第204話 王宮へ

聖龍が行ってしまった後、すぐに王宮から侍女がかけつけた。


「ベルディと申します。今後、ヤマト様と奥方様を、誠心誠意おもてなしさせていただきます。」


それはそれは美しい侍女だった。紺色のドレス姿で眼鏡をかけている。生地が上質なのが見てすぐわかる。普通の侍女ではなく、かなり職位の高い人物、つまり侍女長なのだろう。


「侍女長さんですか?」


「はい。王宮内の侍女を取りまとめております。」


侍女長は長い金色の髪で、きっちり編み込みをされている。服装を変えれば令嬢と見間違うだろうくらいの端正な顔立ちだ。むしろ美少女と言ってよい。


しかし、龍族は長命種族だ。見た目で年齢は推し量れない。


柔らかな眼差しが穏やかな安心感を与えるが、奥にある目の光はするどく周囲に注意を配っているのが分かる。すでに侍女長が只者ではないのを物語っていた。


(ほう……。)


ヤマトが視ると、相当な魔力を纏っていることが分かった。かなりの戦闘力をもっていそうだ。


(さすが龍王国の侍女長だ。もしものときに戦えるんだろう。しかし、こんな美人で戦える侍女長って、龍王国くらいだろうな……。)


ヤマトが見とれていると、ベルディは促す。


「ではまず王宮へ参りましょう。そこに国賓室がございます。」


「あ、はい。」


ベルディは一礼すると、歩きだした。


部屋を出るときに、聖龍のお母さん(絵画)が「またね~。あとでまた来なさい。いろいろ教えてあげる。あなたにとって必要な情報をね。」と、パチリとウィンクをする。意味深な言葉を言いながら手を振っていた。どこまでも軽い感じだ。とても前女王とは思えない。


「今教えてくださいよ。」


「だーめ。あとで聖龍ちゃんと二人で来なさい。」


「二人で?」


「ええ。二人できなさい。あなたに必要なことを教えるわ。」


(教える?なんだろう。)


「わかりました。」


「いい子ねー。」


「い、いい子って……。」


ヤマトは苦笑いしながら、侍女長についていくことにした。


オステリア、リリス、リーラン、グランドフ、イハネ、ルシナも続く。


ベルディの歩みは慎重でありながらも無駄がない、まるで王宮そのものの一部のように自然で落ち着いている。時折、その瞳が廊下の先を見据え、何かを見通しているかのようだ。一切の無駄が見られないのだ。


(すげぇな。この人)


一緒に歩いているだけで、ベルディのすごさが見えてくる。ヤマトは純粋に関心しながら歩く。


ヤマトの後ろには、軍団長もついてくる。軍団長達はどうも、国賓室まで見届けるようだ。


「しかし驚きました。先代があそこまでヤマト様を気に入るなんて。」


「ベルディさん?そうなんですか?」


「はい。先代は軽いノリですが、あそこまで好意を寄せないので。」


「へぇ……。」


てっきり誰にでもそうかと思っていた。


厚い石壁に囲まれた王城の中庭を抜け金色に輝く王宮へと向かう。


大きな扉の前に立つ、そしてその王城の扉が重々しく開く。


「ここから一旦、外に出ます。」


外に出ると、冷えた風が一瞬だけヤマト達の頬を撫でる。


中庭には大理石の道が延び、とても中庭の道とは思えない。


(おぉ……。王宮へ向かうだけでワクワクしてくる。)


やがて進む先に見えるのは王宮の門だ。門の両脇には2名の衛兵が立っていた。いずれも黒い鎧で、ビシッと背筋を正している。


ベルディは衛兵たちが恭しく開けた。ベルディは振り返り、そして微笑む。


「こちらから先が王宮エリアになります。」


門扉がゆっくりと開かれ、その向こうに広がるのは、石畳の道が続く豪華な王宮の中庭だ。


しかし、ヤマトは一向に飽きる様子がない。同じ中庭だが、また違ったテイストなのだ。


風に揺れる緑の木々が、時折、穏やかな影を落とし、その隙間から煌びやかな光が漏れ出す。


中庭の中央には、噴水が歓迎の放水を放っていた。


ここは天の国かと錯覚してしまうほど、神聖な空間を醸し出している。


とうとう王宮内に足を踏み入れる。


まず白大理石でできた大きな回廊が現れた。天井シャンデリアが特殊な光を放ち、その輝きが部屋全体に広がる。床には深い青色の絨毯が敷かれていた。歩くたびに足元が柔らかく包まれる感覚を与える。


ヤマトは呆気に取られる。


(なんて豪華なんだ。さすが世界最高国家の王宮。)


「さあ、進みましょう。ここは玄関広間です。国賓室はずっと先になります。」


回廊の両側には、精緻な彫刻が飾られ、王家の歴史を物語っていた。


回廊の上を歩く音が響き、すれ違う侍女や使用人たちは立ち止まり壁に背を向けてお辞儀をする。ヤマトは何だか恐縮してしまった。ベルディさんは、迷わず歩みを進めていく。


道の途中、何人かの高貴な家臣や王族の執事たちがすれ違い、深く頭を下げてくる。国賓のために最上級の礼が尽くされている。


回廊を抜けると、突如として金色の扉が目の前に現れた。その扉には、精緻な金細工の装飾が施され、王家の紋章が輝いている。


「こちらが国賓室です。ヤマト様のお部屋になります。」


扉を開けると、広がるのは広大で豪華な部屋だ。天井高く、シャンデリアが煌めき、室内を照らしている。壁一面には豪華な装飾が施され、素晴らしい絵画が飾られている。


部屋の中央には、大きな長椅子と装飾が施された座席が用意され、両側には柱が立っている。窓からは、外の庭園と噴水が見え、すべてが調和している。窓辺には花々が飾られ、香りがほんのりと漂う。


国賓室内はすべてが計算されているように感じる。最高の礼を尽くすために……。


「こ、ここで一人?」


この国賓室で貴族の屋敷がすっぽり入ってしまうような広さだ。


「はい。奥方様も一緒に泊まることは出来ますが、ヤマト様は奥方様がたくさんいるので……。」


すると、リリスが手をあげて名乗りをあげた。


「ワシが一緒に泊まろう。一人は妻が一緒にいないと恰好がつくまい。」


「何言ってるのよ!」と、オステリアが食いつく。


「わ、私だって婚約しています!」


ベルディの前で、言い合いをはじめる皆。


ヤマトは格式高い王宮内で痴話喧嘩をはじめる自分たちに苦笑いした。

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