第161話 サラマンディックとゼウスハンマー

地上に降り立つ、炎の精霊サラマンダー。


超高温のサラマンダーの足が地面に触れた瞬間。真下にいるミノタウロスは勿論焼かれ、近くにいるミノタウロスは数百が一気に炎に焼かれていく。


「ギャ!?」


「ゴォ!?」


全長20mの巨大なサラマンダーは、ミノタウロスを次々に踏みつぶす。


そして長い舌を出して、数十のミノタウロスを絡め取っていく。その舌に絡め取られたミノタウロスは、炎に焼かれて絶命していく。


凄まじい高温の熱風が、城門前に平原から吹いてくる。


「す、すご……凄すぎる……!」


前方2km先に位置するあたりに発生したサラマンダー。その破壊力はすさまじく、次々にミノタウロスが焼かれていき、そこには何もなくなっていく。縦横無人に歩き回るサラマンダーは捕食者にしか見えなかった。


既に1000体近くのミノタウロスが、炎に焼かれている。


チラリと、イハネの様子を伺うと。サラマンダーを制御するためなのか、両手を突き出している。そして目から赤い光を発しながら、前方を見つめている。心ここにあらずって感じだ。


「ねぇ。イハネちゃん強すぎない?」


「そ、そうじゃな……。ワシらの出番がないぞ。」


「母上。このままイハネに任せてしまいますか?」


「ちょ、ちょっと待てよ。俺らも何かしようぜ!」


このままでは、活躍する場所がなくなってしまう!と、思ったヤマトも負けじと魔法を発動させる。


イハネの横に立つヤマト。


そして、同様に両手を上げて構えを取る。

「…………むぅ!」


魔力を高めるヤマト。


ビリ……ビリ……。


ヤマトの魔力に空気が震える。


「…………え!?何この魔力!」


「ま、魔人?」


アマエナがヤマトのことを魔人と間違えるのも無理はない。通常の魔力で空気が震えることは滅多にない。魔力が物理に干渉して、影響を及ぼすのは魔法として発現してからだ。


ましてや、ヤマトは体内で魔力を圧縮しているに過ぎない。それが外に溢れ出て、空気を震わせるなど。通常、地上界では不可能なのだ。


ヤマトは、目を見開く。


『ゼウスハンマー(雷神鉄槌)!』


ゴロゴロ……ゴロゴロ……と、上空に暗雲が立ち込める。


「な、なんだ?今度は何が起きるんだ!?」


「あわわわ……。」


キーラスと、アマエナは上空をただ見つめていた。


ゼウスハンマーは、かつて龍人族の中でも限られた者しか使えなかった、光魔法の上位中の上位魔法だ。(ちなみに光属性魔法なので、リーランも使える。)


