その14:ジャンプ!(後編)
サラドラ先生にくっついて行った山の中には、小さなお堂があった。人は住んでいない様だが、それなりに綺麗に手入れされている。
「これは、成人式用の合宿所みたいなものだ。ペアの男女が成人式までここに籠り、寝食を供にする。そうすることでお互いを思いやり助け合う気持ちを醸成するのだ。そしてそれが補助魔法の効力に繋がる」
サラドラ先生のその説明に、ヨリが噛みつく。
「でも、先生。それじゃ、なにか間違いが起こったりしませんか?」
「なんだ、君はお兄ちゃんハーレムOKだったのではないか?」
「それはそうですけど……でも、私も一週間、そばで二人の面倒見るんですが、その目の前でイチャイチャされるのはちょっと腹が立つと言いますか……」
「ふむ。まあ、この合宿システムは、我が一族の強制お見合い的な側面も持っているからな。こうでもしないとエルフの人口が増えんのだよ」
「いやいや。それは今回のクエストとは、また別の話ですよね」
「それでは、こう致しましょう。お兄さんと私は、合宿中はエッチ厳禁。直接的な肉体関係を持たずにここに
「はあ。それだと私のお兄ちゃんに、まるでクリシュナさん自身がバージンを提供したいと言っている様に聞えるけど? 本当にいいの?」
ヨリが食い下がるが、僕は全くそれで構わないぞ!
「まあまあヨリ。いいじゃないか。多分、ここはみんなそういうしきたりなんだよ」僕がそう言ったら、サラドラ先生も、そういう事でいいよと言ってくれたので、ヨリも引っ込んだ。
そして、その日から特訓が続いた。僕がお堂の屋根から飛び降りるのだが、その落下速度が遅くなる様に、クリシュナさんが補助魔法を行使するのだ。
そして屋根から飛び降りる位は、僕には造作もない。補助なんかなくても、正直、自力で何とでもなる。それにしても、クリシュナさん。言うだけあって、本当に魔法苦手なんだな。これだけ繰り返し練習しているけど、ちっとも浮力を感じないや。
日中、その特訓を繰り返し、三度の食事の支度や洗濯はヨリがやってくれた。
夜は、裏の滝で行水したあと、僕はクリシュナさんと同じお布団で寝る。
しかし……手を出してはいけない。なぜなら、その隣にヨリも寝ているからだ。それでも、成人式が終わったら、ヨリ公認でクリシュナさんのバージンを貰えるのだ。それを思えば一週間の禁欲位はなんともないぞ。
そして一週間後、運命の成人式の日がやって来た。
◇◇◇
「どうだクリシュナ。少しは魔法使える様になったか?」サラドラ先生がクリシュナさんに問いかけるが、彼女は無言のまま下を向いた。
「ああ……それでは致し方なし。お兄さん。申し訳ないが死なない様、自力で何とかしてくれたまえ」
「はは、先生。僕にお任せ下さい!」
そう言い放って、成人式会場に来たのだが…‥‥
ちょっと待ってよ。あれ、お堂の屋根の高さじゃないよね?
ヨリもちょっと目を
「あー、クリシュナさんがバージン賭けるだけの事はあったわねー。こりゃお兄ちゃんも心してかからないと」
「えっ……あの……聞いてないんですけど……殺す気かぁーーーーーーー!!」
すでに、成人式の参加者が数名集まっており、順番に並んでいた。僕とクリシュナさんの順番は最後だ。将来の族長候補者という事もあって、エルフの森のお偉いさん方が見守るなかトリを務めるのだと聞いたのだが、ヨリが「お兄ちゃん。これ、失敗したら大惨事になるから、危ないペアほど後なんじゃね?」とぼそっとこぼした。
成人式がはじまり、まず最初のペアの男性が橋から飛び降り、真っ逆さまに谷底に落ちる。うわー、だめ。怖くて見てらんない!! だが、ちゃんとペアの女性がブレーキをかけ、ドボンと無事川面に着水し、回りから盛大な拍手を
そして一組、また一組と、無事に儀式を終えていく。そして……ついに僕の番だ。
クリシュナさんは、谷の下に設けられた祭壇で、魔法の準備をしているはずなのだが……橋の上に立つ僕の脇で、エルフのオジサンが、赤旗を下げ青旗を掲げた。飛び降りろの合図である。
ええい。こうなったら僕もS級冒険者だ。なんとしても切り抜けて、クリシュナさんのバージン貰ってやる!! そう意を決して、ポンと下に飛び降りた。
ううっわぁーーーーーーーーーー!! 自由落下恐るべし!
いやこれ、体の自由が利かないじゃん!! これはちょっとは速度を落としてもらわないと……クリシュナさん、ちょっとでいいからがんば……って、もう川面!!
ドーーーン。ものすごい水しぶきとともに、僕の体が川面に突き刺さった。
ぐはっ!! あまりの衝撃に、僕は意識を失った。
◇◇◇
「あー、気が付いた? お兄ちゃん大丈夫?」眼を開けたが目の前にヨリがいた。
「いやー、危なかったねー。あそこで私がちょっとインチキしなかったら、お兄ちゃんぺしゃんこだったよ」そうか。ヨリがこっそり助けてくれたのか。水面にぶつかって身体は滅茶苦茶痛いが、大きなダメージはなさそうだ。
「それで、儀式は? クリシュナさんは?」
「儀式は無事終了。クリシュナさんもお兄ちゃんも成人として認められました。でもね。お兄ちゃんがもう死んだーと思ったプレッシャーで、クリシュナさん失神して倒れちゃってね。さっき、幼なじみの同い歳の彼氏が彼女を抱えて医務室に連れて行ったよ」
「……何、その突然沸いた彼氏って……」
「いやすまない。どうやらクリシュナも切羽詰まっていて、私にも嘘をついていた様だ。その彼氏とはすでに将来を約束していた様で、クリシュナもすでに経験済らしい。だが彼を今回のペアに選んでしまうと、ほぼ間違いなく彼は死んでしまう……」
「はあ!? それで僕を、彼氏の身替わりに?」
「……すまん」サラドラ先生が、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「くっ、はははははははっ! お兄ちゃんもバージンに釣られて、なんか笑えるわー。でも、やっぱりこの世界油断ならないわよね。それでどうするお兄ちゃん。まだお兄ちゃんハーレム続ける?」
「ううん……僕はヨリがいればいいや……」
あんな華奢な女の子に、ここまで大胆に欺かれ、僕ももうどうでもよくなってきた。こんな思いするくらいなら、本当にヨリ一穴でいいかとさえ思った。
「それでお兄さん。話を蒸し返す様でなんだが、そんなにバージンが希望だったのか? 今回の報酬という訳ではないが、なんなら、私のでよければ、君にあげてもいいぞ」いきなりサラドラ先生がそう言った。
「えっ、先生。それマジっすか?」
「こら、お兄ちゃん。今さっき、私だけでいいって言ったばかりじゃん!」
そして僕は、次の瞬間、ヨリから電撃を食らった。
(終)
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