6-7

「人間はっ……、みんな……化け物なのかもしれ、ないな」

 と、私は思わず声に出した。息が切れていたせいで上手く話せなかった。

 人々の声が大きくなってくる。

 どの辺りまで来ただろうか。なんてことを考えながら私は進む。

 足が痛く、足の感覚が少しずつ失われていくのを感じた。髪を切ってきてよかった。おかげで汗は思いの外かいていない。

 山を登り始めて約五十五分。

 確かこの辺りに埋めていたはずだが――。

 少しずつだが、当時の記憶が蘇ってくる。木が既に切られている可能性はあるか? もちろんあるだろう。だが、あの木は相当太い木だったはずだ。そう簡単に切られるとも思えない。

 辺りを探索するが、中々見つけられなかった。

 ――泥に塗れることになってしまうけど、そこらへんにそのまま埋めても――。

 そうしたとしても、この手紙を守ることはできる。

「そうできたとしたら、簡単に諦めがつくんだけど」

 忘れていた身とはいえ、みんなで埋めた思い出のレコード。

 それに、それを見つけたら最期にもう聞けない三人の声が聞ける。そう思ってしまうと諦めることができなかった。

 私は自分が思っているより友達のことを好いているのだろう。

 もっと素直な性格であればよかったが、私はこうも人に物事を伝えるのが下手だ。

 冬香とはずっと同じ学校だったが、年を重ねるにつれ彼女との距離は離れていった。

 当たり前だ。彼女は社交的なのに私はなぜかいつもクールぶっていた。彼女からすれば、私から離れていったように感じていただろう。

 それでもたまに私と話をしてくれる冬香にはありがたいと思っていた。

 化け物部に冬香が入った時も厳しい言い方をしてしまった。

 もちろん、自分の正義感だけで化け物部に入ってきてほしくない気持ちもあった。しかし、それだけでなく彼女は化け物部には合わないと思った。彼女からは死の気配を感じたことなど一度もなかったから。

 私ははぁ、と深く溜息を吐いた。

 今更反省したってもう遅い。スピリチュアルなことは別に好きじゃないが、もしもあの世で彼女に会えたら謝ろう。

 そのまま詮索し続けた。

「あっ」

 少し奥まったところへ葉を避けながら進む。葉が当たってとてもくすぐったかった。

 そして丁度そこに四本の太い根の生えた木があった。

 私はすかさずコンパスを取り出し、東西南北の方向に生えているか確認する。

 赤い針を合わせると、綺麗な十字架の形になった。

「よかったぁ……」

 見つかったことに安堵にして、私は地面が汚いことも気にせずその場にへたり込んだ。

 他の木で隠れていたから見つからなかったのか。――この数年でこの場所も大きく変わったのだなぁ、と私は思った。

 更に少し奥まで行ってみると、外の景色が見えた。

 時刻は十五時三十分。

 今日が普通の平日であれば、学校が終わり絵を描きに美術室へ向かう頃だろう。

 日が落ちるのはもっと先だったような気がするが、不思議と空が赤く見える。

 幻覚でも見ているような気分だ。

 そういえば冬香に前、私は夜っぽいと言われたことがある。

 しかし、私自身は自分のことをまるで夕焼けのようだと思っていた。だからあの時、夕焼けを題材に絵を描いた。

 夕焼けと聞いたら普通は良いイメージが思い浮かぶかもしれないが、私はそうではなかった。

 太陽が中途半端に顔を出している様子は、なんだか全てをあやふやに感じさせた。だから曖昧に生きている自分を夕焼けに重ねていたのだ。

「まぁ、景色としては悪くないかな」

 高い場所から見る最期の景色としては上等なものだろう。

 なんか、世界の終わりも今なら少し見てみたいと思える。だって世界が滅びるのだ。

 人類が長い時をかけて紡いできた歴史も無に還る。まだ衣服も来ていなかった頃から、これほど恐ろしい力が使えるようになるほど、人類は発展してきたのだ。



 だが、『人間化け物歴史レコード』も、これで終わる。



 そして世界は冒頭に戻る。


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