第200369回宇宙トーナメント編

第15話 宇宙最大トーナメント

「う〜ん………。やっぱし厳しいな…。」


腕を組み苦しそうな顔をする銀之助とパルム。

理由は売上。

地球は前から資本主義においての格差が大きかった。日本もそうだが他の国と比べるとまだマシではあった。

しかし、宇宙貿易が始まり日本もかなり格差が広がり貧乏人が増えた。 

その中で苦しんでいる人にもカフェでくつろいで欲しい、楽しんで欲しいとメニューの単価をめちゃくちゃ低く設定し提供している。

なので赤字で苦しむのはなんにせよ必然であった。

どうすっかなぁ〜と悩む2人。


「やっぱり宇宙トーナメントに参加するしかないんかのぉ…。」


「でも俺らが出たところで優勝とか無理やて。宇宙中から凄腕のバケモン来るんやろ?でもなぁ…参加するだけでも…ええかも知れんな。」


思ってもいない事を言い笑い合う2人。

因みに今は営業中。

仕事に集中して欲しいものである。


「おぅ、もうトーナメント登録しといたで。」


「あ、そうなんや。ほな考えんでもええか。」


サーシャとともに3人で笑い合う。

しかしものの数秒しか続かず銀之助とパルムは目ん玉が飛び出した。


「はぁ!???!!!ど、ど、どういう事なサっちゃん!!!!!!!」


「誰も出るなんか言うてへんやろ!??!!!」


「な〜に言うとるんよ。そうでもせんとお金入らんがな。」


さも当然のような顔のサーシャ。

ほなギャンブルでもするけ?と聞くがトーナメントも博打みたいなものである。

どうやら男の部と女の部があるようで、それぞれで出ようと言う事らしい。

一気に心臓が辛くなる2人。


「宇宙トーナメントとか怖いて…。なぁ〜ボーナ、どんなもんなん?宇宙トーナメントて…。」


カウンター席でゆっくりとクランベリーティーを飲むボーナ。

てかお前いつの間にそんな立場に…。


「今までのデータを調べたんだけど…その名の通りとんでもない腕に自信があるやつらが集まる大会だな。まさか地球なんていうド田舎でするとは僕も思わなかったよ。」


今までは他の銀河の大都会などで行われていたらしく、地球で開くのはものすごく珍しいようだ。

前回優勝者は惜しくも老衰で亡くなったらしく、他の出場者もだいぶ歳を取っている。

なので今回はニューフェイスたちが集まるだろうとボーナは予測しているのでデータはあまり役に立たないと言う。

カランカランと店の扉を開けクエスチョナーとグレート、エメリィが来店。

ボーナの隣に座り注文。

クエン酸は持ってきたのかよとニヤニヤされるも、きちんとピルケースを見せ少しムッとする。

先程の話を3人にも話し、会話を続けた。

どうやらクエスチョナー、グレート、ボーナ、エメリィは出場するつもりは無いらしい。 


「俺もトーナメント自体には興味あんだよ。でも俺は見る専だからなぁ…。」


「俺も有給取ったから、お前らが出るんなら応援するぜ。」


「なんだよお前ら。ワニワニ商会のルーキー倒してたじゃねぇか。」


「「そうそう、お前がけしかけてきたルーキーな。」」


どうやらこんな冗談まで言えるような関係にまで発展したらしい。


「確かにお前らは強い。でも僕から言わせてもらうと今のままじゃ正直本戦に出れるかどうか。バカにしてるわけじゃないぞ。ただ本当にバケモノが集う大会だ。」


今のままじゃはっきり言って無理。

ボーナは嫌味もあるが、これは事実だろう。

じゃあ断ろうかと思ったが後ろで歯茎をむき出しにして白目でサーシャが睨んで来るので言えそうにない。ていうか本当にお金が無い。


「てかお前らなんの魔法が得意なんだ?肉弾戦だけじゃ勝ち目なんかないぞ。」


「………………………魔法ってなに?」


可愛らしい顔でサーシャが聞いてきた。

ボーナだけではなく他の皆もマジかよと驚いた表情を浮かべる。

エメリィは学校で習ったじゃんとも言うがサーシャは講義中ほとんど寝ている。何も聞いてないし覚えていない。


「アンタ極楽湯で風の魔法使ってたじゃないか。覚えてないのかい?」


ファニィが話しかけてきた。

てかいつから居たんだお前。

ケロンバとゴードンはバイトに行っている。

サーシャ曰くただのパンチによる衝撃波と思っていたらしい。

なのでエリートであるボーナが詳しく説明をしてくれるようだ。


「魔法ってのは色んな種類があってだな。火・土・水・風が基本4大属性の魔法。それを覚えた上で氷とか毒とかに派生していくんだ。」


「光とか闇とかもあるぜ。あ、別に光だから良い闇だから悪いとかじゃねぇぞ。」


「木とかもあるよ!日本じゃ…えぇと…そうだ!【遁】で表してたんじゃなかった?土遁とか!」


周りが説明してくれるもサーシャの頭の周りには【?】だらけ。

君が本当のクエスチョナーだ。 

ボーナはヤレヤレと呆れ顔。


「俺は衛生兵やったから治癒魔法やったら多少できる。後は血液と筋肉に魔力を分けて身体能力を上げるとか。しっかし…他の魔法はなぁ…。」


銀之助は自衛隊で魔法を学び鍛えたようだ。

パルムも多少は知っているものの、火遁や土遁など使ったためしがない。

ボーナが顎に指をあてつつ何か考えている。

そしておもむろに話し始めた。


「宇宙トーナメントまで後2ヶ月…。正直時間は無いけど…、魔力道場に行ってみたらどうだ?」


魔力道場?と3人が聞き返す。

どうやら空手やヨガ、ピアノのように習い事としても大概の惑星にあるらしい。

略称は「魔道」。

ここから電車一本で行ける範囲に最近できたばかりの道場があるようでそこに行ってみたらどうかと提案してくれたのだ。


「お金かかるやん。」


下唇を尖らし不満を漏らすサーシャ。

しかし後々大きな金になって返ってくるのであれば、上等な投資である。

銀之助も色々と悩むも、結局ボーナに場所を教えてもらうのであった。


「ところでアンタなんでウチらにそんな事教えてくれるんや?もう真人間になったんか?」


するとボーナは嫌らしい笑みで顔を横に振る。


「いやいや!2ヶ月しかないけど真剣に鍛えた上でトーナメント戦でボコボコにされてるお前を想像したら飯が美味くてよぉ!!!」


ダッハッハッハッハッ!!!!!!


「へぇ〜!おもろいやん!ほな大会前の肩慣らし頼むわ!!!」


ボーナの触覚を掴み外に引きずり倒す。

流石に店内では他のお客様に迷惑かかるからね。

外で叫び声がするも皆無視してコーヒーを啜ったり仕事に専念するのであった。


ギイィィヤァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!






「この辺かの…。」


ボーナに教えてもらった場所をマップ検索しながら散策する3人。

都会あたりということもあり周りはビル群。

見事にコンクリートジャングルである。

自然派の銀之助とパルムは多少疲れるも仕方ない。

宇宙トーナメントを断る場合キャンセル料がかかる。それもかなり高い。

サーシャがカフェの金をくすんで登録届けを出したので参加するほかない。

やってる事ボーナと同じじゃねぇか。


「あっれぇ〜?どこやぁ…?」


方向音痴が3人も居るのですぐ横の道場に気付かない。悲しいものである。

周りを見回すと、なんら変哲もないボロボロのビルが目に留まる。

もはや廃ビル。

誰も出入りした形跡が見受けられないそのビルがどうしても気になってしまう。

おそるおそる近づき、入り口に足を踏み入れたその時。


「あぇ?」


何故か目の前が空手道場のような施設になった。

後ろを振り向くと昔の戸が鎮座している。

そして部屋の真ん中にはタコのような人物が正座をしていた。


「……………………………。」


3人は不思議ながらもその人物を見つめる。

かなり年齢がいっているのか皺だらけの顔。しかしそれに対して筋骨隆々でとても凛々しい。

座っている姿はとても綺麗でまるで教科書やお手本のようだ。

3人は足を進めた。


「「「帰ろ。」」」


後ろに。


「オイコラァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!なんでそうなるんじゃッッッッッッッ!!!!!!」


