第21話 昇格条件

「うーん、ないですねぇ」

「ああ。制度についていろいろ書かれてるが、俺の謎出世について書かれてそうなのはないな」

「はい。保険制度、職員規則、ギルド内規定、個人情報取り扱いについて……昇格システムについている本にも、それらしいことはなかったですからね」


 かれこれ2時間ほどが経っていた。タイトルや目次、場合によっては内容を確認して探しているが、見つからない。職員が口を噤んでいたし、禁足事項か何かに当てはまるのだろうか。


「高々昇進にそこまでします?」

「しそうにないから戸惑ってるんだがな……ちなみに、さっきの本には本当に何もなかったんだよな?」

「もちろんです。ランク昇格には主に3つの方法がある。1つは実績。依頼をこなした件数や依頼の難易度によって相応のランクを付与する。2つは実力。各ダンジョンにおける適正階層のソロ攻略もしくは相当ランクの魔物を複数体単独撃破で相応のランクを付与する。3つは功績。冒険者活動及びそれ以外で確かな功績もしくはそれに値する承認があった場合相応のランクを付与する。以上3つの方法でランクは定められる。……って、ほら」


 ちゃんとやりましたよ! とニフェルは本のページを開いて見せてくる。その不満げな口調を聞くに、疑った俺に文句があるらしい。


「分かった分かった、ちゃんと確認してたらしい。分かったから本を……ん?」

「な、なんですか。わ、私見落としなんてしてないはずですよ⁉」

「あ、ああ、見落としはないんだが……3つは功績。冒険者活動及びそれ以外で確かな功績もしくはそれに値する承認があった場合相応のランクを付与する。ってことはつまり、誰かの口利きでランクが上がる可能性もあるってことだよな?」

「ふぇ? そ、そういうことなんですか? ちょ、ちょっと待ってください!」


 ニフェルは慌てた様子で本の向きを変え、目次を頼りにページをめくる。


「えっと216ページ3つは功績について……ここでいう功績とは実物を伴うもののみならず信用のある者による証言も適応される。……こ、これって!」

「……見つけたか」


 まあ、ニフェルは悪くないな。最初からすべての内容を見るのは無理だと思っていたから、概要で切っていいと言ったのは俺だし。


 ニフェルが黙々と内容を読み解くのを傍目に、俺は何となく事の真相を想像してみた。大まかには、十中八九正解だろう。ただ問題は、どうしてそうなったのか、だよな。いまいち理由は分からない。


「Aランク冒険者による証言は場合によっては他人のランク昇格に影響することがあるって書いてあります! つまり、オリヴィエさんがクロトさんを昇格させるよう言ったってことですよ! ギルドはそういうコネ昇格を隠したかったのかもしれません!」


 ほめてください! と言わんばかりの笑顔を浮かべるニフェルには悪いのだが……むしろ、書いてあるのなら隠す理由にはならないはずだ。そこには書いていない、何か後ろめたい他の理由があるからこそ、俺に伝えることは出来ない。

 けれど今ので選択肢が絞れたのは間違いない。ほめてほしそうにしてるし、適当に頭でも撫でておくとしよう。ちょうどいい高さだし。


「ふぇっ⁉ あ、あのっ、クロトさん?」


 しかし、誰かの口利きによる昇格は正規の方法だったのか……。となると、やはり昇格そのものではなく、昇格させた理由のほうに後ろめたさがあるのかもしれない。理由……それらしいものは思いつかないな。


「きゅ、きゅろとしゃんっ!」


 なんにしても、その理由のせいで俺に変な評判が付いて回るようになった。ろくな理由じゃなかったら許さないからな。


「いや、待てよ……?」

「クロトさん! いい加減手をどけてくだしゃい!」

「ん? ああ、悪い。思わず」


 耳元で叫ばれてみてみると、ニフェルが顔を真っ赤にして見上げてきていた。子ども扱いされたのが気に食わないのだろうか。

 考えている間撫で続けていたらしい。ちょうど高さだったのもあるが、無意識というのは怖い。これ以上反感を買うのも怖いので手を下ろし、資料室を去る。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! どこ行くんですか⁉」

「なんとなく答えが分かったからな。確かめに行く」

「確かめるって、何をですか? ギルドの本部に行くとか?」

「違う。……親父のとこだよ」


 そういや、親父もよく隠し癖があったな。


 病気が判明したのは、前回のペアパレードが終わってすぐだったよな。

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