その16:せっかく転生させるというのにこいつといったら(前編)

「どうして……こうなった………」

 

 …………


「さあ、目覚めるのです。新しい世界への扉が待っています。あなたは不幸にしてお亡くなりになりましたが、今からあなたの望む世界に転生させて差上げましょう」

「はいっ?」

 眼が覚めたら、目の前に女神様が立っていた。いやそう名乗られた訳ではないが、見た目からしてそうなんだろーなーとは思う。それはそれは美しくて神々しいく、おっぱいもお尻も大きい。それにしても、ここは一体どこなんだ? それで転生って……もしかして僕、死んじゃった!?


「うわぁーーーーーーーーーーーー!?」

 驚いて大声を張り上げたのだが、それが目の前の女神様とハモッた。


「あああ、あなた。いったいどこから? ここは、生前、不運にもこころざしを遂げる事が出来なかった魂を救済する為の転生所です! 今回の転生予定者はエルフのメイファーと言う少女で、貴方ではありませんよ!!」

 僕の眼の前の、女神様と思われる女性が、うろたえながら大声でしゃべっている。

 いやー。そう言う意味では、確かに僕も志は遂げられてはいないけど、いやいや、死んじゃうのは予定外でしょ。でもそうか……メイファーちゃんのせいで、身体が入れ替わったままご臨終しちゃったのか? うーん。これは困ったぞ。どうしたものか……無言のまま、そうした思案を繰り広げている僕に、女神様がじれだした様だ。


「こらー、あなた。なんとかおっしゃいなさい! 私の質問に、速やかに答えて下さい!! さもなくば、このまま地獄に突き落としますよ!」

「いやいや、それはご勘弁を。とりあえず、落ち着きませんか? 僕だって、こんな所に来ちゃったのは予定外なんです! あなたも見た目、神様っぽいんですから、そんなに慌てふためかないで、広い心で僕の話を聞いてくれませんかね?」

「こんな所って……ふう、分かりました。確かに、これは何らかのアクシデントですよね。私も女神の端くれ。落ち着いて対処する事にいたしましょう」

 ああ、よかった。とりあえず落ち着いてくれた様だ。


「僕は、かの有名な、転移Sクラス人間冒険者兄妹のお兄ちゃんです。それで女神様。あなたのお名前は? 何とお呼びすればよろしいでしょうか」

「転移? 人間? それって……ま、いっか。私は、モニア。ここの転生担当神の一柱です」

「あー、やっぱり神様なんですね。そうじゃないかと思いました。それじゃ、何でこういう事になっているのか……僕の考えを述べますね」

 そして僕は、一週間前からの出来事をモニア様に説明しだした。


 ◇◇◇


「なるほど。状況は理解致しました。それにしても、そんな瀕死の人と入れ替わりの秘術を行うとか……あなたアホですか? お陰でこちらの予定が台無しです!」

「アホ? 何もそんな言い方しなくても……それでなくても僕ナイーブなんですから、もっと言葉に気を付けて下さい! いくら神様とはいえパワハラで訴えますよ! 仮にも僕はS級冒険者です。クライアントの依頼には命がけで答えるんです!!」


「あ、ああ。ごめんなさい。それでお兄さん。あなたこれからどうするの?」

「いやいや、モニア様。それ僕が聞きたいです。そもそも僕は死ぬ予定じゃなかった人間なのですから、元の世界に返していただけますよね?」

「それは無理! だってあなたは、身代わりとはいえ正式に死亡してここに来ていますから、おとなしく私に転生させられるしかありませんよ」

「それはいくら何でもひどい! しかも本人確認もなしに引っ張って来て、自分に責任が無いなんてよく言えたものですね!? 病院が患者取り違えて手術したりしたら大問題ですよね? 転生っていうのはそれでOKなんですか? モニア様、自分の失敗を隠蔽しようとして、僕を丸め込もうとしていませんか?」


「ああ、そんな矢継ぎ早にいろいろ言われても……あなた。とんでもないクレーマーね。貴方にだって全く非がない訳じゃないでしょ! まあ、たまにいるんだけど……そういう奴」モニアさんが半べそかいた様な顔になっている。まあ、確かに僕の方にも落ち度がない訳でもないし、ここは少し歩み寄って、どうするかモニア様と一緒に考えよう。


「それじゃ、モニア様。今までのいきさつは一旦置いておいて、これからどうするか相談しましょう。僕は本当に転生するしかないんですか?」

「私に出来るのは君の転生の斡旋だけよ。元の世界に生還させるなんてやった事ないし……」

「例えば、僕を元の世界の僕の体に転生させるとかは?」

「中に他の人がいたら無理よ。死んじゃってればワンチャンあるかもだけど……」


 そうか。今頃、メイファーちゃんはどんな気持ちで僕の中にいるんだろう。多分もう、ヨリたちが思い出をたくさん作ってくれてるはずだから、もう満足して替わってくれないかな。でも、やだって言われたら……そしたら、ヨリに頼んで、僕に入ってるメイファーちゃんを殺してもらう? いやー。そんな事ヨリに頼めないよな。

 それに、僕の体に入って歩きだしたメイファーちゃん。とっても嬉しそうだったよな……


「あのモニア様。それじゃ、まだ仮の話ですけど。僕がこのまま転生を希望したら、叶えてくれますか?」

「えっ、いいの? それはそれで助かるけど……」

「だから、仮ですって。ですが条件によっては僕も考えない訳ではありません」

「わかったわ。仮という事で希望を聞いてあげる。言ってごらんなさい」


「僕の希望は、まだバージンのヨリとエッチする事です!!」

「!? ち、ちょっと待った。あの……ヨリさんって、あなたの妹よね?」

「あれ? 僕、ヨリの事、モニア様にお話しましたっけ?」

「ああ、一応、私、神様だから、あなたの家族相関図位は思い浮かぶのよ。で、なんですって? あなた実の妹と関係したいの?」

 モニア様が露骨に気持ち悪そうな顔をした。


「いえ、肉体関係はすでに……ですが、初めてあいつとヤッた時、すでにあいつはバージンじゃなかったんですよ。それが唯一の心残りと言いますか、それ以降もバージンはおろか、他の女性とは一回もヤレていないといいますか……僕の志はそこで頓挫しているので、転生出来るなら、是非そこをやり直したいと思うんです」


 こいつ……とんだ鬼畜じゃね? モニア様はドン引きした。


「あ、あのねお兄さん。実の兄妹はエッチしちゃだめなのよ」

「何でですか?」

「何でって、神様がダメって言ってるからダメなの!」

「ちぇっ。神様つまんない。あの黒服サングラスのおじさんに、せっかく異世界転移させてもらって、元の世界のしがらみやルールなんか気にしないで生きていたのに……」

「その、黒服サングラスって……転移部門の?」

「さあ。なんか街の人達は、商会さんって呼んでましたけど」

「!! ああ、やっぱり……私、もしかしてトンでもない奴の相手をしていない?」

 どうやらモニア様は、商会さんを知っている様だ。動揺がハンパない。

 もしかして、もっと揺さぶりかけたら、譲歩をいろいろ引き出せるんじゃないか?

 僕はそう考えて、さらに強気に出る事にした。


 ⇒後編へGo!

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