6-4
それは考えられる。予言自体外れるかもしれないが、確かあの予言は大昔のものだったはず。……人間が人間を滅ぼせるなど、考えつかないだろう。ならば、人間が落とす兵器を隕石と勘違いする可能性だってある。
今まで考えてもみなかった。化け物部でも一度もそういった話は出てこなかった。
だが、冬香には心当たりがあった。
戦争が今、終わろうとしている。そして同時に壊滅状態にある国があり、その国は世界を滅ぼせるほどの兵器を持っている。
この時代、そのクラスの兵器を持っていること自体はさほど珍しくもなかった。
現地で状況を見ているわけではないが、きっと一か月も耐え切れない。
そうなった国は今後どうやって生きていくのか。植民地にされて奴隷のように強制労働させられるか、はたまた誰一人いなくなるか。
どちらにせよ、生きる目的を失う。
予言が当たればの話ではあるが、今から隕石が落ちてくるよりかはずっと可能性が高いのではないだろうか。
予言なんて信じたことはなかったけれど、この推測をおかしなものとは思えない。
即ち、この予言とは――世界を共にした心中。そう考えることもできるのではないか。
――もし本当にそうだとすれば、私は何のために生きているんだ。絵を描くことが私の生きる目的だった。美大を目指して、いつかキャンパスで好きなように絵を描きたいと願っていた。
このまま世界が本当に終わるのあれば、冬香の生きる意味は無に還る。
春もいない、夏希もいない。夢もない。生きる目的もない。
こんな世界で生きてみようと思えるか。
こんなものは誰かから聞いた話でもなく、冬香の憶測でしかない。しかし、今の冬香はそれ以上に人生へ絶望していた。
冬香は生きる目的を失うことに怯えていた。彼女にとって夢は辛い時間を乗り越えるための糧だった。予言が当たる、外れる。世界が滅びる、滅びない以前に冬香は生きる目的を失うことが怖かった。
殺されるくらいなら、自ら命を絶つ。
冬香が初めて公民館の会議室へ行った時、春がそんなことを言っていたのを思い出した。
それが表向きの化け物部が死を望む理由。
生きる目的を失って、このまま絶望して誰かに殺されるくらいなら。
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もう何も考えられなかった。
そこにあったのは死への願望ではなく、人生への虚無だった。
ただ一つ言えるのは、彼女は誰よりも化け物部の一員であったということだ。
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