第206話 魔王の宣言
数日後、救国の英雄ヤマト達を称える式典が行われた。
結婚式もあるので、聖龍が早くヤマトと結婚したいがために大急ぎで進めた結果だ。
場所はドリューン王国の王宮。その最大の広間「栄光の間」には、王国中から集まった貴族、騎士、聖職者、そして民衆の代表たちが列席していた。
壁に均等に配置された大理石の柱と、天井を名工が技術の粋を集めて作成したレリーフ。それらを祝福するかのような陽光が栄光の間に差し込み、床に七色の光を踊らせていた。
その中央には一人の青年が、赤絨毯の上を静かに歩み進む。まるで物語から出てきたような美青年。エメラルドブルーのミディアムヘアーは太陽の光の一部を借り受けたかのような輝くを放っていた。
彼の名前はヤマト・ドラギニス。
伝説の龍人族の王となる予定の男だ。
外套には龍の紋章が輝く。それはかつて龍人族の王国で使われていた紋章。青いドラゴンの紋章であった。
見惚れるほどの美青年が中央を進むと、人々が静まり返り、その足音だけをまるで荘厳な調べのように聞き入っていた。
王座に座るのは、ドリューン王国の女王である聖龍。ヤマトを見るその眼差しは鋭くも、自らの未来の伴侶を見る慈愛の目だ。その先には未来を見据えている。
「……汝、ヤマト・ドラニス。この王国が滅びの縁にあった時、剣を執り、命を懸けて民を救った。災厄の存在であるデューラン率いる魔王軍数十万を討ち、王国を再び朝日に導いた者よ。」
王の言葉に、場内が粛然とする。
「この偉業に感謝し、ドリューン王国はヤマト・ドラギニスの建国を全面的にバックアップし、永遠の平和協定条約を結ぶことを宣言する。」
割れんばかりの歓声と、拍手が雷鳴のように沸き起こる。
ヤマトの人気は王国内でもうなぎのぼりであり、これは女王やトップだけでなく王国民の総意でもあることが知れた。
歓声が鳴りやむのを見て、聖龍は続ける。
「ヤマト王の功績に報いるため、王国は以下のものを献上する。」
■国宝の魔盾「黄昏の盾」
効果:鉄壁の防御
持ち主が盾を掲げることで、持ち主の防御力の10倍の盾となる。
■国宝の魔弓「邪竜王の弓」
効果:魔弓。使用者のスキルに呼応し、強力な貫通力を持つ弓矢。
■魔物20万体の素材ならびにコア魔石の全譲渡
■報酬金として100兆クラン。
ざわめく列席者。
素材の譲渡と報酬金の大きさもさることながら、国宝二つの譲渡は「やり過ぎでは?」という声も聞こえてくる。
しかし、ここで聖龍が宣言する。
「これらの譲渡と共に、新龍人王国と龍王国ドリューンは、防衛協定条約を結ぶこととなる。これらの国宝が我が国の守護にも有用されることを希望する。」
その宣言で、列席者は黙った。
これは大いなる取引の性質をはらんでいることを悟ったのだ。強大な力を持つヤマト達が、今後魔王軍からの攻撃に対してドリューン王国を守護してくれるのであれば、国宝の一つや二つは惜しくない。むしろ、その国宝がドリューン王国を守ってくれる武器となるのであれば、文句を言いようがない。
侍従が進み出て、やわらかい絹に包まれた国宝を聖龍に手渡す。深紅の盾と、新緑の弓を聖龍が高々と掲げる。
「この盾と弓が、わが国と龍人王国の魂を映す光とならん。」
ヤマトが進み出てそれを受け取る。広間が静寂に包まれた後、次第に人々の喝采が満ちていく。
「万歳!救国の英雄に光あれ!」
花弁が天井から舞い、音楽隊が凱旋の旋律を奏で始める。
「ヤマト!」
「ヤマト様!」
ヤマトのもとにリリス達が集まり、皆は胸に当てて、人々にい向けて深く一礼した。ヤマト達の背に差し込む光が、王国の希望を映していた。
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その後、ヤマトと聖龍、さらにほか婚約者たちの合同結婚式の発表がされた。
すでにエルフ王国の王女であるイハネ王女が、結婚発表をしているが、結婚式場をドリューン王国にすることも宣言された。
これは事前に、イハネ王女と聖龍が打合せをしており、合意しているものだった。
式典が終了すると、ヤマト達が結婚式や今後の打合せで数か月の間忙しくなる。
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※※※魔王ルフィルスの居城に視点が移動する※※※
玉座に腰掛ける魔王ルフィルス。
漆黒なマントが玉座から下に流れ落ち、城内の淡い光が魔王の輪郭を揺らしている。
魔王の無表情さは一見すると無関心にも見えたが、その表情下に潜む冷たさは、部下たちから見れば際立っていた。