ビックリして振り返る。


「しゃ、喋った!!!人形やなかったんか!!!」


「喋るわい!!!生きとるんじゃから!!!つーか部屋の真ん中にこんな奴おったら近づくじゃろて!!!なんや【帰ろ】てッッッッッッッ!!!」


「いやぁ〜、なんかめんどくさかったから。」


右ケツをポリポリ掻きながら呟くサーシャ。

真ん中のおじいちゃんタコはプンスカ怒っている。


「まぁええわい!!!こっちこんかい!」


手招きするのでおそるおそる靴を脱ぎ整え、失礼しますと一礼。


「なんでそこは完璧なんじゃ…。一礼せんかい!とかツッコむ準備しとったのに…。」


なんやねんコイツ…と凄く嫌そうな顔をしてるサーシャであるが残り2人はずっと不思議な顔をしている。不思議そうな顔ではない。不思議な顔である。

主人公なのだからもう少ししっかりして欲しい。


「そこに座るんじゃ。楽にしてええぞ。あ、これ粗茶ね。」


スッ…と出されたお茶。

溢れてる。

下手くそか。


「聞きたいこといっぱいあるんすけど…ここ僕らが入る前までただのビルやったんすよ。やのに足踏み入れた瞬間ここに来まして…。」


「ほっほっほ。それはカモフラージュじゃ。ビルの前に特殊な電磁波を出しておってな。その電磁波の波長があった者だけここにたどり着く仕組みになっておったのじゃよ。」


つまりは空間魔法。

このタコのおじいちゃんの名前はグラーケン。

クトゥルフ神話のクラーケン一族らしい。

銀之助とパルムはもちろん、本自体はよく読むらしいのでサーシャもクトゥルフ神話は知っていた。

波長が合う者はかなり少なく、合ったとしても修行がキツくて辞めるものばかり。

しかしここで会ったのもなにかの縁。

魔法について教えてくれるようだ。

銀之助が月謝は?と聞くとなんと無料でいいようだ。めちゃくちゃ胡散臭い。


「よいか?魔法とは誰しもが使える訳では無い。その人間のとある細胞が宇宙から降り注ぐコズミック粒子線に反応して練りだされるものなんじゃ。」


「とある細胞?」


「コスモ受容体じゃ。この世の中には存在しないものも居る。じゃからといってその者たちが病気や障がい者と言うことでもない。………銀河政府は障がい認定しとるがな…。」


世の中には0パワーのものもいるという。

グラーケンがそれぞれの魔力を測ってやろうと手をかざす。

パルムは120万パワー。

銀之助は1500パワー。

サーシャは…両乳を揉まれていた。


「う〜む!これはGカップじゃな!!!」






「で、ウチ魔力なんぼやったん?」


「ひゃ………150万……パワーでした………。」


原型がわからなくなるほどボコボコに顔が腫れ上がったグラーケン。

自業自得である。 

パルムが自分よりも高い数値なのでビックリしたが、なんか納得できる。

グラーケン曰く魔力なんてのはタダの数値。それだけで戦闘力は測れるものではないらしい。

認知を歪ませているのは銀河政府のせいであると。


「おんしら、宇宙トーナメント出るんじゃろ?」


「え、わかるんすか!」


「大体わかるんじゃよ。じゃ、そろそろトレーニングといきますかね…。」


いきなりやなぁと眉をひそめる3人。

しかしまぁ、色々教えてくれると言うので怪しいもののやるだけやってみようということになった。


「トーナメントまで2ヶ月しかない。地球は魔力の使い方なぞまともに教えんからな。他の宇宙や惑星じゃ必須科目が教わってないんじゃ。じゃから…ワシが完璧にしてやるわい。」


ニッシッシ!!!と笑う。

こうして少ない2ヶ月という修行期間が始まった。






「そうじゃない!こうじゃこう!!!」


「こうですかね?」




「おぬしなんで最近顔出さないんじゃ!?」


「ウチ最近部活始めてさ。エメリィちゃんと一緒にバトン部入って。それでちょい忙しくて。エヘヘ。」


「エヘヘ。とちゃうわい!!!なんで今入るんじゃ!!!頭おかしいのかおぬし!!!」


因みに作者の母親は高校時代元バトン部に入っていた。豆知識だね。




「どうしたんじゃおぬし…。」


「仲良くしてた女の子が…彼氏おって…。」


三角座りで暗い顔のパルム。

梅干しのようなしわしわの顔をしている。


「それはそれは…しかしまぁ女の子は星の数ほどおるんじゃ。気にせんでええ。というかなんで今デートしとるんじゃ。修行中じゃぞ。自覚ないんかお前ら。」


「てか銀の字はどうしたんじゃ。」


「銀兄やったらケロンバたちとオカマバー行く言うてたで。今日は休むってさ。」


「おんしらなんなん?」


様々なドラマがあったこの2ヶ月。

時折グラーケンがサーシャにセクハラをしてズタズタになり修行出来なかった時もあった。

その中でも3人はマイペースに鍛えていった。

そして最後の日になった。


「よく耐えたの…。この2ヶ月。決して無駄な期間では無かった。」


「「「はい!!!」」」


「最後にワシから一言…。」







「おんしら魔法ひとっっっっっっっっっつも覚えられんかったのぉぉぉッッッッッッッ!!??!!」


口をへの形にして師匠の話を聞く3人。

残念ながらコイツらは魔法を何一つとして覚えられなかった。

というか色々他のこともやってたので真剣に修行していたのかと疑いたくなる。

怒りなのか悲しみなのか単にパニックになっているのか分からないがグラーケンは3人をまくし立てていた。

泣いてるから悲しいのかな?

しかしこれが最後なので仕方ない。

グラーケンは地球を少しの間離れ、次の惑星や星雲に行くらしい。

さびしさからか、銀之助たちも涙ぐんでいる。


「おんしらが泣くなぁッッッッッッッ!!!泣きたいのはこっちじゃッッッッッッッ!!!!!!」


「いや、2ヶ月とか無理ですって。でも…基礎体力とか着いたんでやるとこまでやってみますわ。」


「またいつか会いましょう師匠!」

 

「はよ逮捕されるんやで。」


3人は頭を下げ道場を後にした。

え?これでマジでトーナメント出んの?

大丈夫?

グラーケンはため息を吐きつつ3人を手を振り見送った。


「………………………しかしまぁ……。前世のつながりとは面白いもんじゃ…。世界を潰した者の子…それを守った者の子…。それが一緒におるとはの…。なぁ………見とるか…。」


天井を眺める。

しかし、実際はさらに遠く宇宙を見ているのだろう。

何を言っているのかはわからないが、グラーケンはただのスケベジジイでは無いことはわかる。

腕を組み、3人の行く末を考え高笑いするのであった。





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