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死にたかった人間はあの問いに希望を見出し、みんなを生かそうとしていた人間はあの問いに絶望した。
なんて不思議な話なのだろう。
それもあって、私はきっと『あの日』が近づいているから勝手に二人のことについて責任を感じているのだと思っていた。
だけれど、なんだか不安に感じた。
だから私は今日、さっき、ここへ来る前に冬香に電話しようとした。しかし、冬香はその電話に出なかった。そこで私は留守番電話を残した。
たった一言、『寂しい』と。
『あなたがいなくなったら寂しい』、そういった意味で送ろうと思ったのだが、私は随分と口下手だから、それしか残すことができなかった。
きっと私は、自分でも認めていないうちに気が付いていたのかもしれない。もし私たちどちらかが消えるとすれば、それは冬香だと。
私が残したメッセージは残したのだろうかと思い、私は机の上に無防備に置いてあった携帯を触った。
不用心なのだろう、携帯にはロックが掛かっていなかった。もしかすると、私が中を見るようにあえてロックを解除した可能性もあるが――いや、ないな。そんなことを考えられる精神状態じゃないはずだ。
――届いてる。
私の留守番電話を再生した痕跡がある。私の声は届いていたのだ。
でも、私の声じゃ止めることはできなかった。
――別にいいよ。無理に止めたって冬香が苦しいだけだから。伝わったのであれば、それでいい。後悔はない。
ふと我に返って、冬香を下ろしてあげないと、と思い美術室共用の鋏を使って縄を断ち切った。
縄を失った冬香の身体はまるで人形のようにドサッという音を立てながら落ちた。私はそのまま首にかかった縄を解く。
顔は未だ見ることができなかった。まだ体温は残っているためそんなわけがないとわかっているが、なんとなく腐った匂いがする気がした。
「…………」
私は顔を見ることができない代わりに耳を見た。耳にはまだ見慣れたピアスがついている。
このピアスは、きっと外されてしまうんだろうな。親の意志によっては捨てられるか、一緒に燃やされるか……。
私は片耳だけ冬香からピアスを取った。まだ人の体温が残っている。
もしかすると、まだ心臓が動いているのかもしれない。そう考えることもできたが、私はその考えをすぐに捨てた。ここで命を助けることは、冬香にとって拷問に等しいものに成り得るからだ。
人の物を取るのはよくないことだろう。
――ごめん。でも私、寂しがり屋だから。
まぁ、きっと冬香は赦してくれるだろう。
横には冬香の絵が置いてあった。
私からすれば十分上手だが、以前に比べれば少し形が歪なように感じた。
よく見ると小さく人が三人描かれている。背丈や髪型からすれば春、夏希、私か。
――きっと精神状態が良くないと、いつもは出来ていたことも出来なくなる。
と、考えるとやはり彼女には絵の才能があるな、と思う。
前から彼女の絵は見ていて飽きないと思っていた。自分も絵を描き始める前から。まぁ、本人には言えるわけがないんだけど。
春、夏希の例からして何か遺書を遺している可能性もあるか……と私は冬香の鞄を漁った。なんだか申し訳ない気分になった。
いろいろと手探りで探してみると、やはり封筒に入った手紙が一通、鞄の中から出てきた。
なんだかんだ長いこと一緒にいたからな。
私が分からないことは、何がきっかけで彼女がこの選択肢を選んだのか。
もちろん、徐々に精神が削られてしまい、限界を迎えた可能性も大いにある。寧ろそれが大きな理由だろう。
だけど、この決断をするきっかけが何かしらあるはずだ。
この手紙を冬香が遺した以上、きっと私は知らないといけない。
そう思い、手紙の封を開けた。
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