その15:Dead Or Arive(前編)

「どうして……こうなった………」

 

「お兄ちゃん。嫌だよ。私を置いて行かないでよ! うそでしょ? こら! 寝たふりすんな!! 起きてよお兄ちゃん!」

 ヨリさんがボロボロ大粒の涙を流しながら泣き叫んでいる。リーマ姫もものすごく辛そうな顔をして、横たわるその身体にしがみついている。私、ノアナは……こんな事になるなら、ちゃんとお兄ちゃんとエッチしてあげればよかったかと今更ながら後悔している。


 でも……間違いない。さっきサラドラ先生が、脈を取り、瞳孔を確認し、時計を見て宣言したのだ。

「22:45 ご臨終だ……」と。


 ◇◇◇


 僕は先日、ノアナさんに関係を迫って嫌われて、彼女とは結構ギクシャクした期間が続いたのだが、あの後お兄ちゃんハーレムをあきらめる宣言をした事もあり、徐々に前の様に話してくれる様になって来た。カミーユさんともあれから絡んではいない。やっぱり、ハーレムとかは僕には荷がち過ぎるものだったのだろう。そう思うと、心も軽くなった様に思える。


 その日、僕らは四人そろってギルドにクエストを探しに行った。まだパーティー名は決まっていないが、S級冒険者兄妹と呼ばれる事が多くそれで困らないので、それでもいいかと思っている。そして、ギルドにはサラドラ先生がいた。


「あれ、先生。また何かクエストですか? でも、この間の命綱無しバンジージャンプ見たいなのは勘弁して下さいね」僕がそう軽口を叩くと、この前はすまなかったなと先生が頭を下げた。

「今日は、何か素人でも簡単に体験させてあげられる様なクエストとかはないかと思って来て見たんだが……やはり無理な様だ」

「はあ、どなたか冒険者志望の方でも? でもそれなら当初のリーマ姫みたいに、上位の冒険者にくっついていって、難易度の低いクエストに参加する見たいな事も出来ますよ」

「そうか……その手があったな。だが……やはりむずかしいかな」

「でも先生。私達がついてれば、スライムはもちろん、オーク・ゴブリンクラスの討伐でも安心・安全に体験出来ますよ?」ヨリがそう言った。

「いやな……そのものは、歩けないんだ……」

「えっ?」僕ら四人は、驚きの声をあげた。

「さすがにそれだと……車いすとかでついて来る感じですか?」リーマ姫が問う。

「うむ。それでも外出はむずかしいかもな……だが、何とか叶えてやりたいんだ。あの子はもう後がない……」


 僕らは先生と一緒にギルドを出て、近くの飯屋で詳しい話を聞いた。


「それじゃ、そのメイファーちゃんって女の子は、病気で余命いくばくもないと?」

「ああ。私が昔から懇意にしているエルフの貴族のお嬢さんなのだが、小学校に入ったあたりで難病が発症し、今の我々には、苦しみを緩和する以外の治療法がないんだ。だから親御さんも、出来るだけ彼女の希望を叶えて上げたいと言っている」

「その希望が、冒険クエストに参加したいという事なのですね?」ノアナさんがそう言った。

「ああ。発病してからずっとベッド生活で、唯一の友達が本だったと言っても過言ではないんだが、そうした冒険話が大好きでな。病気が治ったら冒険者になるんだって……」そこまで話して、サラドラ先生も言葉に詰まった様だ。


「先生! その子が冒険に行けるかはわからないけど、私がお友達になるわ!」

「はは、リーマ姫。そうだな。それがいいかもな」僕もちょっと貰い泣きしている。

「でも、車いすでも外出がむずかしいとなると……ねえ、先生。あれはどうかしら?」突然、ヨリがサラドラ先生に話を振った。

「あれとは?」

「ほら。先生が私に処方を教えてくれた……」

「入れ替わり薬か!? だが……大丈夫なのか?」サラドラ先生も半信半疑だ。

「やだな。先生に疑問視されちゃったら怖いけど……検討してみる価値はないかな?」

「そうか……だが、考えてみよう」

 

