2-2

 なにやら慎重な面持ちだった。

 そしてまた、二人しかいない会議室は広く感じた。

 大丈夫だよ。と冬香は首を横に振るが、内心では大丈夫ではないと思っている。

「冬香に、一つ聞いてみたいことがあって」

 春はまっすぐ冬香の目を見つめた。

 わざわざ冬香のみを呼び出して聞くということは、冬香にだけ聞きたい理由があるはずだ。

「それは私が、自殺願望者じゃないから?」

「そう、冬香が自殺願望者じゃないから」

 と、春は頷く。

 春の声は非常に淡々としていた。まるで用意された台詞をそのまま暗唱しているかのようだった。

「冬香は、自殺狂はいると思う?」

 自殺狂? と冬香は首を傾げた。

「自殺狂、または偏執狂――ある一点を除いて正常な精神錯乱のことを偏執狂と呼ぶの。一つのことに異常な執着を見せている場合とかね。自殺は偏執狂として精神錯乱に加えられることもある。でも、本当に偏執狂は存在するのか? もっと端的に言うと



――自殺は狂気か否か」



 なぜそれを冬香に聞くのか――いや、冬香にしかこれは聞けないことなのかもしれない。この質問は『自殺願望を持っていない人にとって自殺とはどういうものか』を問うている。

「自殺は精神的におかしい人がするものなのか……ならば自殺願望者は『化け物』ね」

 春の言葉を聞いて、冬香は化け物部を思い出した。もしかすると、そういう由来なのかもしれない。この名前は春が考えたものではなさそうだが。

 ――これはなんて答えるのが正解?

 冬香は悩む。これは「そうだよ」と答えたほうがいいのか、それとも「そんなことないよ」と答えたほうがいいのか……。

「自殺は狂気――とまではいかなくても、一種の異常さはあると思う。でも、後戻りできないわけじゃない。生まれ持って異常だったんじゃないと思うし」

「そっか。それが冬香から見た自殺願望者――ありがとう。わたしたちが世間からどう見られてるのか、ちょっと気になってね。でも、冬香は優しいね。こんなところ、いるだけでも辛いし、しんどいでしょう?」

「いやいや、私もみんなとまた話せるのは嬉しいよ」

 ――まぁ、しんどいのは否定できないけど。

 それをはっきり言うのは不味いと思い、ぐっと言葉を飲み込んだ。

「お疲れ」

 そう言いながら秋穂は足で扉を開けて入って来た。しかし冬香の方は見向きもしない。きっと今の言葉も春に向けた言葉なのだろう。そのまま秋穂は椅子に腰をかける。

 秋穂は怒っているのか? 冬香はそう考えたこともあったが、恐らく秋穂は怒ってなどいない。元々、秋穂はクールな性格だし、前よりか少し避けられているだけだろう。しかし、信頼はされていない。今冬香が言う言葉は秋穂には何一つ刺さらない。

「やっほー。――えぇ、何か静かだね」

 春と秋穂と冬香で、少々気まずい雰囲気だったのが夏希が来てくれたおかげで少し和らいだ。

 そして今日も会議が始まる。

「それで、今日学校でさ――」

「最近の――が」

「課題が終わらなくて」

「今日は早めに帰らないといけなくて―――」

 また今日も、最初は他愛もない話から始まる。

 どうしていつも最初にするのだろう、と思い、前に夏希に「どうしていつも最初に普通の話するのか」と聞くと、

「ほら、前に春を言ってたけど、慰め合ってる的な? それも違うか。別に楽しんでるとかじゃないんだけど、学校ではある程度普通を装ってるから、それの延長線上だと思うよ。普通といっても、あたしたち以外の関係はみんなあんまり持たないね。あたしもそうだけど、なんか同志じゃない人と話してると疲れちゃうし。あ、なんで最初にしてるかって? 最初に重い話したら、後から軽い話しづらいじゃん」と言われた。

 確かに、言われてみると秋穂も学校で他の人と話していることが減っていっているように感じた。

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