間章 Night comes before evening

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 私は美術室へと足を進めていた。歩きながら私は考える。

『自殺は狂気か否か』

 これは以前、春と夏希が問うた問題だ。私は最初にその言葉を聞いた時は『何を聞いているのだろう』と思っていた。

 でも、たくさんの死を見て、話を聞いて、案外自殺とは身近なものなのではないか、と思うようになった。

 夏希のお兄さんの言っていたことに従うと、自殺というものは環境によって生まれる――そう言うこともできるだろう。

 人間関係、社会的関係、それらを含む個人を囲む『環境』から人は自殺する。

 つまり――環境が悪ければどんな人だって自ら死を選んでしまう可能性があるかもしれない、ということ

 もちろん、それが合っているかは分からない。

 だが、それが私の出した答えだった。

 昔は、自殺なんてずっとずっと遠いものだと信じて疑わなかった。

 自殺はすぐ傍にあったんだ。

 私は学者でもないし、特にそういったことに詳しいわけじゃない。

 だからこれは一種の信念だ。そう結論出したからには、誰に何と言われようと変える気はない。

 しかし、これも一意見だ。誰かがこのことを否定したとしてもいい。私はこの結論を誰かに押し付けるつもりもない。

 最近は絵を描くのが前よりも楽しく感じる。絵を描くことによって、自分を表現できている気がする。

 化け物部に入った時、まず初めは昔仲の良かった友達と再会したことに驚いた。しかし、化け物部としての日々は私にとって楽しいとは言えなかった。

 他愛もない話をするが、それは結局傷の舐め合いでしかない。その後にしていた計画も死を求める話ばかりで、昔のように純粋な楽しさはどこにもなかった。

 だけれど今は、みんなと再会できて良かったと思う。

 みんなと再会していなければ、こんな風に真剣に死に向き合うことも――自らの答えを出し、信念を抱くこともなかっただろう。

 私は手で勢いよく美術室のドアを開けた。

「え」

 いつも先にいるはずの彼女の足は、地についていなかった。



「……冬香?」



 私――秋穂の視界に入っていたのは、間違いなく冬香だった。

 彼女の身体はかろうじて縄で繋がれている。

 しかし、私の感情が状況を理解することを拒んでいる。

 黒いショートカットに特徴的なひし形のピアス。

 恐怖心から浮いた顔は見ることはできないが、誰がどう見ても冬香だろう。

 ――どうして。

 それ以外の言葉は見つからなかった。

 彼女は本来、私たちの中で最も死から遠い存在のはずだった。

 いや、違う。私は冬香の様子がおかしくなっていることには気づいていた。

 春がいなくなった辺りから、彼女はきっと精神的苦痛を感じるようになり、更にこの一週間ほどは特に様子がおかしかった。

 春と夏希がいなくなったのも一つの原因だろう。

『自殺は狂気か否か』

 実はあの時、私もあの会話を聞いていた。春の時も、夏希の時も。

 ドアという一枚の板を通して。

 私にはあそこへ顔を出す勇気はなかった。それで黙って盗み聞きをしていた。

 そして私自身、一人でその答えについて考えていた。そして生まれたのが先ほどの答えだ。

 私はその答えでわずかな希望を持てた。私たちは化け物ではない。そう思うと少し気が楽になっていた。

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