 ◇◇◇

 

 数日後、サラドラ先生から呼び出され、みんなで先生の診療所に行った。

 この間のメイファーちゃんの件だ。


「先日のヨリの提案だが、いくつかリスクもあるが可能だと判断した」

「わー、そりゃよかったわ。それじゃ具体的な作戦考えなきゃ」

 ヨリがはしゃいでいる。

「まあ、慌てるな。まずリスクから説明するぞ。本来なら、背格好からしてもリーマ姫あたりと入れ替わるのが一番本人の自由度が高くなるのだが、如何せん、入れ替わりでメイファーの身体に入った者の肉体的、精神的負担が半端ない。出来るだけ頑丈なものでないと、途中で気力負けして、一気に寿命が終わる可能性がある」

「ふひゃー。そうなったら中の人はどうなるんですか?」ヨリが尋ねた。

「もちろんジ・エンドだ。だが薬が切れても、戻るペアが不在の場合、そのままになる事が確認されている。だからメイファーは、その者の身体で長らえる事が出来る」

「それ、危険すぎません?」ノアナさんが不安げに言ったが、ヨリが制した。

「お兄ちゃんなら大丈夫じゃない? チートで、頑丈さだけは折り紙付きだし……」

 だけって何さと僕が食ってかかったが、サラドラ先生も、お兄さんが一番適任だと言った。


「いや、ちょっとまってよ。それ、死んじゃう可能性0%じゃないよね? それで、メイファーちゃんが生き残るって……変な言い方だけど、親御さんとかなら喜んで替わってくれないかな?」

「いや。一般人では親であっても、そもそも病と薬の負荷に耐えられるかどうか……」その言葉に、ヨリとノアナさんとリーマ姫が、じーっと僕の顔を見つめる。

「ふう。わかったよ。でも一度本人やご両親にも会って、了解も取らないと」僕がそう言ったので、その場の一同がそれで行こうとなった。

 

 そしてそのまま、サラドラ先生に案内されて、町からちょっと離れたメイファーちゃんの家に赴いた。いやー、ここもハンブル先生んちに負けず劣らず豪邸だな。

 いやいや、今回は報酬目当てじゃないぞ! 難病の薄幸少女の為の人助けだ!


 僕らをご両親に紹介したサラドラ先生は、そのまま上の階に僕らを案内した。

「メイファー、入るよ。調子はどうかな?」

「ああ、先生。今日はちょっと楽です。気温が丁度いいせいかしら?」

「今日は、お客さんを連れて来たよ。今、ギルドでトップクラスに位置するパーティ―メンバーだよ」

「ええっ? うれしい!」


 僕ら四人は、順にメイファーちゃんに挨拶をした。どうやら首から下はもう自力では動かせない様だ。目線だけが僕らの顔を追っていた。

「ああ、転移人間冒険者兄妹さん。ご活躍はいつもギルドの週報で拝見しています!」

 はは、メイファーちゃん。リーマ姫よりまだ歳下に思える。まあエルフなので、実年齢は全然違うとは思うけど、すっごい美少女だ。病気のせいかは判らないけど、色白ではかなげで、こんな子がどうして……とは思わずにはいられない。

 もう、こんな姿を見ちゃったら、男としては手助けするしかないじゃないか!!


 あまり長い時間話をすると差し障りがあるとの事だったが、彼女は時間の許す限り、僕らの冒険たんを微笑みながら聞いてくれた。

 そして頃合いを見て、サラドラ先生が入れ替わりの秘薬の件を切り出した。


「えっ、先生。そんな事が出来るのですか?」メイファーちゃんも驚いている。

「ああ。一般人では難しいが、このS級チート冒険者のお兄さんなら耐えられる。だが、入れ替わりも一時いっときのものでしかないのだが、それでも外の世界が見たいなら、この人達が力を貸してくれるんだ」

「ああ……」そしてメイファーちゃんは、ご両親とも話し合ってみるという事だったので、その日は一旦その場を後にした。


 ⇒後編へGo!

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