第205話 戦後会議

龍王国ドリューンの評議の間において、軍団長全員と宰相。さらに貴族院の代表たちが総揃いしている。


評議の間は、太い円柱が等間隔に立ち並び。壁には王国の紋章とタペストリーが掛けられている。窓は高い位置にわずかに設けられており、しかも色ガラスだ。これらはスパイなどからの視点を極力制限していた。


中央には巨大な楕円形のテーブルが据えられ、その周囲には重厚な椅子が整然と並んでいた。各椅子の背には領地や爵位を表す紋章が刻まれており、そこに座る者たちの権威と立場を静かに主張していた。


部屋の奥には、一段高くなった場所に王の席が設けられている。背もたれの高い椅子には金と紅玉で装飾が施され、周囲を威圧するような存在感を放っている。


そこに座るのは、龍王国の女王である聖龍だ。


軍団長達は、すべて聖龍から見て右の列に座っている。


上座から次の順に座っている。


【白炎の団】重装歩兵部隊・地竜隊

団長名:オフラ・ド・アクセルード。


【血剣の団】騎馬隊

団長名:ガルード・フォン・オフェント。


【紫水晶の団】魔法隊

団長名:キーラス・フォン・ラオカーン。


【黒煙の団】弓・斥候隊

団長名:マスクス・ル・バートランド。


【赤月鳥の団】飛竜隊

団長名:キキ・ドン・ララルンド。


聖龍王の左には、宰相ジャスティンが立っている。


今回の戦後会議は、ジャスティンが進行の任を担っている。


ジャスティンは、おもむろに口を開く。


「うむ。皆集まったな。魔物たちの襲撃……、あきらかにこれは魔王軍と思われる。その被害状況の確認と今後の打合せをしたい。特に女王陛下の婚約者である、ヤマト様への報酬と謝礼について決めたい。」


皆は一斉に、姿勢を正す。


聖龍が口を開く。


「よいか。皆の者。この度の襲撃において、我々は大きな味方を得た。それはヤマト様という龍人族の次期王。それに古龍グランドフ殿だ。この二人を得たのは大きい。」


貴族院の一人であるベストン伯爵が口を挙手する。すると、ジャスティンが口を開く。


「ベストン伯爵。発言を許す。」


「ありがとうございます。此度の戦。まことにヤマト様の功績が大きい。救国の英雄と言えましょう。王国として最大の礼と報酬をもって報いるべきです。」


聖龍は満足そうにうなづく。


「うむ。ベストン伯爵。そのとおりだ。」


「陛下。ありがとうございます。提案しますに、今回の魔物をすべて倒したのはヤマト様。魔物の素材やコアなどはすべてヤマト様にお渡しするのが筋でしょう。」


「……うむ。」


そこで、財務大臣であるパールが挙手をして発言を許された。


「今回の人的被害は極小であるとは言え、水晶城の破壊レベル。武器や防具などの破損。それらを計算すると、700億クランを超えます。多少は補填として魔物の素材をいただきませんと……。」


「700億クラン……。」


周囲の大臣や文官たちが呻いた。


パールは続ける。


「もし魔物の素材だけでも回収できれば、2000億クランの益が見込めます。何とか魔物の素材だけでもヤマト様にご遠慮いただければ……。」


バン!


すると、軍団長である【白炎の団】団長名:オフラ・ド・アクセルードが、机をたたいた。


「何をバカなことを!700億クランで済んだのであれば、それは奇跡だ。本来であれば王都自体が陥落する危険もあったのだ!」


すると、気弱なパールはすぐに引っ込んだ。


聖龍は笑った。


「オフラよ。パールは財務大臣だ。単純に計算上の損益から発言したのじゃ。」


「は、すみません。陛下。」


聖龍の一言で、すべてが決まった。ジャスティンが宣言する。


「では、魔物の素材とコアはすべてヤマト様への報酬品として渡す。良いな?」


一斉に、皆が首を縦に振る。


女王の意向はあきらかであり、もともとヤマトへの恩義を感じていたため、誰も否定しなかった。


聖龍は続ける。


「また、ネオエンジル大陸にいるグランドフ殿が、かの大陸をヤマト様に譲ることに了承なさった。つまり、ネオエンジル大陸そのものがヤマト様の領土となる。」


それには、全員がザワめいた。


「な、なんと!?」


「世界最大の大陸を!?」


聖龍は続ける。


「ヤマト様は、龍人族の王となられるかた。つまり、龍人王国の大陸がネオエンジル大陸となるということじゃ。」


動揺が止まらない忠臣たち。これには軍団長達も驚く。


「ヤマト様が……。」


「それはすごい。」


軍団長の中にも、その事実に複雑な心境を感じ者もいた。


【紫水晶の団】魔法隊

団長名:キーラス・フォン・ラオカーン。


【赤月鳥の団】飛竜隊

団長名:キキ・ドン・ララルンド。


この2名である。


この二人は、ヤマトに実質惚れており、何とかヤマトと懇意になりたいと思っていたが、一気にヤマトという存在が遠く感じた。


「ま、まじかよ……。」


「そ、そんな。」


ジャスティンがここで発言する。


「聖龍王は、すでにヤマト様との結婚が決まっている。ただし、聖龍王国の王は、変わらず聖龍陛下であられる。つまり、龍人王国と我が国は最大の同盟を結んだことと同じである。これは僥倖である。」


一瞬で、周囲が息をのむ。


確かに、この状況でヤマト王と聖龍王が結婚したことは、まぎれもない安全保障がされたに近しい。


「この状況から鑑みるに、今回のヤマト様への魔物素材ほかに、国宝贈呈。さらに建国資金の提供などがふさわしいであろう。その金額は王国の歴史の中でも類を見ないものになる。これは決定事項である。」


聖龍はジャスティンの宣言に満足そうに頷いた。


「さらに、古龍グランドフ様などが納得している状況から、結婚式をエルフ王国と連名で行うこととする。場所は龍王国のドリューンの首都のグランディン教会とする。これをもって、聖龍王は、ヤマト様の妃となられる。」


聖龍は激しく同意した。


そのあと、戦後会議が続けられ、細かい打合せがされた。

一方、その頃ヤマト達は。


「私がヤマト様と同室です!」


「ワシがヤマトと同室じゃ!」


「わ、私だって!」


と、まだ痴話喧嘩を続けていた。

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