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 これは自然災害などではなく、人類を巻き込んだ心中である。

 つまり――人間が起こすことを人間が予言していた、ということになる。

 私たちが、自殺がどうこうと言っている裏側で世界を巻き込んだ自殺計画が進められていたのだ。

 私たちが今まで経験していたのは世界という大きな枠組みの中で、その中の一つの国、一つの県、一つの町で行われているほんの些細なことだった。

 自分の世界に閉じこもっている私たちにとっては、それがとても大きな出来事に見えていたのだ。

 私はその場に足を止めた。坂道に足を取られてバランスを崩しそうになったが、なんとか踏み止まった。

 インターネット上では、突然告げられた人生の終わりに驚く人、怯える人、祈る人、感謝を伝える人、喜ぶ人が見受けられた。よく見てみると、予言が当たったと予言を馬鹿にしていた人たちを見下す人もいる。

 もし、私がこのことを知らなかったらどう思っていただろう。

 きっと喜んでいた――いや、焦っていただろうな。このことを知っていても知らなくても、今の私に死ぬ勇気などなかっただろうし。

 普段は平和なニュースで埋まっているインターネットのトップ画面の最新ニュース一覧も、一瞬にして世界の終わりの話題に染まった。

 専門家によると、その兵器がここまで到着するのには残り二時間ほどあるという。

 残り一時間三十分――ということは、私たちの死亡時刻は午後十六時三十分か。

 死というものは、私が思っているよりもずっと傍にあった。

 私はそのことに気が付かないまま、勝手に別の方法で死を引き寄せて、勝手に安心を感じていたのだ。

 ところで、この予言というのは一体どこの誰が言い出したことなのだろうか。前に見た話によると、大昔の書類から出てきたもののようだが。

 ――いいや、そんなものを考えたって仕方ない。世界が滅びることに変わりはないのだ。残り少ない余命で考える時間が勿体ない。

 しかし、言えることが一つある。それは、昔の人々はこの事態の原因まで予測することはできなかったということだ。

 人間の技術がここまで発展し、人間が世界を滅ぼせる時代。そんな時代が来た上に、本当に人間が世界を滅ぼそうとするなど、一体誰が想定できただろうか。

 少し高い場所から見てみると、インターネットだけではなく、現実でも騒ぎが起き始めている。

「大丈夫ですよ!」と根拠もないが、とにかく冷静を保とうとするもの。一緒に泣き崩れるカップル。何かのドッキリと勘違いしている中学生。何も知らないであろう幸せな子供。

 ――人間って様々だな、と私は思う。

 歩きながら私は一つの質問を思い出した。

 それは今までの全ての根幹にある問い。

『自殺は狂気か否か』

 冬香に伝えることはできなかったが、私はその質問に対して自分なりの答えを出した。



 自殺は狂気なんかではない、と。



 それはいつしか信念となり、私にとって譲れないものになった。

 そして今日、その信念は更に強いものとなった。

 自殺だけではなく、死さえも人間とは隣合わせにあった。

 冬香と二人の会話を盗み聞きしてたことは悪かったと思ってるよ。

 私はこの一連の出来事を経験したが、どうしても春や夏希、冬香のことを異常者だと思うことができなかった。

 それは、私は死にたいという思いを持っていたからかもしれない。

 しかし、生きる目的を得てしまった今でも三人のことを異常だとは思っていない。三人が異常なのではなく、そういう思いを抱える環境下にいたのだ。

 期待からのプレッシャーに押され、いじめられ誰からも本当の自分を見てもらえず、友人がいなくなっていく中で独りこの世界の真実を察した。

 そんな状況下で生きたいと……思えるだろうか。

 私の考えに則るとすれば――全ての人間に自殺の可能性があることになる。――自殺願望者は化け物なんかじゃない。

 もしも自殺願望者を『化け物』と形容するのであれば、また全ての人間も『化け物』と呼べるようになってしまうのではないだろうか。

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