7 紺碧(こんぺき)の青年
「マーク、さっきは助かった。ありがとう。正直、終わってたかもしれねぇからな」
長い前髪を乱暴にかき上げながら、照れ隠しのように笑った。その目には、素直な感謝の色が浮かんでいた。マークはその言葉に、冗談すら挟まず真っ直ぐ答える。
「当然だろ。あの場面で見捨てられるわけがない……けど、デュークのお陰で僕も
すると、デュークは
「だろ? なんだお前、案外いいやつじゃねぇか――」
と、デュークが照れくさそう頭を
(『あの感覚を忘れないうちに、もう一回攻撃受けてくれると再現できるのに』と思ってるぞ)
言葉の最後まで聞き取らないうちに、デュークはマークの首元を掴んで引き寄せる。
「なんだと!? あの程度の剣技で調子に乗るんじゃねぇぞ、どこのどいつに仕込んでもらったか知らねぇが」
「ち、ちよっと待って! ほんの1ミリくらいしか思ってない! ルシファー、いい加減にしてくれよ。普段は肝心な時に出てこないくせに、なんで余計なことばっか相手に伝えるんだよ!」
(…………)
「ああ、クソ気味悪い! どうやったら僕らから出てってくれるんだよ。てか、この星から出て行く気はあるのかよ?」
マークの声は、怒りと苛立ちを含んでいた。
だが――その一番聞きたかった問いに回答は得られず、頭の中が静まり返っていた。
我慢の限界が来た。マークは空に向かって怒りを吐き出す。
「何だよお前ら、また都合の悪い時だけ無視かよ……!」
「ケッ! 言いたくねぇことにはお口チャックってか、偉そうに。テメェらの意志かなんか知るかよ。俺たちの体を勝手に……」
と、デュークは吐き捨てた後、腕を組み、口には出さずに怒りを唱えた。
(さっき、俺が氷のブレスを喰らってたらイグニスの野郎も消し炭だったろうな……むしろそうなってくれりゃよかったか)
だが――その思念には、何かを感じたのか、すぐさまイグニスが反応した。
(お前にはまだ示していないが、我は
それは、ぞっとするほど冷たい声だった。マークの脳裏にも同時に響き、二人は同時にゴクリ、生唾を飲んだ。
そして暫く沈黙が続いた直後――二人の
「……ところで、あんたら二人共、一体誰と
その後、マークとデュークは街へ戻り、報酬として新たな衣服と武器を受け取る。
◇
丁度その頃、森の中で「
(
彼はベロクロスの鋼鉄の腕を拾い上げ、少し観察したのち、無造作に放り捨てる。
(
「……ま、い――んじゃない?」
そして
「よっ! お帰り。やられてんじゃん」
(私の体の、ほんの一部を使って
「けど、ハデなナリして森で暴れた甲斐があったじゃないか。情報は手に入ったんだろ?……あんたのお目当てのヤツ」
青年は人差し指をギリっと噛んだ。しゃがんで草むらに手を伸ばし、薄っすらと血の滲む指を黒い水につける。
(派手はお互いさまです。ああ、目的ですね……間違いありません、あれはルシファーですよ)
「何、そいつ強いの?」
(強いというより――)
黒い水は何を言おうとしたのか。その後は青年の人差し指の傷から
◇
これから、マークとデュークの二人はアルバータ王都を目指すこととなった。
マークは、本部駐屯所にいる近衛隊のエルバート隊長へ二人の無実の訴えと、これまでの異変を報告をするため。一方、デュークの目的はその隊長に会い、「真実」を問いただすためだった。
――デュークは
もしそれが事実なら、マークは黙って見過ごすわけにはいかなかった。デュークはすでに仲間だ。彼が自分をどう見ていようとも。
仲間として、友として。彼をひとりにはしない――そう決めていた。
王都は、この街の中心地から何キロも遠くにある。だが、今のマークの呼び掛けに対し、
仕方なく徒歩を
――夕暮れの街の中心地を通り、堂々と歩き去っていくマークとデューク。
その背を、噴水の縁に腰掛け、新聞の隙間からじっと見つめる淡いブルーの冷たい目があった。
(さて……あの二人の向かう先は近衛隊本部で間違いないでしょう……面倒なことになる前に、先回りしますよ――)
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