第160話 イハネの精霊魔法

キーラスは見た。


ミノタウロスの真上に落下するヤマト達を……。


当然、落下するヤマト達を待ち構えるミノタウロス達。


「な、なんていうことを……。」


キーラスとアマエナは、城壁のふちに手をかけて惨劇が起こると予想した。


「ふ!」


ヤマトはクルリと前方へ1回転すると、その勢いを活かしたまま右足を振り上げる。そして、そのまま踵落としをする。


リリス、リーラン、オステリアもそれにならう。


「……ギ!」


「……ブボ!」


ミノタウロス達の4匹の頭が巨大な粉砕機で破壊されたかのように、消し飛んだ。


ドウン!と、ヤマト達は地面に着地する。


それだけでも驚愕の事実だ。城壁の高さは、地上で5階建ての建物の高さだ。着地して無事なのも驚きだが、ヤマト達は踵落としの右足をそのまま地面に打ちつけて着地した。


小さいクレーターのようなものが、4つ出来上がっているのが見える。


「な!?」


「身体強化魔法?い、いや……あれほどの強化など……。」


足が折れるどころか、地面にクレーターを作るくらいの強い肉体。そんな身体強化魔法など聞いたことも見たことも無かった。


呆れたように口を開いて見守るキーラス達。


すぐに周囲にいるミノタウロスが、ヤマト達に襲いかかる。


「ブゴーォ!」


「ゴォウ!!」


ミノタウロスの剛力で強化された拳が、ヤマト達に襲い掛かる。


「危ない!」


キーラス達が叫ぶと同時だった。


「ふん!」


ヤマトが腰を低くして、左足を軸にグルリ!と一回転する。長剣で円を描いた形だ。


その刹那、ミノタウロス達のうち10体ほどが胴体を真っ二つにされて、崩れおちる。


立ち場所を確保したヤマト達は、オステリアとリリス、リーランで背中をつけて円陣を組むと次々に襲い掛かってくるミノタウロス達を、一撃で切り捨てていく。


ヤマト達4人は、左に一歩一歩動きながら移動を開始していく。その進路には、ミノタウロスの血と死体が築かれていく。


赤い血吹雪を上げながら、ゆっくりと旋回しながら進むその様は、まるで炎のコマのようであった。


「え……?」


「は?」


キーラスとアマエナは、顔を見合わせる。


信じられない光景が広がっていた。


ミノタウロスの防御力は非常に高い。並みの剣士では傷すらつけられないのだ。それを、まるでバターでも切るかのように一刀両断していくヤマト達は異常とも言えた。


「リーラン行くぞ!まずは城門周辺の魔物を一掃する!」


「うん!もう血だらけで最悪……。あとでお風呂入らなきゃ!」


「し〇かちゃんか!」


「なに……それ?」


「リーラン!右じゃ!」


「きゃあ!」


きゃあ!とか言いながら、リーランは軽く剣を振り下げただけで、ミノタウロスの頭を真っ二つにする。


オステリアは、まるで片手で剣を風車のように回しながら、ミノタウロスを仕留めていく。


リリスは、一息で剣を突くと10本の剣があるかのように残像が発生。その後、穴だらけになってミノタウロスが死体として残った。


しかし、怯まずに襲いくるミノタウロス。それを同じ要領で斬りまくるヤマト。


「す、すごい……。凄い剣士だ。」


キーラスは、ヤマト達を剣士と完全に勘違いしていた。


ヤマト達の立ち回りは、10分以上続いた。


「ブゴォ……!」


「ゴィー!」


次々にミノタウロス達が斬り捨てられていく。ものの10分で、800ほどのミノタウロスの死体が城門前に積み重なった。


突然現れた人間の皮をかぶった化け物に、さすがのミノタウロスも怯えはじめる。


ヤマト達と距離を取りながら、お互いが睨みつけている状況が出来上がった。


「ダーリン!城門前にスペースが出来たわ!」


「そうじゃな。これだけあれば良いじゃろう。」


「じゃあ、戻りましょう!」


「よし!一旦、城壁の上に転移するぞ!」


ブン!


ヤマトが集中すると、4人は城壁の上に転移する。


「…………また!?お、お前たち。一体……。」


「…………に、人間なの……?」


急に戻ってきたヤマト達に、目を日開いて驚く。キーラスとアマエナ。


ヤマトはニコリと笑うと、告げた。


「城門前に空間が出来た。これから遠隔魔法でミノタウロス達を一掃する。」


「え……?」


「お、お前ら剣士じゃねーのか!?」


キーラスはヤマト達が魔法を使えることが信じられないようだった。


城門前での剣さばきは尋常ではないスピードではあったが、たしかに剣技に長けたものが見れば、少し違和感があったのかも知れない。


しかし、ヤマトについては剣士と言われても遜色ない程度まで上達している。


それもそうだ。ヤマトは龍眼という師がついてから、毎日 剣術の修行をしている。今では剣については、ある程度の自信が見えてきたところだ。


「イハネ!ルシナ!準備はOKか!?」


「いつでも!」


「任せてよ!」


イハネは既に準備万端だったらしく。詠唱を終えていた。


「いきます!」


両手を前に掲げると、魔力が迸る。


パチ!パチ!


驚くメンバー。魔力は通常、体の内部に集めて圧縮して発現するものだが、これは魔力自体が空中に集まって形を成そうとしている。


つまり、体内圧縮ではない。体外圧縮をしようとしているようだ。


「す、すごい!イハネに魔力が集まっていく……。」


驚くヤマト。


「これは……精霊魔法か。」


「凄いわね。イハネちゃん。」


「母上、イハネから凄い魔力を感じます……。」


「あれ……弓はまだ射らないほうがいい?」


「イハネ……。もしかしてこれってサラマンディック……。」


ヤマトは驚く。イハネの力をちゃんと見たことが無いのだが、おそらく今使おうとしているのは『精霊魔法サラマンディック』だ。巨大な魔力でサラマンダーを顕現化させて攻撃する超高等範囲魔法だ。


それを見ていたキーラスは、冷たいものを感じた。


(ま、まさか……。超高等精霊魔法サラマンディックなんてエルフの王族しか使えるはずが……。)


「火の精霊サラマンダーよ。我に力を……。そして目の前にいる敵を焼き尽くせ!」


カ!……と、イハネの目が赤く輝く。


「『サラマンディック』!」


ズアアア!!!


城壁前に巨大な炎が渦巻く。


「うわ……炎が。」


ヤマトが驚くと、炎が20mほど大きい球体を象ったと思った矢先、急激に形を変えていく。


炎の精霊サラマンダー。巨大な炎の精霊が空中に現れた。


形状としてはオオトカゲに近いだろうか。炎でオレンジ色に光るサラマンダーが、ゆっくりと地上に降り立つ。

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