第25話 強さ
鮮血が飛び散り中に舞う銀之助。
意識自体はあるものの、ダメージがデカすぎるせいでそのままリングに叩きつけられてしまった。
受け身を取れず背中から落ちた銀之助。
身体の前側と後ろ側に強烈な痛みを抱え悶え苦しむ。
ウオオオオオオオォォォォッッッッッッッッッ!!!!!!!
キャーキャー!!!ワーワー!!!
「銀ちゃーん!!!」
「やべぇぞ!!!受け身取れてねぇ!!!」
「だいぶ不味いな…。状況的にヨーベイガーってやつが有利だ。でもよ…。」
ボーナが顎でヨーベイガーに注目を促す。
エメリィやグレートたちはボーナの目線を追う。
「足…?」
「さっきの銀之助のボストンクラブが効いたんだろ。本当は真っ二つにしたかったんだろうが肉切って終わったんだ。無理してるけど足元フラフラだぜ。」
ボーナの言う通り、確かにヨーベイガーの両足は万全では無かった。
遠くからではわからないが、近くで見るとはっきりわかるようにプルプルと小刻みに震えている。
「チッ…運のいい野郎だ。掠っただけかよ。」
「な………何が………掠っただけや………。思いっきり…切られたわボケ………。」
ジンジン痛みが響く背中を背負い、鮮血がダラダラ流れる胸を抑え四つんばいの体勢を取る銀之助。
魔力を注ぎ、とにかく傷口を塞がなければならない。
脂汗が流れ、痛みでどうにかなりそうなのを堪え深呼吸をし魔力に集中する。
「その魔力の使い方…。お前医療関係に知識でもあるのか?」
「元衛生兵じゃ…。例の星間戦争…、ピボラテック星間戦争の生き残りじゃ…!!!」
少し目元がピクリと動くヨーベイガー。
「あの戦争を生き残ったのか。そら地球人にしてはタフな訳だ。と言うかよぉ…。」
次第に顔にシワが浮かび、血管のようなものが腕や顔に走る。
「アレを体験したんならわかるだろ。俺の言ってることが…。俺の強さに拘る理由が…!!!」
本質で言えば分かっていた。
ヨーベイガーが先程から散々俺は強い強いと叫んでいた事が。
「俺は魔力が135万パワーしか無ぇ。宇宙の中じゃだいぶ低めだ。それに生まれ落ちた環境の事考えりゃこんな魔力じゃやっていけねぇ。」
「…………………。」
「分かんだろ。魔力が低けりゃ仕事にもありつけねぇ!!!見向きもされねぇ!!!この生まれ持った身体があったから星の毒素を取り除く仕事には就けたが給料なんざ雀の涙ぐれぇだ!!!お前も本来こっち側だから分かんだろうが!!!」
「分かるよ…。俺も地球人で魔力が1500しかあらへん…。散々な扱い受けたよ…。後ろ指刺されて…鼻で笑われて…思いっきり差別されたよ…。」
「そうだろう!!!それを覆すには強さを証明するしかねぇ!!!だからクソみてぇな給料溜め込んでこのトーナメントに出場したんだ!!!それにも関わらず初戦がカスみてぇな魔力しかねぇ地球人だと!??!笑わせんなやッッッ!!!」
ヨーヨーをリングに叩きつけ一部を崩壊させる。
怒りが顕著に表れている。
「…………ここでも魔力の話か…。」
「………僕の星周辺は50万もあればエリートコースに行けるような環境だった…。でもそれ以下のやつらは確かに散々な扱いだったな。」
「魔力ってのは生まれ持って決まってる。上がることも無けりゃ下がることも無い。それだけ見れば生まれ持っての才能なんだろうな。」
「……………酷い。」
腕を組みながらつぶやくクエスチョナーたち。
自分たちも思うことがあるのだろう。
「やからこそ…やからこそ…!!!俺は魔力に関係無しに…人を選ばへんカフェを作ったんや!!!誰しもが楽しめる!!!誰しもが安い値段で飲める!!!くつろぐ事が出来るカフェを!!!そんなクソみたいなこの世のルールをぶっ壊すためによぉッッッ!!!」
「それこそ詭弁だろうが!!!そのせいで金が無くなったからお前もトーナメントに参加してんだろうが!!!本末転倒じゃねぇか!!!この世の決められたルールを覆す事なんざ強さ以外無ぇんだよボケがッッッ!!!…………分かんねぇだろうな…!!!恵まれた魔力持って恵まれた環境に生まれ育ったやつらにはよぉッッッッッッ!!!!!」
「あるッッッ!!!間違いなくあるんやッッッ!!!それを証明すんのは難しい!!!難しいけど確実にあるんや!!!」
傷口を修復した銀之助は全身の血液に魔力を流し、一気に気合を入れた。
確かにたかが1人が、いや3人が動いたところで何も変わらない。
しかし、誰かが動かなければ絶対に変わることは無いのだ。
「魔力なんざただの数値やッッッ!!!世の中が間違っとるんじゃ!!!」
「ベラベラ詭弁と戯言抜かしてんじゃねぇぞクソ地球人ッッッ!!!」
ヨーベイガーがまたブレードベイタイフーンを繰り出した。
しかも先程より高回転、高スピードである。
凄まじい威力で観客席にも風圧が迫りくる。
「グッッッ!!!なんちゅう回転だ!!!こんなもん食らったらただじゃすまねぇ!!!」
「避けろ銀之助ぇぇぇッッッ!!!」
「………アイツなら大丈夫だ。エリートの僕を動かした人間だからな。」
ウオオォッッッッッッ!!!!!!!
