第159話 キーラス・フォン・ラオカーン

龍族魔法軍団【紫水晶の団】の団長、キーラス・フォン・ラオカーンである。


キーラスは美の神に愛されているかのごとく美しい。長い手足に、身長180cmの長身に加えて八頭身。スタイルの良い自分の体をハーフアーマーに押し込めているが、豊かな胸がハチ切れんばかりだ。


パープルカラーのロングヘアー。赤いフード付きの魔法マントが好きで良く着ている。長い睫毛に薄い唇。大きな目は髪と同じく紫に輝いており、見るものを惹きつけてやまない。


ぶっちゃけファッションセンスはどうかと思うが、スタイルと顔が整っているために、不思議と似合っている。


龍族はエルフ族に輪をかけて長命種族なので実年齢は不明だが、人間で言えば年齢は10代後半に見える。かなり若い軍団長だ。


過去に何人かの男が実年齢を問うたが、いずれにせよキーラスの魔法の練習台になるのが常だった。


このキーラス、見た目の美しさだけでなく、魔法使いとしては超一流である。元々魔法の才能に長けた龍族の中でも、群を抜いた天才であり。魔力も人外な天才魔法使いである。


魔法行使力でいえば、聖龍を除けば(さらに言えばヤマト達も除外して)、


龍族のキーラス。エルフ族のヴィールム。人族のセラフィン。この三人が頂点であり、【三魔導士】とも言われている。


そのキーラスは、窮地に立たされていた。


事件が起きたのは、3日前。


突然に、水晶城ガルクディンの前方50km先に、ミノタウロスの大群が現れたのだ。気がついたのが、旅商人で良かった。彼らは優秀な馬と巧みな馬術ですぐに水晶城ガルクディンに報告をしてくれた。


「はぁ!?そんな馬鹿なことがあるわけないだろぉ!?」


キーラスの残念なところは、口調が男まさりなところだ。


口調とファッションセンスさえ直せば、完璧だ。しかし、その癖があったとしても、彼女は男性にかなりモテる。


美しい容姿と、サバサバした性格が男性を腰くだけにするのだ。


魔法隊である【紫水晶の団】を引き連れて城門まで行ってみれば、確かに報告どおりにミノタウロスの大群が居た。


「た、大群……ってレベルじゃないじゃねー。」


地平線の彼方まで埋め尽くされるミノタウロスに、キーラスは即座に対処した。


城門を閉じ。籠城戦の準備を整えると、王都へ救援要請の早馬を走らせた。


さらに【紫水晶の団】全員に城壁上に登るように命じると、遠隔魔法攻撃を命じた。


「城門へ近づけるな。引きつけて撃とうと思うな。出来るだけ遠くで仕留めろ!撃てば当たる!」


城壁上のスペースはそれほどあるわけではない。そのため、攻撃隊をいくつかのブロックにわけてターン制度にした。


さらに、村の魔法道具屋と交渉させて、回復ポーションを全て買い取った。すべては確保して城壁上にもって来させ、魔法兵士の魔力回復に努めた。


また弓矢隊も城壁の中腹と左右後方に立たせた。


遠隔射撃にすべてを費やしたのだ。


キーラスは悟っていた。ミノタウロスが城壁に辿りついた時点でこの勝負は見えていると……。


この水晶城ガルクディンは、魔法軍団の駐屯場所である。はるか南にある要衝への補給と魔法部隊を差し向ける中継でしかないのだ。


この城に敵軍が現れた時点で勝負が見えていることは、誰よりもキーラスは悟っていた。


(しかし、ここにも多くの住民がいる……見捨てるわけにはいかない……。)


キーラスは覚悟を決めていた。


王都から救援が来るまで4~7日はかかるはずだ。7日耐えきれば援軍によって助かる。その希望に全てをかけていた。


キーラスが使えるだけの範囲魔法と、遠隔射撃魔法を撃ち続けた。


ミノタウロスの恐ろしいところは、疲れ知らずなところだ。昼も夜も関係なく突進してくる。


こちらも強い肉体と戦闘能力をもって龍族だ。長時間の忍耐戦でも、かなり戦える魔法隊だ。


しかし、さすがに徹夜を連続でしていると魔法兵にも疲労が見えてくる。疲労が蓄積されると、回復ポーションも効かない。


籠城をして3日目の夕方……。とうとう、そのときが来た。


ドガン!ドガン!


城門を殴りつけるミノタウロス達の打撃音がする。


そう……。とうとう城門までの接近を許してしまったのだ。


「く、くそ……。限界だぜ……。」


魔力も気力も底をついたキーラスは、膝をついた。


この城壁の上から見える光景は、ブ厚い城門を殴りつける。万の数を超えるミノタウロスだ。破壊されるのは時間の問題と言えた。


あの城門を突破されたら、洪水に飲み込まれる小舟のように魔法軍は殺され、城内は殺戮の場と化すだろう。


城壁上で、青ざめるキーラス。ここから城門あたりに魔法を撃てば”穴”を作って、ミノタウロスの入り口を増やすだけだ。


「キーラス様!お逃げください!」


【紫水晶の団】の副団長アマエナが叫ぶ。彼女は黒い魔法ローブに、長い魔法杖を持っている。疲労のせいか、腕が震えていた。年齢は人間にすれば20代前半ほどで、整った容姿をしている。


長い金髪を振り乱しながら、アマエナがキーラスの腕を取る。


「私が飛翔魔法でお連れします!」


「や、やめろ!まだ住民が中にいるんだ。逃げねーよ!」


「何を言っておいでですか!あなたは龍族の至宝。ここで死なさせるわけにはいきません!」


「は、はなせ!」


キーラスとアマエナが、もめているとき。


キーラス達の後方に、重い打音が響く。


ドウン!ドウン!ドウン!


