第203話 聖龍の母スザクール
王城に入ると、龍族の兵士や貴族たちから熱烈な歓迎を受けた。
すれ違う龍族は聖龍がいることもあるだろうが、皆がヤマトに向かって一礼をする。
「な、何だか。城下町と違って話しかけたり、叫んだりしないけど。すっごい注目されている気がする。」
すると、聖龍は笑った。
「それはそうじゃろう。ヤマト様は救国の英雄。国賓中の国賓じゃ。」
「そ、そうなのか。」
すると、グランドフが笑った。
「そもそも、ヤマト様は龍人族。地上おいて別格だ。もっと自覚をもったほうが良いぞ?」
その言葉に頭をかくヤマト。
歩きながら、王城の中にいる龍族を観察するヤマト。
軍人、貴族が入り乱れている。
「軍の人が多いね。さっきまで戦争していたからか?」
ヤマトが尋ねると、聖龍は笑った。
「それもありますが、ここはドラガイア王城は軍事最終拠点とも言えるのですじゃ。だから、普段から軍人も出入りしているのですじゃ。」
「なるほど。」
後ろを振り返ると、軍団長がズラリとついてきていることもあり、通り過ぎると兵士達は敬礼をした。
ヤマトは何だか気まずい気分だった。
長く天井の高い廊下を歩き続けるヤマト一向。天井を見ると、見事な壁画が描かれていた。
無骨だが、芸術を忘れない。そんな雰囲気の王城だった。
戦闘を案内してくれる軍団長のキーラスが、とある部屋の前で立ち止まる。
「こちらです。」
扉を開くと、そこは王城の客人を一時待たせるウェイティングルームだった。
「うわ、広いな。」
思わず、ヤマトは声を上げる。その客間に通されると、そこはとても広い部屋でホールと呼んでも良いくらいだった。王城の壁はキラキラと何か光っている。そして、壁に設置されている絵画は見事なものだった。
その絵画には、一人の美しい女王が立っていた。緑色の髪に、青い眼。年齢は若いように見える……おそらく十代後半に見える。どことなく、聖龍に似ているように見えた。
リリスやグランドフは、何やら懐かしい眼でその絵画を見つめている。
「この美しい人は?」
「これは母上じゃ。先代の女王でもあるのじゃ。名前はスザクーンと言った。崩御して千年以上経過しておるがの……、美しく強い母上であった。」
聖龍はどこか寂しそうな顔をして、そう言った。
「スザクーン?龍族の王には名前がないと聞いたけど。」
「崩御すると、名を戻すのじゃよ。」
「……そうか。本で読んだことがあるぞ。」
龍族の王には名前がない。しかし、それは王や女王になった瞬間に”聖龍”と改名されるからだ。実は、成人して王位につくまでは名前がある。そして、死んで王位を次世代に渡すと元の名に戻る。そのことをヤマトは思い出した。
ヤマトは改めてその絵画を見た。
「聖龍のお母さん……。凄いね、十代で女王になったんだね。凄い美少女だ。」
すると、絵画の中の女王が突然に動きだした。
「あら?褒めてくれてありがとう。凄い美形ね、あなた。男の子?」
「……!?」
ヤマトは驚きのあまりのけ反った。
リリス、リーラン、ルシナ、それにグランドフ達も驚いた。
驚いていないのは聖龍だけだ。
「い、今……絵画がしゃべったぞ!?」
「あら?そんなに驚かなくてもいいじゃない。私は、聖龍の母、スザクーンよ。宜しくお願いね。」
そう言うと、まるで絵画の中に別世界があるかのように一礼をするスザクーン。
聖龍が笑った。
「ああ、この絵画はな。母上の記憶を封印した絵画なんじゃ。」
「き、記憶を封印だと?そのような技法や魔法は聞いたことがない。」
これにはグランドフも驚いていた。過去からの叡智を持っている古龍でも知らない技術らしい。
「龍族の秘法じゃ。まぁ……生前のように魔法を使ったり、外に出たりすることは出来んが、話したりすることは出来る。」
唖然とするメンバーを前に、聖龍は淡々と言った。
「母上、挨拶を。」
「初めて会うわね?聖龍の母、スザクーンと言うわ。宜しくね。」
パチリ!とウィンクをするスザクーン。
呆気に取られるヤマトは、何とか持ち直すと口を開く。
「は、はじめまして。ヤマトと申します。聖龍のお母さん。」
「あら?あなた……。ちょっと変わっているわね、そのオーラは転生者?」
驚くメンバー。
「わ、分かるのですか?」
「もと龍族の王だもの、それくらい判るわ。」
「…………。」
そう言うが、聖龍はヤマトと会ったときにそこまで見抜いていない。驚きだ。
「母上。ヤマト様は、この前話した。ワシの……お、夫になる人じゃ。」
すると、スザクールは「あらまぁ!」と、口元に手を当てて驚く。
「あなたが娘が言っていた人ね!あらまぁ……まぁ。凄い美形を夫に迎えたのね。嬉しいわぁ。」
何だか、ヤケにフランクな性格のスザクールに戸惑うメンバー。
「そうか、十代のころの絵だから。性格も幼くなっているのか?」
ヤマトがそういうと、聖龍は笑った。
「何をいいますかヤマト様。この絵の母上は、死ぬ直前だったのですじゃ。つまり、かなりの高齢ですのじゃ。」
「じゃあ、この性格は……。」
「母上は、生前からこのような性格じゃったからのぅ。誤解されるが、老人じゃし、性格はそのときのままじゃ。」
すると、スザクールは絵画の中から抗議した。
「あら、失礼ね。老人とは何よ。いくら娘でも許しませんよ。」
「失礼したのじゃ。母上。」
「しかし、凄い若いな……。どう見ても十代だ。老人にはとても見えない。」
驚くヤマトにスザクールが絵画の中から笑った。
「……私……あなたのこと気に入ったわ。さすが娘が選んだ人ね。」
「母上、外見を褒められたからじゃなかろうか?」
「し、失礼ね。私は見る目だけはあるのよ!ふん!」
絵画と喧嘩しはじめた聖龍を皆は呆気に取られてみていた。
王城内でのメイドたちが、大急ぎで部屋に入ってくるとお茶を淹れはじめた。
ソファに座って、ようやく腰を落ち着ける一向。
「これからどうするんだ?聖龍。」
「まずは、今日は王宮へ案内して。そこで疲れを取ってもらうのじゃ。明日、これからのことを打合せをしたいのじゃ。」
「王宮か……。」
そういうと、扉から、宰相ジャスティンが飛び出す。
「ここに居ましたか!聖龍様!」
「なんじゃ、ジャスティン。騒々しいぞ。明日、ヤマト様と打合せをするから、今日は放っておけ。」
迷惑そうな顔を向ける聖龍。
「何をバカなことを言っておられる!これから戦後処理会議ですぞ!こちらへ!」
「何……!?だめじゃ!今日はヤマト様と過ごすのじゃ!」
「駄目です!一国の王に休みはありません!」
ズルズルと引きずられる聖龍。
ジャスティンはヤマトのほうへ視線を向けると、頭を下げた。
「ヤマト様。この度は本当にありがとうございます。今日は、くつろいでください。明日に打合せをしましょう。聖龍様は連れていきますね。」
「あ、は……はい。」
そういうと、聖龍は宰相のジャスティンに引っ張られて「戦後処理」の打合せに行ってしまった。
「い、嫌じゃ!ヤマト様ぁ!ヤマト様!」と、言葉を残して……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます