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 家に帰り、冬香は疲れてそのままベッドに寝転がった。

 ――なんか、話していて疲れる人だったな。

 湊には悪いが、彼は少々不思議な雰囲気を持つ人だと感じた。冬香には分からなかったが、秋穂の台詞からすると、湊もまた、自身を演じていたのだろう。

 自分自身を演じる、ということに何のメリットがあるのか、冬香は理解できなかった。

 しかし、きっとあの二人は『周りに迷惑をかけないように』という気持ちがあるのかもしれない。

 演じることで、普段と変わらぬ自分を見せて周りを安心させようとしていたのかもしれない。

 冬香は感心した。冬香には二人のように演じられる自信がなかったから。

『辛くても生きろ、というのは、その人を拷問しているようなものだ』

 湊はそう言っていた。

 実際冬香も、止めることが正義と言えるのか分からない状態だった。だが、その言葉を聞いて、冬香は止める意志を失った。

 ――余計なことをするのはやめよう。

 同時に冬香は「なら、自分はどうするべきか」を考えた。

 疲労した身体でベッドに寝転がっていたせいで、気が付けば冬香は眠りについていた。



 そして時が経ち、十一月八日。

 本当であれば冬香以外の三人はもう死んでいた。――止めることを諦めた冬香も巻き添えになっていたかもしれない。

 今は放課後、冬香は部活へ行こうとしていたところだ。

 インターネット上ではその話題で盛り上がっていたが、未だ信じ込んでいる者、嘲笑している者、興味がない者それぞれといった様子だ。

 中には信じ込みすぎたあまり、海外脱出まで検討している人がいる。

 滅びるのは世界なのだから、国外で出ても変わらないだろう、と冬香は思ったが、その人にはもうそんな言葉が届かないらしい。

 春も夏希もいない今、予言の話なんてほとんどしてない。秋穂も元から信じていないようだったし、あれは本来、化け物部が集まるための理由づけに過ぎなかった。

 冬香はあれから、世界のことについていろいろと調べることにした。

 湊と同じようにまずは『状況を知る』ことがとても大切だと思ったからだ。

 秋穂とは学校でたまに話す程度だったが、美術部としての活動を主に二人でやるようになった。

 当初の計画のことは、もはやなかったも同然となった。

 冬香としては、それで少しでも秋穂が自ら死ぬ可能性が減るのであれば、それでよかった。

 なんだかんだ、秋穂とは以前よりも仲良くなれた気がする。

 でも、春と夏希に会えないのは寂しい。

 携帯から着信音が鳴った。

「夏希から?」

 その送り主は夏希だった。時期は夏希がいなくなる少し前。時間指定をして送信したのだろう。

 ――これは秋穂に伝えないとなぁ。

 そこに書かれていたのは、ほんの些細な事。だが、冬香たち四人にとっては国家機密情報並に大切なことだった。

 きっと秋穂も美術室に来るだろうし、伝えることはできるはずだ。

 美術室へ行く準備をしながら携帯を見ていると、一通の留守番電話が来ていることにも気が付いた。

『寂しいよ』

 ――これは、秋穂の声? ……その声は間違いなく秋穂の声だった。

 不自然な留守番電話に冬香は少し恐怖を覚える。

 まぁ、いいか。きっといつか、このことについても聞けるだろうし。

 そう思って冬香は美術室へと向かった。

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