第二章 Shi is the treitor
2-1
六月十一日。
冬香は今日もまた、絵を描いていた。
あれから、冬香は秋穂と学校で話すことはなくなった。理由はもちろん、この間のことで若干ギクシャクしているからだ。明らかに秋穂は化け物部において冬香のことをよく思っていない。
しかし元々別のグループであるし、特別話していたわけではなかったため、周りから違和感を持たれることはなかった。
あれから何回か、四人で集まる機会があった。なんか今のところ、練炭を使う予定になっているそうだ。
練炭を選んだ理由はみんなで一斉に死ぬし、生存率も低い。夏希によると、誰にも迷惑をかけずにひっそりと死ねるらしい。
もちろん欠点もある、万が一生存した時のリスク、それに彼女ら曰く――とても苦しいだろう、とのこと。
確かにその方法だと即死は絶望的だ。だが、そのことは冬香にとっては希望だった。
できる限り即死を望んでいる――ということは、裏を返せば苦しんで死ぬのは嫌だ、ということだ。
それに夏希は人に迷惑をかけずに死にたいと言っていた。
秋穂は「自殺願望者は自分のことしか考えられない」と言っていたが、夏希はまだ他人に目を向けられている。ならば、まずは夏希から少しでも元気づけられたらいいなと思っていた。
冬香が現状で一番よく分かっていないのが夏希のことだった。
夏希は所謂『元気っ子』であり、そんなことを考えている素振りは全く見れなかった。もちろんそういった会話にも参加しているのだが……。
秋穂は既に化け物部へ入った理由が分かっており、春も厳しい環境で育ってきたためなんとなく分かる。しかし、夏希だけは何も想像できないのだ。
夏希は冬香と違って今もスイミングで優秀な成績をおさめ続けている。スランプ……ということも考えにくいだろう。
そのため夏希は一番接触しやすい人物なのだが、今後一番よく見てみないといけない人物だ。
あれから絵もなんとなく上手く描けない気がする。きっと迷いが生まれているのだ。普通とはまた違った関係性の人ができて、芸術に影響があるのは当たり前だ。
学校でも友達によく「寝てる?」「疲れてる?」と聞かれるようになった。
その度に冬香は「大丈夫だよ」と愛想笑いを浮かべていた。
まだ、周りの友達が離れていかないだけありがたい話だろう。元から放課後に誰かと過ごす、なんてことはなかったため、放課後の行動を怪しまれることはなかった。
ちなみに今日もまた、化け物部のみんなで集まる約束をしている。
小学生の時は、みんなと遊べるとワクワクしていたのに、今の冬香の気持ちは少し――かなりブルーだ。
春が前に言っていた通り、集まっても他愛のない会話がおおよそ七割から八割を占めている。
この前なんて夏希が、
「部屋を掃除してたら、お兄ちゃんの部屋からこれが出てきたんだよね。みんなでやろー」
なんて夏希はかの有名なカードゲームを鞄から取り出しながら言った。
結局、その後みんなでカードゲームをした。カードゲームの結果は秋穂が優勝して終わった。
だからこそ少し不気味さを感じる。慰めあいと言っても、普通、カードゲームなんてやりだすものなのか……?
冬香はもはや、友達とするであろう普通の遊びにすら狂気を感じていた。純粋に楽しんでいるようには見えない。何か裏がある雰囲気が消えなかった。
だが冬香はそれ以上にみんなを止めないと、という使命感に駆られていた。
みんなが秋穂みたいな考えを持っているのであれば――死ぬのが怖いという気持ちを持っているということだ。きっとどこかに隙がある。その隙をなんとか突いて見せたい。
そういった遊戯や他愛もない話が終わると、今度は『死』にまつわる話が始まる。 主にいつ、どこで、どうやって命を絶つか計画する。
それもまた、予言がどうたらこうたら、と不確実な事象を元に話す。
この前秋穂と話したように、予言はあくまでも表向きの理由でしかないらしいが、それでもそんな不安定な物を中心に死について話すのは不思議に感じた。
あんな生活を続けていたら、頭がおかしくなりそうだ。と冬香は自分自身が心配になる。
――もちろん、昔はそんな感じではなかった。いつも夏希辺りがみんなを誘ってくれて、学校の校庭にある鉄棒にぶら下がって遊んでいただけだったのに……。
そんなことを考えていると、冬香の携帯から通知音が鳴った。……春からだ。
冬香は小学生だった当時から携帯電話を所持していたが、春はなんと高校生になってから携帯電話デビューしたらしい。春の家は非常に厳しい家庭だったから。
そのため、春とは最近連絡先を交換したばかりだった。
春が冬香に連絡してくることは珍しいことではなかった。秋穂はこの通り話しにくい状態になってしまっているが、春と夏希とは今まで通りの会話もできている。
『今日、少し早めにこれる?』
と、春から。
冬香はその場に足を留めた。
放課後。言われるがままに冬香は少し早めに化け物部の部屋に来た。絵が描けなくなってしまったが……断るのも怖かった。相手は死に直面している人だから。
窓から差し込む赤い光がまぶしい。時間としては夜が短くなっていっているはずなのに、なぜだか、だんだん夜が早く長くなっていっているように感じた。
タイムリミットがある中で、冬香にも『焦り』が生まれているのだろうか。
「ごめんなさい。変に呼び出しちゃって」
春はそう言いながら重そうな鞄と補助鞄を床に置いて軽く頭を下げる。春が立ったままなので、座り辛くなってしまい冬香も座らずに話を聞くことにした。
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