観客席も大盛りあがりだ。
迫りくるヨーベイガーに対し銀之助はなんと目を瞑っている。
グレートが何してんだと叫ぶも風圧で聞こえるはずもなく、見届けるしかない。
パルムは心配していたが、どこか絶対に大丈夫という確信を心に得ていた。
勝て!!!銀之助!!!
「テメェも体力の限界だろッッッ!!!これで楽にしてやらぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!」
バッッッッッ!!!
銀之助はすぐそこまで来ているヨーベイガーに対し一気に目を開けた。
そしてヨーベイガーはその目を見て一瞬だけ、ほんの一瞬だけ動きが鈍ったのだ。
何故ならば…銀之助の目が獣のような瞳孔が縦に開き、絶対的な力を宿していたからだ。
銀之助は一気に駆け抜け、タイミングを見計らい両腕を伸ばした。
ガンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
………………………
時が止まったかのような瞬間であった。
観客は口を開きリング中央の2人に注目していた。
「なっっっっっっっ………………!!!!!!」
銀之助はヨーベイガーの両肩に魔力を纏った手で動きを止めたのだ。
回転の威力を一瞬で止められた反動が身体全身に響き内側に衝撃が走る。
「ガハッッッッ!!!!!!!!」
ガシッッッ!!!!!!!
銀之助はヨーベイガーの頭を脇に挟み、全身に力を入れ体重500kgオーバーの巨体を持ち上げた。
「お前の思いも…!!!宇宙中で苦しんでるもんにも…!!!全部俺が受け止めたらぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
「ウバァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
「ブレエエエェェェェェェン!!!!!バスタァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ドッゴオオオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
リングに叩きつけられたヨーベイガー。
その衝撃で舞台は完全にめり込み崩壊。
倒れた2人。
周りが固唾を飲み見守る。
そして、ゆっくりと銀之助が立ち上がった。
右腕を天にかざし。
カンカンカンカンカンカーン!!!!!!!
36分2秒。
銀之助の勝利である。
ウオオォッッッッッッッッッッッッ!!!!!
「勝ちやがった!!!やりやがったぜアイツ!!!」
「ワーイ!!!」
「まずは一勝だぜ!!!」
「フッ、だから言ったろ。エリートの僕が大丈夫って言ったんだ…。僕に認められ…てオイ!!!話聞けよ!!!」
「銀ちゃん…!!!」
銀之助は観客に手を振り喜びを共感していた。
「…………………まさか俺が…負けるとはな…。」
「!!!大丈夫かヨーベイガー!!!」
「勝ったやつが負けたやつの心配すんじゃねぇよ…。……………昔毒素除去の仕事してた時…仕事仲間が居たんだよ…。」
「………え?」
「独り言だ…。別に話したことも無ぇし、大して仲良く無かったけどよ…。俺よりも酷ぇ扱いだった…。中には家族養うために腎臓売って…体力無くなって死んでいったやつも居た…。」
「…………………。」
「可哀想だったなぁ……………。苦しかっただろうなぁ…………。銀河政府はなんにもしてくれねぇしよぉ………。」
ヨーベイガーは大粒の涙を流し始めた。
仲良くなかったとは言え、どうにかしてやりたかった、助けてあげたかったというどうしようもない悔しさと怒りを感じ取れる。そして同様にヨーベイガーの優しさも。
銀之助はヨーベイガーに肩を貸し、身体を支える。
「お前…なにして…」
「辛かったな…。このクソみたいな世の中ぶっ壊すためにも…忘れたらアカン。それに…ヨーベイガーの力も絶対に必要なんや。お前が良かったらやけども、協力してくれへんか。」
「…………………。」
思いを感じ取ったのか、ヨーベイガーはゆっくりと瞼を閉じた。
そのまま観客から声援を浴びつつ、リング外に足を運ぶ2人。
「銀之助…。俺に勝ったんだ。絶対に…絶対に負けんじゃねぇぞ。」
「…………おう。任せろ。」
選手控室の通路に渡る2人。
その後ろ姿は悲しいものではなく、分かり合うために戦った友そのものであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます