9 敵襲
マークがルッソに剣を基礎から叩き直されて、約半年。ヴォルフスヴァルトの森にも、冬が訪れていた。
日々の訓練はマークに「自信」を芽生えさせていたが、それはやがて「勘違い」という形で花開こうとしていた。半年にわたる修練は、ルッソという剣の達人の
晴れた空の下、森を鳥が鳴きながら横切っていく。風向きが変わりはじめ、冬の冷たさが空気に混ざる。陽が落ちるのも早くなっていた。
ナツの母レイラによると、ナツは矢筒を背に東の方へ
マークは茂みの中を進みながら、周囲の気配に意識を集中させる。
(ナツのやつ、僕にはあれ程、東の方はやめとけっつって言ってたくせにな……ここら辺、プロクサス兵がたまにうろうろしてるっていうし。ったくどこまで行ったんだよ)
そのときだ。女の子の声が右前方の茂みの奥から聞こえた。
「知らないって言ってんでしょ!」
――ナツだ!
声の方へ歩み寄った。茂みを
(やっぱり……プロクサスの
黒いフードに、鼻から下半分を
(これならいけるか……?)
相手の人数を数えながら既にマークは茂みから飛び出していた。
「誰だ!? なんだ、もう一人ガキが来やがったか!」
マークはゆっくりと剣を抜いて両手持ちにすると正面で横向きに構え、腰を落とす。
「子ども……いや、妙な構えだ。少しはできるのか? まあ、暇つぶしにはちょうどいい」
男の中でも
「痛い目を見る前に、その子を放せ!」
「お前も
「よく言われるよ。それよりナツを放せ!」
「
マークは敵の言葉には耳を貸さず、グリップを握る手に力を入れた。
(またルッソ爺に叱られるな、でもこの人数なら先週習ったあの技が使える!)
手首を動かそうとした時だ。ルッソの言葉が浮かんだ。
――すぐに剣を振るおうとしてはいかん。強い敵ほど、まず〝心″を読もうとしてくる。その前にこっちが相手を読むんじゃ――
一人の兵が前に出る。マークは息を飲んだ。
(……相手を読む? 分かんねぇよ)
だが、身体は動いた。剣を構えた敵の一撃を
「チッ、子どもと
その隙に男はナツを放したが、二人はすぐさま囲まれた。四方から迫る黒衣の兵たち。マークは再びルッソの言葉を思い出す。
――風を味方として生きてきたお前なら、ワシの技は意外に
(だろ……? 相手の目はまだ読めない、けど風なら読める……!)
風を読む――その
風の向きを感じ、剣にその流れを乗せて旋回するように振るった……!
「《
風が
「マーク! すごい! いつの間にこんな技!」
ナツが初めて見るマークの風の剣技に目を丸くした。
「その動き、聞いたことがあるぞ、風を
マークは驚きに目を見開く。まさか、ルッソが……?
「お前こそ、何者だ!」
「どうせお前はここで死ぬんだ、教えてやろう。俺の名は『
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