瞳は半ば閉じられ、目の前の魔王軍四天王ギガンドに対して、静かな不快を示しながらも、失望と諦念が支配していた。
「――つまらん。」
その一言が、玉座の間の空気を凍らせた。声は低く、響きは静かだったが、鋼よりも重く、剣よりも鋭かった。
玉座の前に控えている四天王たちは一歩も動けず、空気さえも音を立てるのを忘れているようだった。
魔王の指先が肘掛けを軽く叩くたび、まるで世界の終わりが一秒ずつ近づいてくるようだった。
魔王軍四天王ギガンド。
魔獣型の魔族。虎の顔で、体は人間に似ている筋肉隆々の巨漢だ。
しかし、その背中は非常に小さく見えた。
「魔王様、今回の処罰を受けさせてくれ。」
その一言にギガンドのすべてが集約されていた。
彼は30万以上の魔物を動員して、聖龍を誘拐する作戦を担っていたが、結果は惨敗。
突如現れたヤマト達により、ドリューン王国に大した被害も与えずにすべての兵を倒されたのだ。40万ほどしかない魔王軍のほとんどを失ったのだ、その責任は大きい。
「キャハハハ!だから言ったのよ、雑魚兵をいくら集めても無駄だって。」
魔王軍四天王コプラールは空中にフワフワと浮かびながら膝を叩いて笑った。
コプラールは人型の魔族。身長160cmで小柄だが美少女な容姿だ。浮遊魔法と幻惑魔法を得意としており、かつ、弓使いでもあり、魔弓を使いこなす。遠隔から精確無比な射撃をしてくる魔王軍屈指の戦闘力を持つ。
「笑い過ぎだ。コプラール。」
そう戒めるのは、魔王軍四天王ブルフェリア。
リッチでもあり、骸骨の容姿をしているが、魔王ルフィルスのブレインでもあり、軍師でもある。その声は冷静そのものだが、コプラールをけん制するのは十分な威圧感がある。
「何よぉ、ブルフェリア。ギガンドの失敗は失敗じゃん。」
「ギガンドは出来ることを最大限やったのだ。ではコプラール。お前は魔王様へ献上する聖龍を用意できたのか?」
「そ、それは出来てないけどさぁ。」
頬を膨らませて不満を表情に表すコプラール。まるで子供だ。
「ははは!ブルフェリアのいうとおりだぜ、だが魔王様のお考えを聞かないとな。」
闊達な喋りで横から入るのは、魔王軍四天王ディノル。
身長195cm。巨躯の人型の魔族である。筋肉隆々の肉体だが、その顔は、地球の神話に出てくる英雄のような美青年の容姿だ。金色の髪からは二本の大きな角が生えているのが特色。彼は優秀な剣士であり、強力な魔剣を使いこなす。
皆は、一斉に魔王ルフィルスへ視線を向ける。まるで、処刑をいい渡されるかのような心境で、ギガンドは頭を下げている。
ルフィルスは、「ふ……。」と一言いうと、ギガンドに声をかける。
「つまらん、と我がいったのはギガンドに対してではない。」
「「……!?」」
四天王は驚いた顔で、ルフィルスの顔を見つめる。
ルフィルスはギガンドの責は問わないと宣言したも同然なのだ。
「今回の予想外の結果は、ヤマトというガキの力を見誤っていたことに起因する。」
ブルフェリアは、ギガンドのかわりに魔王の言葉をうけて、骸骨の頭を軽く下げる。
「おっしゃるとおりでございます。魔王様。ヤマトという龍人。もはや無視できぬ力をもっております。」
「…………ふむ。あのヤマトというガキがいる以上。もはや、聖龍を手に入れるのは不可能だろう。今の我では力が足りぬ。」
「では我々四天王でヤマトを討ちます!!」
ギガンドは名誉挽回の機会をもらおうと、叫ぶ。その声には明らかな焦りが混じっていた。
ルフィルスは頷いた。しかし、言葉は否定の音を紡ぐ。
「四天王であれば可能だろう。しかし、万が一ということもある。ヤマトというガキの成長速度は異常だ。予想外に四天王を超えるかもしれぬ。」
それにはディノルが不平と唱えた。
「それはあり得ないのでは?リリスも力を失っているし、四天王の我らには遠く及びませんよ魔王様。」
「その驕りは四天王らしくないぞ。ディノル。」
ルフィルスの金属的な冷たい声は、一種の強力な重力魔法を伴っているかのようにディノルの膝を折らせた。しかし、それは魔法でも何でもなく。ただの威圧に過ぎなかった。
「も、申し訳ありません!魔王様。」
冷や汗をかきながら、地面に顔をむけて謝罪するディノル。
魔王は、すぐに視点をもとに戻すと宣言する。
「人魚の国に行く。そこで、ラーマの宝玉を奪う。あれであれば我の体を完全に癒すであろう。」
「「!!」」
魔王は深海の奥にある人魚の国に入ることを宣言した。
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