一瞬、大砲でも撃たれたのか思い後ろを振り返るキーラス達。


そこには……。


エメラルドブルーの髪をした美青年が立っていた。その美しさに、キーラス達は状況を忘れて茫然としてしまった。


(か、神?降臨神か?)と、キーラスが美青年を見つめていると、左右に立つ女性たちも美しい。


同じエメラルドブルーの髪の美少女、その美少女は眼帯をつけており、不遜な表情を浮かべていた。


さらに同じくエメラルドブルーの髪の美少女、こちらは少しウェーブがかった前髪をクルクルと指でいじっていた。まるで女神のように美しい少女だ。


そして、珊瑚色の髪色をした少女もその後ろに立っている。彼女は真剣な顔をして城壁下の状況を確認したり、青年に話しかけたりしている。その容姿は、妖精のように美しく。同じく、絶世の美少女と言われるキーラスを見惚れさせた。


(な、何て美しい集団なんだろう……。)


そんなことをキーラスが考えていると、美青年のほうが、何かを左右の少女に語りかけると……意識を集中しているのか無言になった。


「…………。」


ブン!


「き、消えた!?」


仰天するキーラス達。


何と、美青年が消えたのだ。まるで瞬間移動のように消え失せた。


このような魔法やスキルは見たことも聞いたこともないキーラスは動揺した。


(ま、まさか……。本当に神様?)


左右にいる青い髪の少女たちは微笑を浮かべたまま、動揺している様子は無い。


「て、敵なの!?」


アマエナが警戒したように、キーラスを背後に庇う。彼らの腰には、長剣が装備されていたのだ。もし敵であれば、魔法使いに取って接近戦は不利。アマエナは自分が盾になってキーラスを守ろうとしているのだった。


しかし、また仰天の出来事が起きる。


ブン!


また、先ほどの美青年が現れたのだ。


「な!?」


しかも、今度は金色の髪を持つ美少女エルフと、白銀の髪をもつエルフだ。


「お、お前は何者なんだ!?」


アマエナが魔法杖を構えたまま叫ぶ。小声で詠唱も開始していた。


すると、エメラルドブルーの髪をもつ青年は笑った。


「俺達は敵じゃないよ。助けに来た。」


「は?」


すると、アマエナは怒鳴った。


「お前ら数人で何が出来る!トリックを使って、騙そうとしても騙されないぞ!」


顔を見合わせる美青年と美少女たち。


「ふむぅ、もっともじゃの。」


「リリス……。納得するなよ。」


「まぁ、いいんじゃない?放って行けば。」


「ヤマト。城門が破られそうよ。急いで。」


「分かった。リーラン。」


ヤマトと呼ばれた美青年は指示を出しはじめる。


「俺とオステリア、リリス、リーランが一度”下”に言って蹴散らしてくる。城門前をカラッポにするから、そしてらルシナとイハネは魔法で援護してくれ。」


「分かったよ。弓矢の数が心元ないから、ちょっと出してくれる?ヤマト?」


「了解……。」


すると、美青年は空中に手をやると、そこに黒い歪みのようなものが発生した。


ズボ!と、そこに青年が手を入れると、大量の弓矢が引き出されてくる。


「ディ、ディメンション・ボックス?」


驚くキーラス。


伝説のスキル、もしくは魔法であり、おとぎ話でしか聞いたことがない。幻のスキルを、この青年はいとも簡単に披露したのだ。


何回か、先ほど同様の動きをすると、次々に矢を取り出す。目の前に弓矢の山が築かれた。


「これだけあればいい?ルシナ?」


「十分だよ。ヤマトありがとう。」


「あの……ヤマト様。私も下に降りて戦いたいのですが……。」


「ああ…。大丈夫だよ。俺達も、すぐ戻ってくるから。イハネは魔法遠隔攻撃でミノタウロスの数を減らしてね?」


「分かりました!」


先ほどから”下”に降りるという単語が出ているが、キーラスは首を傾げた。


(下って、ミノタウロスがいる城門前しかないけど……)


その疑問を打ち消すように、青年達は動き出した。


「あの……。この子猫を預かっててもらえます?」


美青年が、懐から青い毛並みに子猫を取り出した。


「こ、子猫?」


「ええ。ちょっとだけでいいんです。」


「そ、それは……。構わないけど……。」


キーラスが青年の手元から、子猫を預かる。


ニコリと笑う美青年。


「……!」


その笑顔にポォーっとなるキーラス。


すると、青年は叫んだ。


「よし!いくぞ!」


「良し!やるのじゃ!」


「腕が鳴るわねぇ。」


「ぴょん!っと」


何と、青年たちは城壁の縁まで走っていくと、突如として飛び降りたのだ。


「……!」


「……ちょっ?」


キーラス達は子猫を抱きかかえたまま走って城壁の縁までいくと、城門前に視線を向ける。


すると、驚愕の光景が目に飛び込んだ。

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