6-4
これは、とある少女が死を選ぶ少し前のこと。
十一月七日。
絵を描くことが好きだった一人の少女は、この半年間で、自分がこの世界の『あたりまえ』を理解していなかったことに気づいた。
人間は、思っているよりずっと簡単に死んでしまう。
彼女が――冬香が愛した友人たちは次々にいなくなった。
「…………」
冬香は湊と話をした後、まずは人間の中で起きていることを『知る』ことから始めることにした。
冬香は半年前の自分の浅はかさを後悔する。あの時の冬香は何も知らないのにも関わず、ただ自分の正義感だけで化け物部の三人を助けようとしていた。
しかし、その結果が『これ』だ。
春の悩みにも気づいてあげられなかった。
本当の夏希も知らなかった。
――私は、何も知らなかった。
まだ春の頃にこの国で起こっている自殺の数を調べた。
いつかの時代にパンデミックが起きたが、自殺者数は変わらず、そのパンデミックは自殺者数の増減に関係ない。
しかし自殺する要因は大きく変わっている可能性がある。そのパンデミックは人類の歴史に残るレベルのものであったらしい。そうであるならば、学校も恐らく休校になっているだろう。学校がなければいじめなどが原因で自殺する人――夏希のような人は減るだろう。
その代わり、パンデミックが原因で会社が倒産し、失業し、生きていくための金を失った人々は増える。そこから発生する自殺も増えるだろう。
また湊は戦争をすれば自殺は減ると言っていた。確かに自殺を考える余裕がある状態ではない。だが、自殺者が減っても戦争による犠牲者が大勢出てくる。生きたい人が生きることのできない状況が完成する。自殺者が少ないからといって平和な世の中かどうかは分からない。
今のこの国は十代の死亡理由は自殺が最も多いらしい。しかし、これはかえってこの国は衛生的で、治安が悪くない証明とも言えないことはないだろう。
自殺者数が変わらなくてもきっかけは変わる。自殺者数が減ったからいい世の中になったとは言えない。自殺者数が多いから最悪の世の中とも言えない。
自殺者数も減らし、尚且ついい世の中にすることは非常に困難だ。
――この世界の良いことばかりを都合よく取ることはできない。
冬香はそう思い深いため息を吐いた。
世界は冬香が思っているよりもずっと、平和なものではなかった。
じゃあ、冬香の住む『小さな世界』ではどうだろうか。春や夏希、秋穂のことだ。
冬香は春と夏希を死以外の方法で救済できただろうか。いや、きっとできなかっただろう。
――私はずっと逃げていたのだ。みんなをまるで異常者のように捉えたり、春が『ああなった』のは自分のせいではないと思うために夏希に自分の都合のいい答えを求めた。
冬香がいてもいなくても、二人の結果は変わらなかっただろう。いや寧ろ冬香がいない方が春が落ちることはなく、春がいることによって夏希が溺れることもなく、冬香以外の三人で一緒に安らかに眠っていたかもしれない。
――私さえいなければ、少し変わっていたかもな。
冬香はそう思いながら寝転がり、枕に顔を埋めた。隣に置いてあった目覚まし時計の日付を眺める。
化け物部が理由として利用していたあの予言の日が近づいている。
結局、あの予言とは何だったのだろう。
インターネットで薄っすら調べてみると、そこそこ話題にはなっているようだった。
本当に隕石なんて落ちてくるのか――しかし変だ。今の最新技術であれば、隕石が落ちてくるならば一週間前くらいには分かっているはずだ。そのくらい、今の技術は発達している。
しかし、そこの予言が外れていたと仮定して、世界が滅ぶほどの他の自然災害があるだろうか。
――人間が起こす……?
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