!!!」
「…………………ッッッ!!!」
審判が試合開始と叫んだ直後の事であった。
本当に瞬き程度の時間。
C.Bはリングから観客を守る魔法ドームにめり込むような形で吹っ飛んでいた。
足は地面に付いているので無論場外判定。
凄まじい威力からか、バルカンの右拳からはほんのり煙が上がっていた。
審判も目が飛び出し口を開いているものの、試合結果は既に出ている。
ゴングの轟音が鳴り響いた。
0.1秒。
キャプテン・バルカンの勝利。
ウオオオオォォォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!
バルカン様ぁぁぁぁぁ!!!!!!
カッコいいぞおおおおぉぉッッッッッッ!!!!!
瞬殺かよッッッ!!!!!!バルカン余裕すぎんだろッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
声援の声を聞きつつバルカンは心の中で思う。
(余裕な訳ねぇだろ。異次元人なんざマトモに相手できるかよ。)
「ぐ…………い、痛つつ…。か、完全に油断していましたねコレは………。情けない…。バルカン相手に余裕をかましたつもりは無かったのですが…。」
「気にすんな。お前が弱いわけじゃねぇ。運の風向きが俺だっただけだ。」
C.Bの元まで歩みを進め、そう語り手を差し伸べようとしたその時であった。
「はぁ〜なんだあのカス。キャラメルなんちゃらとか気持ち悪い組織作ってあぐらかいてたのかよ。トーナメントに出てくんなよ。」
「アイツ絶対障害者利用して金儲けしてるだけだよな。それで自分は強いとか勘違いしたんだろ。」
「あぁ言う悪党が金儲け上手いんだろな。」
大多数ではない。
ほんの少数の声である。
近くの観客は白い目で非難しているやつらを横目にしていた。
正直関わりたくないような人間である。
「ヤレヤレ…道は長そうですね。対戦ありがとうございますバルカンさ………。」
C.Bがそう言おうとした時、バルカンは各方面に左手から緑色のレーザーを放出。
魔法ドームはまだ生きている。
それが幸いしたのか完全には観客席に届かなかった。
しかり一部のドームが砕け、心無い非難をした客の椅子をレーザーが貫通。
死ぬほどビビったのか脂汗をかきながら怒鳴り散らす。
モテるバルカンに嫉妬か分からないが次々と罵詈雑言が周りに飛び散る。
便乗して侮蔑を叫んでいるのだろう。
[お客様!!!どうか落ち着いてください!!!キャプテン・バルカン選手!!!観客席に対してわざと攻撃をするのは極めて危険な行為だッッッ!!!次やれば問答無用で失格扱いとするッッッ!!!]
「………………好きにしろ。」
バルカンはC.Bを立たせ、ポケットに手を突っ込みながら選手控室のある長い通路の奥に消えていった。
C.Bは複雑な心境でそれを眺めた後、同じく歩き始めた。
観客は罵詈雑言とバルカンに対する黄色い声援とが入り交じりカオスな状況に。
審判やスタッフたちがどうにかその場を宥める努力をするのであった。
「……………瞬殺もすごいけどよ…。客の層の程度低すぎへんか?なんやこれ。」
「高い金払ってわざわざ足運んですることが文句たぁ…。随分高貴な趣味持ってるやつらもいたもんだぜ。」
あのバルカンのキレ具合は明らかC.Bを非難しているやつらに対してであった。
魔法ドームが無ければ…恐らく結末は想像に難くない。
完全に傷が癒えた銀之助は色々と思考を巡らせつつヨーベイガーとその場を後にした。
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