やがて、上空にうずまく雲が雷雲の様相をしてくる。


そして、10秒後に上空から巨大な雷柱が落ちてくる。その数、数百を超えた。


雷撃の雨……。


それがミノタウロス達を襲った。


一撃一撃で、数百のミノタウロスが雷撃で焼かれ。そして地面に伝わって雷は周辺1kmの魔物を感電死させた。


そこに立っているものからすると、恐怖しかない。


逃げ惑うミノタウロス。しかし、逃げようにも避けようにも、天から降り注ぐ雷撃を防ぐ手段はない。


暴れるサラマンダー。そして、天から降り注ぐ雷撃。


その光景は、およそ地上界の光景とは思えない。


キーラスは、知らぬ間に地獄にでも転移してしまったのかと思った。

1時間後……。


水晶城ガルクディンの前の美しかった平原は、2万以上のミノタウロスの死体に埋め尽くされていた。


危機は完全に去っていた。


結局、ルシナ、リリス、オステリア、リーラン達は、超範囲魔法を見守っていることしか出来ず。


ルシナなどは、弓矢を一本も放つことなく戦いが終了したのだった。


イハネは申し訳なさそうに頭を下げた。


「わたくし……、本当は剣のほうが強いんですけど。精霊魔法もそれなりに使えるもので……。」


「「それなり!?」」


ヤマト達は、イハネの優秀さに舌を巻いた。


政治的な交渉、事務処理能力などの高さは知っていたが、まさか戦闘能力がここまで高いとは思っていなかったのだ。


キーラス達は、口をこれでもか!と大きく開いてヤマト達を見つめていた。


龍族は地上最強の種族と言われているが、これほどまでの力を持った魔法使いは存在しない。いや……聖龍王は別格であるが、それとタメを張るほどの魔法力であった。


「あ、あんたらは一体……?」


キーラスが声をかけると、ヤマト達はニコリと笑う。


「……っ!」


その表情を見たキーラスは、胸が高鳴るのを感じた。


「俺は、ヤマト。ヤマト・ドラギニス。」


「ヤマト……?どこかで聞いた名だ……。」


「キーラス団長!もしかして、聖龍王の婚約者の!」


「あ!……あのヤマト?いや……失礼した。ヤマト様か!」


どうやら、ヤマトの名前は知られているが顔は知られていなかったらしい。


「あ……知っているんなら話が早いね。俺は聖龍と確かに婚約しているけど、彼女に会いにいく途中だったんだ。」


「そ、そうなのか!どうりで強いと思った……、いや、驚いたぜ。」


キーラスはフードを取って、ポリポリと頭を書いた。


「キーラス団長……あれは強いとかそういうレベルでは……。」


「まぁな。でも聖龍女王の旦那さんなら納得しちまうぜ。」


カカカ!と笑う、キーラス。そのカラッとした性格は、ヤマト達から見ても好ましいものに見えた。


「それで?見かけて窮地だから助けてくれたって訳かい?ありがとよ!」


「えっと、キーラスさんでいいのかな?」


「おう。キーラスって呼びつけで構わないぜ。あんたは命の恩人だしな。はっはっは!」


バン!バン!と、ヤマトの肩を叩くキーラス。


「あはは。じゃあ、キーラス。あのミノタウロスは一体何だったんだ?」


「それはウチらが知りたいところだ。いきなり数日前に現れてよ。おどろいたぜ。」


「いきなりじゃと?」


リリスが話に入っていく。


「そうだ。パッと現れてよ。ありゃ、転移魔法か何かだな。あんたは?えらい美人だな。」


「ああ。ワシはリリスと言う。ヤマトの嫁じゃ。」


「こ、こりゃ。驚いた。聖龍女王の前に、すでにヤマトは嫁さんがいるのか!?」


アマエナも驚いていた。


「そ、それは聖龍女王もご存じなのですよね?」


ヤマトが女王の婚約者だと知って、アマエナの口調は丁寧に変わったが、驚きの連続に頭が付いていかないようだ。


「もちろん。知っているよ。」


「そ、そうなのですね……。」


「あら。それを言うなら、私もヤマトのお嫁さんよ。」と、オステリア。


「わたくしはイハネです。ブルーサファイアの王女ですが、ヤマト様と婚約させてもらっています。」


「あ……ボクもヤマトに婚約してもらっているよ……。」


「…………はへ?」


「…………え?」


あまりのことに、さすがのキーラスも言葉が出てこない。


何と、ここにいる女性全員がヤマトの嫁だと言うのだ。

しばらくフリーズしていたが、キーラス達はようやく起動した。


「で、あのな?整理すると……。」


「う、うん。」


ヤマトは苦笑いだ。


「あんたは女王陛下の婚約者。」


「そう……。」


「そして、龍人族。」


「うん。」


「元龍人族の女王を含めて数名と婚約して、最近エルフ王女とも婚約……。」


「そうそう。」


「それに怒った女王陛下を宥めるために、龍族の国までワザワザきた?……そういうことか?」


「そう!」


「しかも通りがかったら、ミノタウロスがウジャウジャいたから、ついでに退治したって?」


「そうそう!」


「意味わかんねー!」と、キーラスはバンザイのポーズを取った。


「まったくです。」と、アマエヌも頷いている。

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